第八十三話「困惑しておりますわ、おほほほほ」
その日、国際こんにゃくホールの大会議室が、その国際会議の会場であった。
参加する各国の控室として、小会議室、中会議室が割り当てられていた。
その中会議室3の部屋の真ん中をスライディングウォールで区切って、片方が議長控室、もう片方がアプリシア代表の控室となっていた。
「この可動パーティション、解雇まで秒読みですわよ?」
部屋を見るなりアカリが突っ込んだ。
実際はパルスの気遣いであった。
会議前はスライディングウォールはお役御免となり、天井のレールを伝って壁際の収納スペースに追いやられていた。
会議が終わったあと、アカリとハルカは急いで間仕切りを元に戻していた。
「まったく、ハルカ嬢はまたマリアさんをたらし込んで…」
「おほほほほ?
わたくしもアレは想定外でしてよ?
マリアさんに冷たくせずにあの場を丸く納める他のやり方が思いつきませんでしたの」
「それは…確かにそうですけど…」
「それに、わたくし混乱していますのよ?
宇宙人が人間から好意を向けられるなんて、何かの間違いとしか思えませんわ、おほほほほ」
物心ついた時から、思いついたらすぐ実行する性格だった。
しかも、それを為すのに十分な度胸と好奇心があった。
何より、思いつきに対して瞬時に実現可能なタスクに分解して、脳内でWBSを組み立てるというのを無意識にやっていた。
成長するにつれ周囲の評価が宇宙人になっていった。
幼稚園では「なんかすごい子ども」で終わっていた。
小学校低学年の時は「何を考えているのかわからない、嫌いではないが近寄りがたい人」だった。
小学校高学年では半分くらいの人が露骨に避けるようになった。
中学でいじめの対象になった。
まあ、思考が電波でネクラなパソコンオタク女子という客観的に正しいレッテルが正しく貼られていたので、その流れはむしろ自然であった。
小学校の時もいじめやからかいを受けることはあったが、まったく相手にしていない。
その結果いじめる側は数日で飽きた。
中学でも同様にすればよかったが…。
周囲は見て見ぬふり。
教師たちも善良な生徒たちからの通報でいじめの存在を知っていながら放置。
何かがモヤモヤしていた。
ふと掃除ロッカーを見た。
何かダンボールが乗ってる。
何だ?
椅子を近くに持ってきてダンボールの中を覗く。
「空っぽですわね、おほほほほ」
…!!
その瞬間、悪魔の閃きが脳内に突如発生した。
その発見したダンボールに穴をあけ、お年玉を崩して買ったハンディカムを固定、長時間撮影対応のバッテリーパックを接続、毎朝一番乗りで登校し録画開始、放課後に回収して自宅で編集。
いじめられて嫌がっている演技をして、自分がいじめを受けている部分を切り抜きして、加害者の顔や名札はモザイク処理、声もいかにも「音声を変えています」という感じに加工して、5分くらいにしてブログに投稿。
これを毎日繰り返して二週間。
このブログのURLを二次元バーコードにして、A4用紙いっぱいに拡大して印刷したものを職員室の扉にマスキングテープで貼り付けた。
数時間後、校長室に呼び出された。
「今すぐこのブログを消しなさい」
「炎上して加害者が酷い目に遭わないように、モザイクをかけてプライバシーはちゃんと守っていますわ。
何が問題ありまして?」
「そういう問題じゃない!」
「実はこのブログのURL、昨日内容証明郵便で教育委員会宛に送りましたの」
「……!!」
「因みに、ちゃんとrobots.txtで検索エンジンのクローラーに読ませないようにしてるし、検索エンジン側がrobots.txtを無視しても、本文を全部ソース上はエンコードしてありますので、逆SEO対策はバッチリですわ。
なのでURLを知らない第三者はまず辿り着けませんわ。
ネット上で炎上する恐れはありませんのでご安心くださいな」
その後教育委員会が動き、学校もまともな対応をしたのでブログは消したのだが、Web魚拓を掘り起こした奴がいたので、Web魚拓の運営に英語メールで削除依頼を出して対応してもらった。
「ここまで対応するのが責任ってものですわ!
ちゃんと自分で蒔いた種は自分で片付けられなくては、いじめてた側と同じになってしまいますものね、おほほほほ」
「それにしても、責任は取れないくせに中途半端な度胸と行動力だけあって、中学生って厄介な生き物ですわね…おほほほほ」
「行動力と悪知恵ありすぎでお前が一番厄介だよ」
全員が引き攣った笑いを浮かべる中、喜多あかりだけが大爆笑している。
「宇宙人の逆襲…!!」
「この宇宙人、酔わせたらもっとヤバい話出てきそう」
昔の記憶の、重すぎるエピソードが語られ微妙な空気になった忘年会の光景が脳裏をよぎった。
最後の一枚のスライディングウォールをガチャっとはめ込み、壁が完成した。
「本当に、こんな宇宙人に公衆の面前でアピールしてくるなんて、マリアさんは困った人ですわ、おほほほほ」
「それはハルカ嬢ですわよ!!!
もう、頭が痛い…」
簡易の壁の反対側で大声でアカリが突っ込んだ。




