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Libriaの迷宮   作者: まき
12/41

第2章 閉ざされた迷宮 ⑥

 (20:00〜22:00)


 制御室の空気は次第に凍りつき、黒崎と由紀の吐く息は白く濁っていた。

 懐中電灯を握る指先はかじかみ、ドアノブはびくともしない。


「やはりシステムでロックされている……中からは開けられない」

 

 黒崎が低く吐き捨てた。

 由紀は壁面のモニターを必死に見つめる。

 

「見てください……保存庫の温度もどんどん下がってます。あと数時間で、古文書もサーバーも……」


 言葉を途切れさせたその時、トランシーバーが突然、ノイズと共に鳴り響いた。


「――――く、ろ……きこえ」


 途切れ途切れではあるが、それは斎藤の声だった。


「斎藤さん!聞こえますか!!」


 黒崎がトランシーバーに向かって声を張り上げる。

 

「斎藤さん、応答願います!」

 

「く……ろ、黒――」

 

「制御室に閉じ込められています!」


 だが返答はなく、通信は無情にもプツリと切れた。

 冷気が体温を奪い、歯がカチカチと音を立てる。


「寒い……」


 由紀が自らの体を抱くようにしゃがみ込み、呟いた。


「このままじゃ、私も1,500万冊の人類の叡智と一緒に凍りつくのかしら」


「大丈夫だ。斎藤さんが必ず助けに来る」


 その確信に満ちた声に、由紀の心はわずかに落ち着いた。しかし、冷気は容赦なく二人の体温を奪っていく。


「寒い……」


 がくがくと震える肩を黒崎が引き寄せた。


「本当にすまないと思ってる……少し、我慢してくれ」

 

 

 ――やがて。鈍い金属音と共に、制御室の扉が外からこじ開けられる。

 冷気が一気に溢れ出し、斎藤と仁科が懐中電灯を掲げて飛び込んできた。


「無事か!」

 

 斎藤が肩で息をしながら叫ぶ。

 黒崎と由紀は凍えるような空気の檻から救い出された――。



 だが、エントランスに戻った四人を待っていたのは、新たな不穏だった。


「……平野さんがいないんです!さっきトイレに行くって出て行ったきり戻らなくて!」

 

 瑠奈の顔が蒼ざめていた。黒崎がトイレを確認するが人の気配はない。


 仁科、斎藤、黒崎がホール内を探し回る。しかし平野の姿はどこにもなかった。

 非常灯の淡い赤に照らされながら、誰もが息を潜める。


「もしかして、どこか外に通じる出口でも見つけて脱出したのかな」


 瑠奈が由紀に囁く。


「そんな場所があれば、とっくに……」


 突如、鋭い悲鳴が響いた。


「キャーーーー!!!」

 

 黒崎がすぐさま駆け寄る。叫び声をあげたのは、デザイナーの村上亜希子だった。廊下の暗がりを指差し、腰を抜かしている。


「あそこ、あそこに!」

 

 懐中電灯が照らし出したのは――ぐったりと横たわる人影。

 それを見た由紀が小さく悲鳴を漏らす。

 黒崎が身を屈め確認すると、思わず息を呑んだ。

 血の海の中、平野は既に事切れていた。

 首には深い傷があり、そこから今も血が流れ続けている。そのすぐ傍には壊れたドローンが落ちており、プロペラには赤黒い血液が付着していた。


「まさか、このドローンが?!」


「どうやら、そのようだ……」


 誰も言葉を発せず、重苦しい沈黙がエントランスを支配した。

 

この章では、時間経過ごと区切ってみました。脳内で『24-TWENTY FOUR 』のカウントダウンの効果音が鳴り止まないので、ジャックのセリフを黒崎に引用してしまいました。

ちなみに『月影ノ誓』の時は、『スター・ウォーズ』の気分だったので、EP3のセリフを忍ばせております。

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