第33話 12/27 狙うは海外のダンジョン
炎上・自爆系ヨウツーバー山本です。
あれからも細々と配信はしております。
モンスターの対処方法など説明はしているけど、見ている大半は探索者でもない素人だから説明が理解できないんだよな。
説明はあきらめた。とりあえず一目散に逃げろって話しにしたから、信じる人は救われるだろうな。
今年も残すところ数日。あと2か月ちょいで氾濫か。
今どの程度なのか試しにS級ダンジョン見に行ってみたけど、ダンジョンボスの熊が生成されていた。ボスが生成されるってことは、かなり間引きできていない証拠だな。
深層300階から下層150階まではモンスターでみっしり。中層もあふれてきている。上層50階で白髪の老人侍が間引き頑張っているみたいだけど、生成能力に追い付いていないみたい。このままだとこのダンジョンは3か月くらいで氾濫かな。一月くらい遅くできている様子。
ちなみにダンジョンを見に行くときには鳥さんに乗せてもらって移動していた。最近オート風圧吹き飛ばしをオフに出来るようになったらしいからお散歩代わりだ。鮫ちゃんが悔しそうだった。鮫ちゃんは肌自体が凶器だからなぁ…。ただなんか鳥さん巨大化してません?50mくらいまで育っているんだけど…。
「ピッピ~!ご主人様と一緒!飛べる!うれしい!!」
「いや鳥さん鳥さんなんでそんなに大きくなってるの?」
「ピ?ご主人様がはいしん?しているときはみんなでダンジョン潜ってた。成長期!」
「みんなも大きくなってるの?」
「うん!成長期!成長期!ピッピー!」
普段ダンジョン一層目にいるときには縮小化して30cmぬいぐるみになっていたからわからなかった。
成長期ってすごいな(現実逃避)。
最近俺の力も強くなってきてたから、うちの子も成長しているとは思ったけど予想以上だった。成長期かぁ…。
まあ気を取り直して配信のことを考えよう。
とはいえ、俺が伝えるべきことはこの一月でたいてい伝えた。信じるか信じないかは見ていた人次第だ。
俺の説明を理解できる一部の探索者などからは多少信じてもらえそうな気がするが、大半は難しいだろうな。
痛い目見ないとわからないからしょうがない。
そういえば『海外のダンジョンをつぶして俺の力を見せつけよう企画(命名合津さん)』について。
海外でも氾濫は深刻な様子。結構広範囲が氾濫によりボスモンスターに占拠されてしまっている。
ヨーロッパ、北欧、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、アジアからインドにかけてと人間の住処を奪われている。
こいつら取り巻き作ったり周囲の環境を操作するいやらしさを持っているから厄介なんだよな。それに長い間占拠されるとその分氾濫範囲も広がるし。
この国のS級ボスモンスターも狐は周辺を霧で覆い隠して気配消して襲ってきたし、熊の方は周囲の温度を下げて雪・氷で移動を封じてきた。それぞれ狐は鳥さんで霧を吹き飛ばしつつ拘束して猿さんの力をためた渾身の一撃を繰り返して粉砕、熊は猫ちゃんの熱操作であっためて周囲の道を確保したのち狐ちゃんの落雷連打と噛みつきで削り殺した。
海外の連中は地形変えるくらいの火力出さないといけないから後が厄介だな。終わってから『壊したもの弁償しろ』とか言われても困るし。
いくらでも壊していいなら遠距離から竜さんのドラゴンブレスを引きうちするよ。ただ倒しきれないと生活圏までモンスター引き連れてきちゃうことになるしな…。
いまのところ生活圏に被害なく倒せるのは南アメリカと北欧かな?アジアもいけそうだけど毒をどうするかが問題か。南アメリカなら森ごと吹き飛ばせる。北欧は闘技場?で戦うらしいから周囲への被害は気にしなくてよさそう。北アメリカは周囲がすでに焼け野原か。これもいけるな。
どこがいいかな。もう少し調べてみるか。
そんなこと考えながら自宅に戻る。
ちょうど阿武さんが来てたみたい。
「あ、阿武さんいらっしゃい。ちょうどいいところに。」
「おお山本君お邪魔しているよ。ちょうどいい…ということは何かわかったのかね?」
「ええ、S級ダンジョン見てきましたが、もってあと3か月ってところですね。」
「!そうか…そこまで来たか…」
ショックを受ける阿武さん。そうだよな、後3か月でこの国に大惨事がやってくるんだもんな。
「本当に無能と裏切者のせいでこの国は沈むか…。」
「いや氾濫が起きてバカが痛い目見たら俺も動きますよ。さすがにこの国なくなったら住むのに不自由になりますからね。」
「本当かね!!」
うなだれていた顔をガバッと上げてこちらを見る阿武さん。別に皆殺しが目的じゃない。俺の正当性が広まってくれればいい。
「でも俺を詐欺師に仕立てた連中は許しませんので。あの燈九とかダンジョン協会の副支部長とか。今は支部長か。」
「ああ、いくらでも殺ってくれて構わない。国民のためだからな!はっはっは!」
なんか言葉のニュアンスに違和感を感じるが…まあいい。氾濫が起きて俺の言うことが正しいとなれば阿武さんも総理に返り咲くだろう。その時が反撃開始だ。
そんなことを考えていると合津さんが奥からやってきた。ダンジョン入ってたのか…ってハンマー担いでる!
「合津さん合津さん!武器!ハンマー持って出てきてますよ!」
「うん?おう、うっかりしてたぜ。なんか手になじむっていうか、持ってないと寂しい気持ちになるんだよなぁ。タバコみたいなもんだな。かっかっか!」
あなたの顔でハンマー担いでいると殺人鬼も逃げるくらい威圧感あるんですが。あ、でも笑っている顔はかわいい。ハンマーをアイテムポーチにしまい込む。初級ダンジョン報酬あれにしたんだ。
「雁首揃えてどうした?」
「山本君から、S級ダンジョンは後3か月といわれましてね。」
「おう、そうかい。とうとうそこまでか…。ところでS級ダンジョンってのはどっちだい?」
苦い表情をする合津さんだが、ふと思いついたように俺に質問してくる。
「ああ、熊がダンジョンボスだった方です。東側ですね。ボスの熊も再生成されていました。」
「東っつーと清州の爺がいるところだな。」
「爺って合津さん、あなたも同世代でしょうに。」
「いいんだよ。俺はあいつみたいに白髪じゃないんでね。」
黒髪を撫でて合津さんが笑っている。
「あいつがいるってことは間引きはされている方だ。ってことはほかのダンジョンは三月持たねぇな。」
「ということは、山本君が間引きを辞めてからほとんど一年で氾濫…。山本君以外での間引きがここまでできていないとは…。」
「あの燈九今は国内より海外に目が行っているからな。探索者連中を特装隊に引き抜くくらいだ。国内のダンジョンの様子なんか気にしてねーんだろ。」
と国民にとっては絶望的な会話がされている。無能な味方は本当に救われないな。
「もう国内のことは置いておこうぜ。それより山本君、海外の氾濫制圧だがどこにするか決めたかね?」
「今のところ候補は3つですね。被害を気にせず戦えるとなると北欧、北アメリカ、南アメリカあたりです。」
「ふーむ、なるほどねぇ…」
しばらく合津さんが考え込んでいる。そんな中阿武さんが訪ねてくる。
「それらの中で難易度は変わらないのかい?北欧はボスが3体いると聞いたが。」
「うーん…多分そんなにどこも変わりはないと思うんですよね。北欧は伝え聞いた話だとボスが復活するらしいので何らかのギミックがあると思います。ただ俺にはダンジョンコアがあるのでギミックを暴くにはもってこいなんですよね。解析能力はピカイチなんで。ボス自体はせいぜい30m程度らしいですし。」
「30m級って君のテイムモンスターと同程度じゃないか。まあこっちは10体いるから数で圧倒できるか。」
「そういえば、なんか鳥さん50mになってました。成長期だそうです。」
「成長期…?」
「ほかの子たちも同じらしいです。50mの大きさだそうで。」
「せい…ちょうき…?」
阿武さんが宇宙猫になってしまった。よしほっとこう。
「山本君。もし難易度がかわらねぇなら最初に北欧に行っちゃくれねぇかな。あそこの王族は心底まじめな人たちでねぇ。」
合津さんの考えがまとまったようだ。
「北欧ですか。別に構いませんが、王族ですか?」
「あの国、フェリアル国っていうんだが、王族が国を守っているんだよ。」
「国を守る?探索者の一族ってことですか?」
S級氾濫から守っている一族ってことか。
「いや、文字通り王族が命を懸けてS級ダンジョンの氾濫を封じているのさ。一番最初に封印をした王族の能力らしいんだが、自分の生きてきた年数を封印するために命を差し出すという自己犠牲の力。それを代々継承しているのが王族なんだ。しかも女性にしか継承されないらしい。」
「マジですか…。」
壮絶な能力で絶句してしまう。
「ただ最初に封印した王族から徐々に能力が低下しているようで、最近では15年前に封印が行われたんだ。そして来年が封印の予定になる。」
「15年前で…って前回の王族の人って…。」
「たしか25歳だったと聞く。もう5分の3程度まで封印期間が短くなっているみたいでな。子供を3人ほど生んで封印のために亡くなったらしい。」
「そんな…。」
あまりにひどい。だがS級ダンジョンの氾濫を10数年防ぐために、一人が犠牲になるくらいなら安いものなのだろう。世間一般では。
「やります。フェリアル国のS級ダンジョン消し去りますよ。」
自分とは似ても似つかない境遇だ。自分から犠牲になるその精神性。俺とは大違いだ。俺は自分のために大勢が犠牲になるのを認めている。氾濫が起こるのを容認した。
なのにフェリアルの王族は自分が死ぬことでほかの人間を守ろうとする。そしてそれを代々行っている。
そんな人たちは守らないといけない。
そういった人たちが増えていけばきっと世界は良くなる。
自分の国の国民よりも他国の王族の方が生きていてほしいと思ってしまう。
決意を新たにしているところで合津さんがタブレットを渡してきた。
「んじゃあ、はいこれ。」
「なんです?ん?『フェリアル国ダンジョン討伐申請書』?」
「今時申請書もネットで簡単手続きができるんだよ。国外からでもできる優れものだぜ。」
「なんか急にお役所仕事ですね。」
「王族が封印するとはいえ国の仕事、つまりは公共事業だからな。書類・手続きは必要ってこった。」
苦笑いを浮かべて話す合津さん。
「これって探索者資格をはく奪されてても大丈夫ですかね?」
「大丈夫、どうせ空間転移で向かうんだろ?名前だけ書いておけば十分だ。いざとなれば俺たちも乗り込むさ。」
そう言ってハンマーを取り出そうとする合津さん。ヤメテクダサイ。
とりあえず封印予定は来年の3月とのこと。この国では氾濫が起き始めているころだな。
どうやら封印の儀式にほかの探索者も同行して討伐を図るらしい。申請書も一万人を超えているようだ。俺の申請書はno.11056って出た。
どうやらフェリアルの王族は慕われているみたいだね。他人事だし知らない人なのに少しだけうれしく思った。




