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【第7話:鬼柴田、近代建築に腰を抜かす】

松永久通の『生存ルート(歴史改変)』予定年表


1563年(永禄6年)


【史実】織田信長、美濃(岐阜)の斎藤氏との戦いを本格化。

【今世】←今ココ! 久通(11歳)、大和の鉄鉱山から得た鉄と、火山灰・石灰を調合し、日ノ本初の『コンクリート(セメント)』の開発に成功。


【今世】将来の爆死予定地である『信貴山城』の近代要塞化工事を着工。



「……若殿。本当に、これで城が建つのでございますか?」


大和の信貴山城、その本丸の工事現場にて。老臣の柳生が、信じられないといった様子で、木枠の中に流し込まれる「灰色のドロドロとした液体」を見つめていた。


「柳生、建つんじゃない。これで建てる城は、鉄砲の弾丸はおろか、大砲の直撃にすら耐える『未来の盾』になるんだよ」


私が開発したのは、現代の建築の基礎であるコンクリート(セメント)だ。


この時代、日ノ本には幸いにも石灰石と火山灰が豊富にある。


これらを前世の化学メーカーの知識を活かして最適な比率で配合し、高温で焼いて粉砕すれば、水を混ぜるだけでカチカチに固まる魔法の泥が完成する。


さらに、ただ固めるだけではない。


鉄鉱山から切り出した鉄の棒を網の目のように組み、その周りにコンクリートを流し込む。そう、現代のビル建築でお馴染みの『鉄筋コンクリート(RC構造)』である。


史実の信貴山城は木造だ。


だから1577年、父が火薬に火をつければあっけなく炎上し、崩壊した。


だが、この城全体を強固な鉄筋コンクリートの「近代要塞」に変えてしまえばどうだ?火薬がちょっとやそっと爆発したところで、城はびくともしない。


物理的に爆死バッドエンドを無効化する、究極のフラグ折りの始まりだった。


「ふん。大和の神童とやらは、今度は泥水で熱心に土遊びか。織田の兵なら、このような泥の壁、槍一突きで粉砕してみせるわ」


背後から、地響きのような野太い声が響いた。


振り返ると、腕組みをした巨漢が、鼻で笑いながら工事現場を見下ろしていた。


織田家屈指の猛将にして、お市の方の守り役――『鬼柴田』こと柴田勝家である。


隣には、毎日届くピンクの石鹸ですっかりお肌がツヤツヤになったお市の方も、興味深そうに佇んでいる。


「これは柴田様、お市様。土遊びとは心外な。これは我が松永の、最新の防衛技術にございます」


私が営業マンの笑みを浮かべて挨拶すると、勝家はフンと鼻を鳴らし、自慢の剛槍を構えた。


「若造、ならば儂がその『かがく』とやらを叩き潰してやろう。信長様はそなたを買い被っているようだが、戦は血と肉でするものだ。このような灰色の泥壁、我が槍の錆にしてくれる!」


勝家は容赦なく、完全に固まったコンクリートの試作壁に向かって、渾身の力で槍を突き出した。


プロの戦国武将の全力の一撃。


並の木門なら粉々に砕け散る威力だ。


――ギィィィンッ!!!!鋭い金属音が響き渡り、火花が散った。


次の瞬間、勝家の顔が驚愕に染まる。


「なっ……な、何だと……!?」


コンクリートの壁には、わずかな白い引っ掻き傷がついたのみ。


逆に、勝家の愛槍の穂先が、衝撃で完全にへし折れていたのだ。


勝家の両手は、凄まじい衝撃波でガタガタと震えている。


「ば、馬鹿な……! 石垣ですらない、ただの泥の壁だぞ!? なぜ、これほど硬い……!? 槍が通らぬどころか、折れるなど……!」


勝家が茫然自失となる中、私はフッと勝ち誇った笑みを浮かべた。


「柴田様、これが『鉄筋コンクリート』にございます。石のように硬く、木のように形を自由に変えられ、火を放っても絶対に燃えませぬ。これで作った城は、日ノ本に存在するいかなる軍勢をもってしても、絶対に攻め落とせません」


「……絶対に、攻め落とせない城……」


後ろで見ていたお市の方が、息を呑んだ。


彼女の美しい瞳が、再び私への「大いなる戦慄(勘違い)」へと染まっていく。


「久通……そなた、まさかこの『絶対に燃えぬ無敵の城』を大和に築き、いずれ兄上の織田軍を迎え撃つ算段なのか……っ!? 兄上と契約を結んだのは、この要塞を完成させるための時間稼ぎ……!」


「な、何だと!? 松永の若造、やはり織田を裏切る気か!?」


槍の穂先を失った勝家が、血相を変えて私を睨みつける。


(待って! 違うの! 俺はただ、将来父親がここで爆発した時に、城が巻き添えで崩壊するのを防ぎたいだけなの!!! 織田軍と戦う気なんて1ミリもないから!!!)


「お市様、柴田様、誤解です! 私はただ、織田家という偉大なクライアント(信長様)をお守りするため、どんな敵にも抜かれない『不落の補給基地』を前線に用意しようと――」


「黙れ、久通!」お市の方は顔を真っ赤にし、私の言葉を遮った。


「そなたが、どれほど底知れぬ謀略を隠していようとも、私は織田の目! その無敵の城の秘密、必ず私が暴いて兄上へ報告してみせるわ! ……あと、それはそれとして、今日の薔薇の石鹸、まだ部屋に届いておらぬぞ! 早く手配せよ!」


そう言って、お市の方はツンとそっぽを向いて歩き去っていった。


勝家も「お、恐るべき執念の親子め、油断ならん……」とブツブツ呟きながら、折れた槍を持って後を追っていく。


こうして、最新の近代建築チートは、またしても織田家に「松永、いつでも謀反を起こせる無敵の核シェルターを密造中」という最悪の勘違いを生んでしまった。


生存ルートの年表は、物理的には頑丈になったものの、政治的にはさらに危うい方向へと狂い始めていくのだった。


(第7話・了)

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― 新着の感想 ―
仮にも主君の妹君が嫁ぐかもしれない男にあまりにも無礼な振る舞いじゃない権六…?
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