キュウビの恋
長い、永い悠久の時間、ようやく意識が外に漏れ出す頃、彼はやってきた。
キュウビ『ほー、楽しそうに遊んどるわ。童は無邪気よな。』
最初はそんな感じ、なんとも可愛らしいものだと眺めていた。
キョウシロウ「こん中、雷神がいるんだろ?どんなんかな?」
弟「やっぱ、かっこいいんじゃない?」
キュウビ『タワケめ、ワシしかおらんぞ?』
キョウシロウ「?雷神って、もしかして女神様なのかな?」
弟「どうして?」
キョウシロウ「んー、なんとなく?そんな気がした。」
友達「お~い、鬼ごっこしよーぜ〜!」
キョウシロウ&弟「おーう!」
駆けてく童に声を掛ける。
キュウビ『おうい!ここからだしてくれ〜い!』
キョウシロウは振り向いた。
キョウシロウ「?何だ?」
気づいてくれたか?!
キョウシロウ「変なの?!」
キュウビ『アヤツなら、ここから出してくれるやもしれん!』
彼はすくすく成長していった。たまに、いたずらがバレて怒られたり、それで泣いてたり。
笑ってたり。
キュウビ『かわいいのう。食べてしまいたい。』
中学とやらに上がった頃に境内で告白して振られたりもしとった。
キュウビ『まま、そう気を落とすな。オナゴならいくらでもおろうて。』
キョウシロウ「俺はだめなやつだ……!弟にも負けてばかりだ!くそ!」
そんな彼に同情していたのかもしれない。
腐れ貴族どもの特権階級だけ見た政治。平安末期の混沌の時代、政界に入って世直し。
そう志して、鼻息荒く宮中に入ったはいいモノの、政敵に目をつけられ、
追い詰められ、
体を裂かれて、こんな所に封印された我が身とを思いやる。
キュウビ『キョウシロウはいい子じゃないか?きっと立派になると思うぞ?』
キョウシロウ「そ、そうかな?」
キュン!
初めて会話が成立した嬉しさもあったのかもしれない。
執着。
ワシは、私は彼に恋をした。
彼が小さい頃から、ずっと見守ってきた。暇を持て余し、保護者を気取ってたのかもしれない。
大学受験に挫折した時は励ました。
陰陽師になれたときは喜びあった。
そして、
キュウビ『私を求めよ。』
フシミ「誰だ!」
キュウビ『つるぎ石だ。』
彼はきてくれた。助けて。と、私を求めてくれた。そんな彼の役に立ちたい!そんな一心だった。
封印は解かれた。ようやく、私は外に出れた。これからは彼と一緒に……
ボン!
フシミ&キュウビ「うわー!なんじゃこりゃー!」
キュウビ『なんでこうなるんじゃろう?運命とはほとほと思い通りにならんものよ。』
フシミ「何、ブツブツ言ってんだよ?ほれ!」
どんぶり茶碗てんこ盛りのご飯をくれる、ありがたい。
キュウビ「キョウシロウはそれだけでいいのか?」
フシミ「俺はコレで普通なんだよ。」
女茶碗ではないか?あれは使わんのか?
食器棚の男茶碗が目に入る。
フシミ『アジ・ダカーハの給料が入るまでの辛抱だ。』
ふむ、節約家じゃ、しかし、それで倒れられては申し訳がたたんぞ。
キュウビ「今度から、あ、あの茶碗でよいぞ。」
食器棚の男茶碗を指さす。
フシミ「たりね〜だろ!遠慮してんじゃねーよ!お前が頼りなんだから!」
キュウビ「むむむ、そうか。……いただきます。」『あー、申し訳ない。』
自分の痩せの大食いの性分が憎らしい。しかし、うまい。食うのが楽しくて仕方がない。
フシミ「それ食ったら出かけるぞ。」
ハッ!デートじゃ!
キュウビ「ほう!どこに行くのじゃ!?」
フシミ「お前のパンツを買いにだよ。」
ボン!
一気に顔が赤くなる。胸の鼓動が今にも張り裂けそうだ。
フシミ「子供用だから、多分、は、恥ずかしくね〜ハズ……」
ショボボ……
幼女としか見てくれん。キョウシロウの奴はワシの保護者のつもりなのじゃろう。
やはり、完全に封印を解く必要がある。
フシミイナリにワシがあったとなると、残りの封印も稲荷神社か?誰ぞ手を貸してくれるものがおれば……
夜な夜な、ゲントの稲荷社を探す。小さい所には、予想通り、ワシが封印されてるであろう殺生石はない。とすると、相当でかい稲荷社なのか?
キュウビ「……3大稲荷社。フシミ、トヨカワ、?最後のは読めん。」(ポチポチ)
フシミ「何、人のスマホで検索してんだよ?ほれ、早く行くぞ!」(ヒョイ)
キュウビ「あー!ケチケチするでない!最後のは何と読むのじゃ?!」
フシミ「えー?カサマ?どこも稲荷社はうちの親戚だよ。」
キュウビ「そこにワシの残りの体が封印されてるやも知れん!」
フシミ「あっそっか?!そうかも!」
キュウビ「パワーアップできるぞ!」『ワシも元の姿になれる!きっと、キョウシロウもワシを異性として振り向いてくれる!』
葛の葉が母をやってるのだ。私もツガイになれる!
コッチを見ろ、キョウシロウ!私を見て!
フシミ「あー、でも遠いなぁ、給料入ってから行くかな?」
ズルッ
キュウビ『貧乏性よなぁ。』「きっとだぞ!?」
フシミ「おう!」
ジャヒー「はい。」
アンリ「カメラ?撮影してこいと?」
ジャヒーは夫が当たり前な質問をしてきたのでイライラしだした。片眼鏡を胸のポケットに仕舞う。
ジャヒー「私が現場に行くわけないでしょ?」
おかっぱ、長い前髪ををかき上げジャヒーは机の上の発明品を持ち上げて、出来を眺めている。しびれを切らしたアンリがジャヒーの隣に詰め寄る。
アンリ「いやいや、幻術だからさぁ、その目で見ないと!」
ゲシッ!
アンリ「おう!?……こ、コドモノ教育に……。」
部屋の真ん中でお人形遊びをしていた。娘たちが夫婦喧嘩をまたかと言う顔で見る。
タルウィ「またやってる。」
アンリに似た黒髪ストレートのセミロングを右耳にかけタルウィは言う。
ザリチュ「痛そう。」
赤毛のツンツンのショートカットのザリチュが頭を掻きながら言う。
ジャヒー「大丈夫よ。お母さんとお父さんの普通のスキンシップなんだから!」
アンリ『プレイは夜だけにしてくれ……』
ゲントの浄水施設、他県の大きな湖から山を通した長いトンネルから水をひいて、ゲントの人々の飲料水をまかなっている。
セイメイ『見晴らしは言い分、発電施設より守りやすいか?』
眼下には動物園も見れる。その奥には博物館。大きな鳥居も。浄水施設の下はちょっとした観光スポットだった。
セイメイ「大きい施設だ、ツーマンセルで行こう。」
ツナ「承知。」
キントキ「じゃ、俺はツナの旦那と行くか。」
サダミツ「スエタケ、行くぞ。」
スエタケ「おう!」
雷光四天王がそれぞれ、持ち場へと向かう。
その後姿をセイメイは腕を組んで眺めて、考えていた。
セイメイ『やはり、あと一人は欲しいな。エンノ様も前鬼と後鬼だけでは人手がたらんだろう。』
陰陽師でなくてもいいから、せめて式神が欲しい。
セイメイ「神降ろしはバンコ様しかできんし、かと言って、キョウシロウのようにそこらの妖怪を従えるのはリスキーだ。」『神降ろし、頭を下げて頼んでみるか……』
アジ・ダカーハ拝殿
グフロール「千里眼のグフロール!以下ジハードン突撃隊、準備整いました!イブリース様!シャイターン様!」
拝殿、一杯にジハードン達がせわしなく蠢いている。
シャイターン「お前の千里眼、頼りにしているぞ?強行偵察というやつだ、無理はするな。」
イブリース「いいか、グフロール。危なくなったら逃げるのだぞ?怪人は貴重なのだ。命を粗末にするなよ?」
グフロール「ありがたき、お言葉!身に沁みまする!」
シャイターン「では行くがいい。いい報告を期待している。」
グフロールは配下のジハードンを引き連れてアジ・ダカーハの拝殿を後にした。玉座からして右の壁側にアンリとその妻のジャヒーが控えていた。
イブリース「アンリ、そちらは奥方か?」
ジャヒー「ジャヒーと申します。娘達や夫がいつもお世話になっているみたいで。」
アンリ『猫かぶってんなぁ……い!』(ギュウ!)
アンリの尻タブの皮がギリギリと音を立てる。
ジャヒー『聞こえてるわよ、アナタ。』
アンリ『ぐぉぉ……』
シャイターン「名工にお目にかかれて光栄だ。私はシャイターン、こっちはイブリース。」
イブリース「貴女の発明品でお世話になっているのはコチラの方だ。おかげで怪人たちの住み分けができた。」
シャイターン「教団の責任者として礼を述べさせてもらう。ありがとう。」
拝殿を後にして、先を行くジハードン達を早歩きで追いかけながらジャヒーはアンリに質問した。
ジャヒー「ねぇ?アンリ。彼らには言ってないの?」
アンリ「もちろんさ。」
ジャヒー「ふーん。いい性格してるわねー、相変わらず。」
帽子と前髪で隠れたアンリの口元はニヤッと不敵に歪むのだった。