十年後にはね
「僕に新しいお母様をありがとう、フォルス。」
「悪かったよ。俺もどうしてそんな展開になるかと頭を抱えるばかりでさ。駄目だ。あの感性と感情だけの人々とは交渉って出来ないんだな。」
「何が起きたの?」
「いや、普通に。君の親父さんに適当に学校は作らせてさ、そこの講師としてシンディを雇うことを提案しただけだよ。職を与えられた彼女はフリーのまま、この国で堂々と生きていけるでしょう?君が彼女に惹かれているなら、もう少し付き合いの時間も稼ぐことも出来る。」
そこでフォルスはハアアアアと嫌そうな大きなため息を出した。
「何が起きたの?」
「――歌い出したんだ。シンディが!喜びの歌なのか知らないけどね、思い出の歌を!そうしたらエミールが彼女の腕を引いて音楽室に飛び込んで行ってね、ああ!なんか新曲が思い浮かんだって弾き出したんだよ。ピアノ!」
フィッツはその後は何となく想像がついた。
恐らくも何もエミールが作曲が出来るようになったとシンディに有頂天になり、そのまま彼女にプロポーズまでしたのだろうと言う事だ。
「君達さ、もう少し親子で仲良くしなよ。」
「急に、どうしたの?」
「いや、だあってさあ、大臣様がシンディとの結婚を決めたのは、息子の君に女を取られたくない一心でしょう?」
「え?シンディに魅力があったんじゃないの?父は本気で作曲をしてこなくなっていたからね。僕が軍人になってから。」
「君が軍人として出兵することを咎める交響曲か?あれが反戦曲だとバッシングを受けたからか?なんだかんだ言っても君を愛している方なんだよな。」
そこでフィッツはふふんと笑った。
「観艦式で僕がマーチの部分を勝手に演奏したでしょう?あれ、僕のアレンジという編曲。そっちばっかり巷で流れるようになったってね、不貞腐れて作曲をしなくなっただけなんだよ。ざまあみろ!」
フォルスはフィッツを見つめ返し、はああと大きく溜息を吐いた。
「どうしたの?」
「君が幼い少年に見えてさ。そういえばあと十年後でも君は35歳か。」
「君は38か。本気でお兄様と呼ぶことになるのかな?十年後は?」
「さあてね。貴族じゃないが首都の大金持ちな実業家の息子、アラン・ジョーンズ君が有力候補だと俺は思うけどね。」
「誰?それ?」
「うん。まだ十三歳のハンサムな男の子。妹の面倒もよく見る素敵な子だって、ニーナが以前に褒めちぎっていたからさ、調べたんだ。」
フォルスは無邪気な笑顔をフィッツに向けたが、フォルスがその少年の成長をきちんと見守りそうだとフィッツの背筋に悪寒が走った。
「うーん。残念なお兄様をお持ちの方は、そもそも僕の伴侶の候補にはなり得ないと思い直す事に致しました。」
「何それ。」
「ニーナ様の真似。君はほどほどにしないと、大事なニーナの恋路こそ台無しにしかねないぞ。」
「十年後にね。」
「十年後に。」




