五つ星なホテルにて
ニーナとシンディはラバーナでは一番大きくて一番高級なホテル、クワルツ・ド・ロッシュホテルにフィッツによって宅配された。
シンディはホテルには何度か招かれて歌を歌った経験もあるが、ここまで高級なホテルに足を運んだことなどない。
白亜の城のような五階建ての巨大な建物は優美であり、エントランスなどはそこらの貴族が用意できない程の立派なお仕着せを来たベルボーイが立っている。
宮殿を警護する警備員のような男達だって目のつくところに立ち、ホテルの品位に合わない客を追い出そうと目を光らせているのである。
シンディは完全に尻込みしていた。
自分はやっぱり安酒場の歌手でしかないのだと、彼女は萎んで落ち込んだ。
すると、ツンと背中を突かれた。
「きゃあ!」
小さく叫んでしまったが、背筋はしゃっきりと伸びていた。
そんな彼女を楽しそうな目で見下ろしているのはフィッツだ。
シンディは今度は違う叫びをあげそうだった。
「な、ななな、何をするの!」
フィッツは優しく笑った。
「猫背。胸を張りなさい。まあ、僕にもっと撫でられたいのなら、いいよ、君。人目のない所でゆっくりと期待に沿ってあげよう。」
「まあ!場所を変えなくともごゆっくり。わたくしは迷子になることにしますわ。それでよろしいのよね。」
まるでデビュタントの付添人のようにニーナがフィッツとシンディに横槍を入れたが、ニーナのセリフの不可解さに、シンディは彼女が何を言っているのかと首を傾げるしかない。
「うーん。大丈夫?怖かったら止めて良いんだよ。」
何事もなくフィッツが言葉を返している事で、ニーナとフィッツの二人で悪巧みをしていたのだとシンディは気が付き、彼等は一体何をする気なのかとまじまじと見つめた。
そして先程のニーナの、迷子、という言葉から、どうしてニーナが人形みたいなドレスを着せられているのか気が付いた。
普段よりも幼く、人形みたいに頭が空っぽに見える幼児、という演出なのだ。
「あなた方は、いいえ、ニーナは何をするつもりなの?ニーナは子供でしょう。」




