お出かけ前には身だしなみ
フィッツは嘘を吐かなかった。
シンディをシャンタルに会わせるためにお出掛けをすると言い、シンディにその準備という着替えまでさせたのだ。
彼はシンディを伯爵令嬢ぐらいに着飾らせた。
彼が着替えろと手渡した今はやりのハイウェストドレスは、小花柄で後ろでリボンを縛るという可憐なものだった。
彼女は受け取りながら自分には似合わないと思ったが、着替えて部屋から出てエントランスの大鏡に映った自分を見て、自分がとても美しいと愕然とした。
「今日はカツラはどうする?僕はその短い髪の君こそ素敵だと思うけれど。」
フィッツも何気なく大鏡に自分を映し、自分のスタイルの最終点検をし始めたが、そんな彼がさらっと言った台詞にシンディは頬がかあっと熱くなった。
昨夜はフィッツとフィッツの家に戻ってきた後、髪を洗ったついでに彼女は自分の薄緑色になった髪を自分で切り取ったのだ。
頑なな自分を切り取っていくような、カタルシスを彼女は髪を切り取るごとに感じていた。
そして、色替りした箇所を全部切り取ったからか、男性よりも短い修道女のような髪形になってしまったが、髪を短くしたことで自分が小柄に見えた事に驚いてもいた。
今だってその髪型が好きだとフィッツに褒められているである。
「君はうなじが奇麗だね。背が高い女性は手足も首筋も綺麗だ。」
「まあ、そんな目でしか女性を見れないなんて、嫌らしい。」
シンディとフィッツの間に、誰よりも美しい子供がぴょこんと姿を現した。
彼女もついてくるつもりであるようで、だが、いつもと違い、真っ白なのにビスクドールが着る様なゴテゴテしいものを纏っていた。
「君は酷い。普通に褒めているだけでしょう。ぴょこぴょこ小さな頭を動かす君が小さなキノコみたいですっごく可愛いって、僕は褒めようと思っていた所なのに。ふう、今日も君を褒める気力を失ってしまったよ。」
「あなた?女の子がキノコと呼ばれて喜ぶとお思い?それに、今日は真っ白なわたくしですわ。おしゃれしても真っ白なキノコと呼ばれるなんて!」
シンディは自分とフィッツよりも、ニーナとフィッツの方が夫婦のような会話だと首を傾げた。
フィッツは小生意気なニーナにハハハと本当に楽しそうな笑い声をひとしきり上げると、ニーナにはやはり人形のような帽子を被せ、シンディにも大きなつばのある帽子を被せた。
帽子のつばは透明なリボン素材を重ねてあるライラック色で、造花の花やリボンも沢山飾ってあるというものだった。
「まあ、シンディは春を呼ぶ女神様みたいですわ。」
「うん、そうだね。凄く綺麗だ。そして君も、ウサギさんみたいで凄く可愛い。」
「まあ!キノコよりも良い褒め方ですわね。あなたの趣味がちょっと残念だから誉め方が残念なのも仕方が無いのですね。」
「あら、フィッツの趣味ってどういうこと?」
「あら、普通に今日の衣装はフィッツの見立てなんですのよ。わたくしたちはフィッツの着せ替え人形ですの。」
「まああ。どうして今日はあなたの好みのお洋服なのですか?」
フィッツは鏡のなかの自分を見つめるシンディと目が合うと、彼女に軽く片眼を瞑って見せた。
シンディは胸がどきんと高鳴った。
「今日会う大物にね、君達は僕の大事な人だよと知らしめるため。軍隊の制服みたいなものだと考えて。」
「あら、軍隊の制服は攻撃しても良い兵隊と攻撃したら駄目な一般人を見分けるための物じゃなくて?」
「ニーナ。知識をひけらかし過ぎるのは男も女も嫌われるぞ。」




