表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/51

コミックス1巻発売記念 番外編SS

転生聖女の異世界スローライフ、KADOKAWAフロースコミックよりコミックス1巻発売しました。

たくさんの応援ありがとうございました!

 のどかな田園地帯にある一軒の農家に、大きな声が響いた。


「お父上、スーリアを妻に……」

「誰が『お父上』だ!」

「ベン殿。スーリアを妻に……」

「スーリアは嫁にやらん!」


 通算十二回目の結婚申し入れに対し、今日もスーリアの父──ベンの反応は厳しかった。アルフォークはがっくりと肩を落とす。


「アル。せっかくだからお花でも見ていってよ。昨日、アストロメリカの花が咲いたの!」


 スーリアはアルフォークを元気づけようと、手を引いて庭へ連れ出す。スーリアの庭園の一角に、少しユリにも似た形をしたピンク色の花が咲いていた。


「綺麗だな」

「でしょう? 先週、苗を見つけて買ってきたの」

「先週? 相変わらず、スーの花は育つのが早い」


 アルフォークは花を眺めながら、くすくすと笑う。そのとき、遠くからジャバッと水を流すような音が聞こえてきた。


「何の音だ?」

「多分、父さんが水やりをしているのよ」


 スーリアはベンの農園のほうを見る。両側にバケツが括りつけられた棒状のものを肩に背負った父が、せっせと水を運んでいるのが見えた。


「手伝ってくるよ」

「あんなに冷たくあしらわれたのに?」

「それとこれは別問題だろう? 大変そうにしている人がいれば、助けるものだ」


 アルフォークはそれだけ言うと、ベンのほうへと走り寄っていく。何かを話していたアルフォークが手をかざすと、あたりに優しい雨が降り注いだ。


 スーリアはふたりの姿を眺めながら口元を綻ばせる。

 こういうところも含めて、素敵な人だと思う。


「父さん、あっという間に終わってよかったね」


 いたずらっぽく笑いかけると、ベンはばつが悪そうな顔をした。


「ああ、助かった」


 ぶっきらぼうそう言うと、足元にあったバケツ付きの棒をかたずけようと歩き出す。しかし、すぐに立ち止まって後ろを振り返った。


「あんた、昼ご飯は食べたのか?」

「昼……? まだですが」


 アルフォークは突然の質問に戸惑ったように答えた。


「じゃあ、食べていくといい。ここで育てた野菜をたくさん使ってる」


 一瞬呆気に取られていたアルフォークだが、すぐにその顔に喜色が浮かんだ。


「いいのですか? お父上!」

「お父上じゃないと言っただろう!」


 ベンの大きな声が再び響く。

 スーリアはふたりのやり取りを聞きながらくすくすと笑う。


 アストロメリカの花言葉は『幸い』。

 確かなその未来を感じさせるような、穏やかな日の出来事だった。


〈了〉


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックス発売のおしらせ

「転生聖女の異世界スローライフ①」KADOKAWAフロースコミック様より好評発売中
i675254

よろしくお願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ