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闇雲怪奇譚  作者: くろすけ。
9/13

8 〜トイレの花子さん〜

             8



 「おい、マジでふざけんなよ、青山。 夜中に大声出すなって母ちゃんに教わらなかったのか。とんだご近所迷惑野郎だぞ————」

 闇雲光太郎と青山裕佳梨は、神童学園旧校舎の一階廊下を突き進んでいた。

 古い木造の建物のせいなのか、床は所々「ギシッ、ギシッ」と音は鳴るし、隙間風が突然、背後を通り抜ける感覚は何とも言えない。

 「えーと・・・・・・ま、まぁいいじゃないですか。無事に校内に入る事も出来ましたし。ねっ!」

 苦笑いで必死に取り繕う裕佳梨に、闇雲は呆れた表情を返しながら、右手に持った懐中電灯を廊下の奥に向けた。

 裕佳梨も自分のスマホのライトを使ってみたのだが、圧倒的にパワー不足だったために闇雲の照らす明かりに便乗させてもらっている。

 「はぁー、俺の認識が甘かったわ。お前、小学校の時にも大声出してイジメっ子を威嚇したんだってな・・・・・・女ゴリラか。ドラミングしろよ、このやろう」

 「ちょっ、女の子に向かってゴリラとはひど————って、アレ? 何で私の小学校の時のこと知っているんですか?」

 「あ」

 今回の事件に関しては、包み隠さず話したが、小学校の話などはしていないはずだが。

 「えっとー・・・・・・おっ、暗いから足元に気をつけろよ!」

 ————んっ? はぐらかした?

 明らかに動揺して怪しいが、今は事件の解決が先決と思う事にして一先ず考えるのをやめる。

 「闇雲さんこそ気をつけて下さいね。昼間は眼鏡をしていたんだから、目が悪いんですよね? それとも、今はコンタクトなんですか?」

 ————出来れば眼鏡にしてほしいです。眼鏡フェチなので。

 「あぁー、別に目が悪ぃから掛けてたわけじゃねぇよ。アレはむしろ〝見えなくさせる〟ためのもんなんだよ」

 「?」

 「あの眼鏡のレンズは特殊でな、霊気を遮断する効果があるんだ。分かりやすく言えば、オバケが見えなくなる代物なんだ」

 「・・・・・・!」

 あまりにも、とんでもない事をサラッと言われてしまったので、裕佳梨は戸惑ってその場に立ち止まってしまった。

 「・・・・・・まぁ別に、信じなくてもいいけどな。とりあえず行くぞ」

 「あ、え————はい」

 そう言った彼の表情がひどく寂びそうな感じがしたが、闇雲が廊下端の階段を昇り始まってしまったので、とにかく後を付いて行く事にする。




 旧校舎は年月を感じさせる汚さを見せており、天井には蜘蛛の巣。床のあちこちには山のような埃が溜まっていた。そんな室内が暗闇で覆われていて異様な雰囲気を放っており、霊感など全くなくても何かいるのではないかと思ってしまうほどだ。

 そんな裕佳梨とは対照的に闇雲は、颯爽と階段を昇っていた。

 場所が違かったら、映画のワンシーンのように見えたのだろうが、どう見ても今の感じはホラーだった。

 「闇雲さ〜ん、待って下さいよぉ」

 「怖いなら帰ってもらって結構ですよー」

 「か、帰らないです! もう、ちょっとは優しくしてくれてもいいじゃないですか」

 先ほどの寂しそうな表情は跡形もなく消え去っていたので少し安心した。

 「ったく、呑気なもんだな。 自分の通う学校のトイレに花子さんがいるかもしれねぇのに」

 「う〜ん、本当に旧校舎には花子さんがいるんですかね。未だに実感が湧かなくて」

 幽霊に人間が殺されるなんて、漫画の中でしか起こらない事だと思っていたのに————。

 その裕佳梨の疑問に答えるように、闇雲はズンズン進みながら口を開く。

 「ここに来る前に姫奈さんが、この学園について色々と調べてくれたんだけど、みんながよく知っているトイレの花子さんがいる————とは断定出来ねぇけど、幽霊はいるぞ」

 「えっ!」

 断言したその言葉に驚き思わず咽せそうになるのを懸命に抑えて、裕佳梨は何とか言葉を発した。

 「ど、どうゆう事ですか? 何か根拠でも」

 その飛びつかんばかりのリアクションに対し、闇雲は涼しげな顔で、階段の踊り場で立ち止まりコチラに振り返った。

 「霊が出るっていうのは、何かしらその近くで原因になる出来事があったって事だ。 別に突然ゴキブリみたいに湧いて出て来るわけじゃねぇからな」

 その例えはどうかと思ったが、話を先に進めたかったのでスルーする事にする。

 「今回、赤井絵美が殺されていたのは、この旧校舎3階の女子トイレだ。しかも、その前には一年女子が同じトイレで怪我を負う事件も起きていた。その被害者の証言によって、この学園ではトイレの花子さんの噂が広がったわけだが、ここで気になるのは、一年女子が見たという〝セーラー服姿の女子〟————こいつを幽霊だと仮定して、昔この旧校舎で何か起きていないか調べてみたら————」

 一瞬、間を置いたのちに再び闇雲は口を開く。

 「四十五年前、この神童学園旧校舎で〝ある殺人事件〟が起きていた」

 「殺人・・・・・・事件・・・・・・ですか」

 「被害者は、当時この学園に通っていた女子生徒。その子は、ある日の放課後、友達数人と校内でかくれんぼをして遊んでいたそうなんだが、他のメンバーが夜になっても、その女子生徒をどうしても見つけられず、しまいには保護者や警察も巻き込んでの大捜索になったらしい・・・・・・」

 何となく、この後の展開は予測できたが、無意識に口が開いてしまった。

 「それで、その女子生徒は————どこに?」

 二人が立ち止まっている階段の踊り場には小窓が設置してあり、闇雲はその薄汚れた窓ガラス越しに闇に呑まれ真っ黒に染まった校庭を見つめていた。

 「問題のトイレで発見されてたらしい・・・・・・体中切り刻まれて、出血多量で亡くなってたってよ」

 「————」

 裕佳梨は踊り場から見える廊下の奥に目を向ける。

 そこにある女子トイレで、すでに二人の人間が殺されたのだと思うと、背後に冷たいものが走った。

 この先、本当に自分は足を進めていいのかと不安になるが、絵美を殺したものを知るまでは引けないと、心に言い聞かせる。

 「その子を殺した犯人は・・・・・・」

 「見つかってねぇよ。その後の警察の捜査も実らず、事件は迷宮入りしたらしい。そうゆう理由から今回のトイレの花子さんの噂に繋がると、俺は思ってる」

 「じゃあ絵美ちゃんを殺したのは、やっぱり————」

 「断定すんなって。昔、殺されたその子が犯人だとして動機は何だよ?」

 「あっ」

 「この事件、単純にトイレの花子さんが犯人だとは思えないんだよな・・・・・・」

 「それは、どうしてですか?」

 「分からん。強いて言うなら————カン」

 「カ、カンって・・・・・・」

 そんな彼は、根拠の無い言葉を言い終えると、懐中電灯を頼りに再び廊下を歩き出した。

 「————まっ、必ずケリは着けてやるから、安心しとけ」

 闇夜を貫く一筋の光が、裕佳梨の心を勇気付けてくれた気がした・・・・・・気のせいかもしれないけど。


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