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闇雲怪奇譚  作者: くろすけ。
8/13

7 〜トイレの花子さん〜


                 7



 昼間は夏に近付きつつあり、若干の蒸し暑さを感じさせるが、夜はまだ少し肌寒さが残っていて、着て来たパーカーの袖を必死に指先まで伸ばしてみたが、効果は期待出来そうになかった。

 そんな深夜2時の神童学園の校門前に立った青山裕佳梨は、そびえ立つ建物に少しばかり恐怖を感じていた。

 夜の学校と言えば怪談の定番だ。子供も大人も関係なく怖いものは怖い。

 夜風を浴びて揺れる木々。誰もいないはずなのに、誰かがこちらを見ていそうな教室の窓。その姿を闇に覆われた校舎————その全てが裕佳梨をこれから地獄に引きずり込むような気がしてしまう。

 「お〜い、何やってんだ?」

 「きゃっ!」

 急に背後から声を掛けられた裕佳梨はビックリし過ぎて、その場に尻餅をついてしまった。そんな彼女の前に現れたのは昼間相談に行った家の主人、闇雲光太郎だ。

 「おいおい、コッチの方が色んな意味でビックリしてるんだぞ————」

 そう言った彼は、さりげなく裕佳梨に手を出して地面から立たせてくれた。おぉ、意外と紳士なんだ・・・・・・顔だけの男かと思って、ごめんなさい。

 「ん?」

 「いえ、なんでも!」

 そんな失礼な考えを振り払いつつ闇雲の姿を見ると、昼間の白シャツとジーンズ姿ではなく、全身真っ黒————というか礼服? SPにも見えるけど、とにかく黒スーツ姿だった。それに背中には、黒い棒状の・・・・・・そう。よく剣道部が竹刀を入れるケースを目の前の彼は、背負っていた。

 何だか、昼間とはギャップがあり、不思議な感じだが、これだけは分かる————。

 「スーツ・・・・・・格好良いですね」

 ————あっ、心の声が。

 「はぁ? 何言ってんだ? これは仕事着なんだよ! 正装! 戦闘服!」

 「?」

 これ見よがしに胸を張ってアピールする闇雲は、物凄く子供っぽくて、完全に〝眼鏡が似合う知的なお兄さん〟という印象は崩れた。

 ————あれ、そういえば。

 「昼間に掛けていた眼鏡は、どうしたんですか?」

 無くても整った顔立ちなのだが、眼鏡好きの裕佳梨にしたら少し寂しい。

 そんな欲望に気が付いていない闇雲は、背中に背負っていたケースを下ろし、校門に立てかけてから肩を回していた。

 「アレを掛けていると、仕事にならないんだよ————じゃなくて、こっちの質問に答えろ!」

 ガミガミと噛み付いてくるこの感じは、なんだか子犬と戯れている感覚と似ている。

 なんか可愛いかも・・・・・・。

 「えっとー 何で君がここに居るわけ? こっからは俺の仕事なんだけど」

 呆れ顔で髪を掻きむしっている闇雲を見て、本来の自分の目的を思い出した裕佳梨は、その場で姿勢を正す。

 「私も、同行してはダメですか?」

 依頼を受けてくれた闇雲は早速、夜にでも神童学園に行くと話していた。その時は「お願いします」と言ったのだが家に帰ってから、どうしても気になってしまった。

 別に闇雲光太郎という人を信じていないわけではない。むしろ、この人には不思議な力を感じている。

 幼馴染の親友が殺された恨みや憎しみも確かにあるが、それ以上に事件の結果のみを聞くという、中途半端な感じが許せないと思ったのだった。

「・・・・・・はぁ」

 しかし裕佳梨の、その願いを聞いた闇雲は小さく首を横に振る。

 「ダメだ。遊び半分で付いて来られても迷惑だし・・・・・・お前が危険だ」

 「好奇心とかじゃないんです! ただ、絵美ちゃんを殺したものが何なのか知らずに、このまま先、生きていたら、きっと後悔すると思うんです! だから————」

 おもちゃを買ってもらえなかった子供と同じ、ただのワガママに聞こえたかもしれない。でも、他に言葉が見つからない。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 静寂が続いた。

 ほんの一瞬だったかもしれないが、裕佳梨には一時間にも二時間にも感じた。校門前にある小さな街灯が、そんな二人を照らす中、大きい影の方がそっと動き出す。

 「危険だって言ってんだろ。そんな場所に死ぬ勇気もねぇ女を連れていけるか、バカ」

 ぶっきら棒で、酷い言い草だ————でも、この人はきっと優しい、素直にそう思えた。この人に依頼した自分を褒めてあげたいくらい。

 確かに、死ぬのは怖いし、本当ならこんな時間に学校に来てる事自体ありえない。

 「・・・・・・」

 「じゃあな」

 「————っ!」

 「ん?」

 校門に手をかけ、校内に入ろうとする闇雲の耳に、突然の怒号が飛んで来る。

 それはそれは、驚くほど馬鹿でかい————地鳴りのような声だった————。

 「偉そうな事ばっか言ってんじゃねぇぇえええ! このバァァァァカッ!」

 「は?」

 「怖くても、何でもっ! 必死に足を動かして、ここまで来たんだぁぁぁああああああ」

 真夜中の静寂を切り裂く音の振動が、辺りに響き渡った。

 「おっ、お前この————バカ。なんつー声出してんだ。シーッ、シーッ!」

 慌てて口元の前に闇雲は、人差し指を出していたが、裕佳梨の猛攻は止まらない。

 「人の小さな勇気も知らないくせにぃぃぃぃ、バカとか言うなぁぁぁぁああああ」

 「シーッ! マジで人来っから、静かにしろって」

 ————これは・・・・・・もう・・・・・・あれだ。後から思い出してみると私・・・・・・とんでもない事したなぁ。

 「いいからっ! 連れて行けぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ」

 「分かった、分かったから————マジで静かにして下さいぃぃいい・・・・・・」

 こうして、青山裕佳梨は事件調査に同行する権利を手に入れたのだった。


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