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闇雲怪奇譚  作者: くろすけ。
5/13

4 〜トイレの花子さん〜

                    4


 青山裕佳梨は、神童学園に続く朝日に照らされた並木道を歩いていた。

 両サイドには、春になると可憐なピンク色の桜が咲く木が、等間隔で植えられているが、残念ながら今は五月なので、すでに緑色に色づいた木が辺り一面を取り巻いていた。

 「ん〜?」

 風で乱れる自分の髪を抑えながら裕佳梨は、スマホの画面を眺め首を捻った。

 昨日の放課後、友達の赤井絵美に「一緒に、旧校舎探検に行かない?」と誘われたが、母親が急に風邪を引いてしまって、どうしても喫茶店の手伝いをしなければならなくなり、断ってしまったのだ。

 店の手伝いを終えた後、改めて謝罪のメールを送ったが、朝になっても返信が無い。

 「どうしたのかな? 絵美ちゃん」

 別に今までも「ごめーん、寝落ちしたぁ〜」なんて事もあったから、今回もそうだろうと思うことにして、スマホをポケットに仕舞う。

 「おいおい、何だ?」

 「すっげー 停まってんじゃん!」

 「?」

 突如、近くを歩いていた男子生徒二人組みが大きな声を出したので、裕佳梨も彼らが見ている前方に目を向けると、赤いサイレンが見えた。

 救急車かと思ったがどうやらパトカーのようで、普段ならあまり気にならないが、今は自分の通う神童学園の校門前に、四、五台停まっているので、嫌でも目に入る。

 明らかに学園で何か事件があったようだ。登校してきた他の生徒たちも、次々とパトカーの存在に気付き、興味津々と言った表情で足早に校門をくぐっていた————。

 校内は別段いつもと変わっている感じでは無く、ただ生徒たちが何か事件が起きたのではないか————と騒いでいるだけだった。

 裕佳梨も少し気になったが、とりあえず自分の教室に向かおうと廊下を歩いていると突然、後ろから物凄い勢いで肩を掴まれた。

 「いっつ」

 あまりの痛みに顔を歪めながら振り返ると、そこには絵美が所属する軽音部の後輩、後藤静香が息を切らせながら立っていた。

 「後藤さん? どうしたの?」

 彼女の顔は真っ青で、今にも倒れてしまうんじゃないかと思ってしまう程酷かった。

 「ハァハァ・・・・・・ハァ・・・・・・青山・・・・・・先輩・・・・・・ハァ」

 「ちょっと後藤さん、大丈夫? 気分が悪いの?」

 裕佳梨の問いかけに首を振り、後藤はカタカタと震える唇で答えた。

 「・・・・・・え・・・・・・絵美・・・・・・先輩が・・・・・・死にました・・・・・・」




 

 ————嘘だよね? ・・・・・・だ、だって昨日だって一緒に登校して、今度の休みにはショッピングに行こうね。って・・・・・・ねぇ・・・・・・絵美ちゃん。

 神童学園旧校舎の入り口前には、生徒がごった返していた。

 そんな野次馬を、制服警官たちが追い返そうと大声を上げている中、裕佳梨は後藤静香に支えられながら古びた木造の建物を見上げていた。

 後藤の話によると朝、学園に来た時に〝誰かが亡くなった〟と言う噂を聞き、そして先ほど赤井絵美の母親が旧校舎から泣きながら警察官と出てくる姿を目撃されていて、なおかつ昨夜、軽音部のメンバーに母親から娘の行方を探しているという電話があった事から、今回の事件に関わっている事を知ったとの事らしい。

 「ほらっ、君たち早く戻りなさい!」

 「離れて、離れてー」

 そう言っている警官たちの横を青いブルーシートがかかった担架が通っていく。

 「絵美ちゃん!」

 裕佳梨は後藤の手を払いのけて担架に駆け出したが、途中でスーツ姿のおじさんに阻まれてしまう。

 「近づいちゃ、いかんよぉ」

 おっとりした喋り方に似合わず、裕佳梨を押さえつける力は物凄くビクともしない。

 「離して下さい! 私は絵美ちゃんに————」

 ガッ! とさらに現れた制服警官にも体を押さえつけられてしまい、もう身動きを取る事が出来なかった。

 「警部! 申し訳ございません! 少し目を離した隙に————」

 「あぁ、別に構わないよぉ、女子高生に抱きつかれるなんてぇ、中々体験出来ないしねぇ」

 ————セクハラ親父め。

 だが、どうやら警部と言う事で、このおじさんがこの中で一番偉い人だと言う事が分かった。

 「あのっ! 絵美ちゃ————赤井絵美さんは?」

 聞きたくない。見たくない。という心とは裏腹に、旧校舎で起こった出来事をきちんと理解したい自分がいた。

 もしかしたら、何もかも後藤の勘違いで————そんな淡い期待を願いながら、必死に叫ぶ。

 「んんー、君は赤井絵美さんのお友達かな?」

 警部さんは、急に真剣な表情になった。

 裕佳梨が、その問いかけに対して頷くと、遠ざかる担架を見つめながら、その無精髭が生えた口元を手で撫でながら、ゆっくりと口を開いた。

 「彼女は、亡くなったよ」

 「!」

 その言葉を聞いた裕佳梨は足の感覚を失って、その場に崩れ落ちてしまった。

 周りにいた制服警官たちは、その発言に動揺していたが、警部さんはまるで気にしていないようで、旧校舎の入り口に向かって歩き出していた。

 「ほっ、本当・・・・・・なん・・・・・・です・・・・・・か?」

 誰かに否定してほしい。助けてほしい。

 震えた裕佳梨の声を聞き、警部さんは一瞬足を止めたのだが、またすぐに歩き始めた。

 「事件は、必ず解決するからぁ・・・・・・君は、今を受け入れなさい・・・・・・」

 涙は出てこなかった————。

 色々な疑問が頭の中を駆け巡る中、ただ裕佳梨は朝日に照らされキラキラ光って滲む、旧校舎を見上げる事しか出来なかった。


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