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第二十五話 稲妻と流星

スタートの合図と同時。

脚に全力を込めて駆け出す。


沸き上がる大歓声。

大声で叫ぶ実況の声は、歓声にかき消されている。



割れんばかりの声援の中、二匹は最初の区間を進む。

旗門の少ないスターティングエリアだ。


全力疾走そのままに、真っ直ぐ旗へ突入。

旗に背中を掠りながら直角に方向転換し、そのまま最短距離を進む。


どうやらここまでは俺が先行しているようだ。


進化前とは次元の異なる速度。

圧倒的なスピードに高揚感が広がるが、当然のように竜もすぐ後ろを付いてきている。


もうお互い話す余裕はない。

それでも、話す以上に相手の状況が伝わってくる。



これがレースか………



この世界に来て初めての、生死を掛けない勝負。



───────楽しい。

心が踊る。



全力で走りながらも、顔に浮かぶ笑みを堪えきれない。





ベガは少し驚いていた。


俺の前を走るトカゲは一体何だ?


もちろん俺は全力を出していない。

それでもある程度、力を入れて飛んでいる。

そんな俺の前を、このトカゲは走っているのだ。


レース前には最初に適当に前に出て、バカなトカゲを笑いながら冷やかすつもりでいた。


しかし実際はどうだ?


このトカゲは思ったよりも、いや異常と言えるほど速い。

おそらくベガ以外なら誰も相手にならない速さだろう。


だが─────

相手が悪かったな。


そう。


俺にはまだまだ余裕がある。

そろそろお前に”竜”の恐ろしさを教えてやろう───





後方を飛ぶ奴の気配が変わった。

その瞬間から、奴はグングン近づいてくる。



────くっそ、はえぇ!



旗一本分はあった差が一瞬で詰められた。


そろそろスターティングエリアが終わる。

次は、旗門の数が増えるテクニカルエリアだ。



(ここからが───勝負だ!)



そう。

ここまでは俺の予想通り。


奴は最初からは本気を出さなかった。

いや、今でもまだ全力ではないだろう。

だからかろうじて、未だに二匹並んで走っているのだ。



いいさ。

その余裕が命取りだと教えてやるよ─────!



脳内のスイッチを切り替える。


曲がりなりにも何度か死線を潜ったお陰で、スキルの使い方は分かってきた。



≪感覚加速≫

≪加速≫

≪瞬動≫



持てるスキルを全て用いて脚を加速させる。


世界がスローモーションになる感覚。

それと同時に身体の動きがその感覚に順応する。


小さなトカゲが旗の間を縫って進む─────

稲妻のような光の残像を残しながら。





ベガは驚愕した。

全力で飛ぶ俺が引き離されて行く。



ガアァァァァアアア────!!!!



叫び声をあげながら。

生まれて初めて全力で飛ぶ。


それでも小さなトカゲの姿はみるみる小さくなっていく。



旗が邪魔だ───

やけに身体が重い───

ダメだ、これ以上離されるな───!

トップスピードなら俺の方が速い─────!!!



初めて感じる不安に様々な思考が浮かんでは消えていく。


ベガの感覚は正しい。

トカゲがスキルを使ったとしても、トップスピードは空を飛ぶベガの方が速い。


しかし。


小回りの必要なテクニカルエリアにおいては話が違う。

ベガは減速しながら旋回飛行するのに対し、トカゲは全力疾走そのままに大地を蹴って曲がるのだ。



その差は如何ともし難く。

ベガが最後の旗を抜ける頃には、既にトカゲの姿は遥か彼方─────





息が苦しい。

心臓がはち切れそうだ。

それでも────



やってやったぜ………



既に奴の気配は遥か後方。

もうコースに旗はなく、ゴールまで一直線ではあるが、残りの距離はあと僅か。



このまま逃げ切れる──────



感覚が加速されれば当然体感時間も伸びる。

全力疾走を延々と続けているような苦痛。

現実の時間では一体どれ程の時間がたったのだろうか?


そんな事はもはやどうでもいい。

脚だって限界だ。

しかし最後の気力で踏みとどまる。



最後の瞬間まで───

俺は走りきってやる─────!



そんな決意に呼応するように、さらに一段速度が上がる。

ここに来てスキルLvが上がったのだ。



ラストスパートだ!

脚を回せ───!!

死んでも回せ──────!!!





───刹那。


本能が極大の警鐘(・・・・・)を鳴らす。


誰も介入出来ないはずの極限下の意識の中に、奴は土足で上がり込んでくる。


そんなはずがない。

ただ前を見て走れ!

見向きもせずに駆け抜けろ!!!


そんな理性を嘲笑うかのように、本能が俺を振り向かせる。



そして俺は視界の端に。

光り輝く流星(・・)を見た。



漆黒だった竜の身体は影を潜め。


目を焦がすような、鋭く眩い輝きが広がる。


あれこそが奴の───────



”ブライトミーティア”の真の姿。



加速した感覚の中を、流星が突き進む。


あまりに暴力的な加速。

みるみるうちに差は詰まる。


それでも迫り来る流星からは何も聞こえない。

それもそのはず。


俺は己の限界を突破し。

奴は音速の壁(・・・・)を突破した。


(ああぁぁぁぁあああ────!!!!!)

(ガアァァァァアアア────!!!!!)


共に死力を尽くした全力同士のせめぎ合い。


二つの咆哮が音色のように響き渡る中を、二匹はゴールへと飛び込んでいった。

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