第二十四話 スタート
『さあ待ちに待ったレースが今まさに始まろうとしています!』
『あのベガが!遂にライトニングの舞台に帰って参りました!』
『このレースの実況は、私ダイゴが送りいたします。』
一体何なんだこれは?
今やコースの回りは満員御礼。
子供だけでなく、大人達も仕事をサボってくる始末。
村人全員来たんじゃないかと思うような大観衆だ。
さらには何故か実況まで付いてやがる。
───カッカッカッ!
俺のすぐ隣で響く耳障りな笑い声。
その発生源は、もちろん小さな黒い竜だ。
(どうした落ち着きがないぞ?まさか緊張でもしているのか?)
おうおう、相変わらず煽ってくれるじゃないか。
(…口喧嘩したトカゲと竜が勝負する。それだけなのに、何でこんなに観客が多いんだよ?)
その言葉に上機嫌になったのか、鼻を鳴らしながら竜は答える。
(フンッ。そんなことも分からないのか。教えてやろう。それはな───この俺が”竜”だからよ。)
───ちょっと何言ってるか分からないデスネ。
まぁ。
どうでもいいや。
(………お前こそ、これだけ大勢の前で負けたら恥ずかしい事この上ないな?)
(ハッ!俺が負けると思っている者など、ここにはお前しかいないだろうさ。)
二匹はそんな罵りあいをしながらスタートライン並んだ。
◇
『それでは選手の紹介です。』
『まずはご存知!』
『昨年度チャンピオンでありコースレコードホルダーの黒竜。』
『ベ──ガ─────!!!』
ウォォォォォオオオ───!!!
会場から割れんばかりの声援が響く。
観客達が跳びはね、大地すら揺れているようだ。
『誰もがこの時を待っていたでしょう!』
『今年のレースには参加しませんでしたが、一年以上の時を経て、王者が再びコースに舞い戻りました!』
本当にこの竜は村人達から人気があるようだ。
この世界での竜は、やはり特別な存在なのだろう。
当然会場の声援は竜一色。
トカゲの俺には誰も注目していない。
『そして対戦相手はこちら!』
『竜に喧嘩を売った無名のニューフェイス、ホワイトサラマンダー!!!』
実況が聞いたことのない名前を告げる。
ホワイトサラマンダー?
誰だ?
─────俺か?
そして場内にはどよめきが広がっていく。
「あのトカゲ、サラマンダーだったの?!」
「山の精霊じゃないか!」
「サラマンダーって速いの?」
「知らないよ、初めて見たもん!」
『誰もその実力を見たことがありません!』
『果たしてどんな戦いを見せてくれるのか?!』
実況者が俺に向かって親指を立ててウインクをしている。
ちょっとイケメンなのが逆に腹立たしい。
あいつ…………
勝手にハードル上げやがった。
少し前、実況者が紹介のために名前を聞きに来た。
”名前はないから適当に呼んでくれ”と言っておいた。
言っておいてしまった。
(フンッ、サラマンダーとは大きく出たな?)
(あいつが勝手に呼んだだけだ。そもそもサラマンダー何て知らねえよ。)
(ハッハッハッ、そうかそうか。それではそろそろスタートだ。準備はいいな?)
(あぁ、いつでもいいさ。)
最後に竜は、カッカッカッと笑った。
コースを静寂が包んでゆく。
聞こえるのは自分の鼓動のみ。
ちらっと横を見れば、余裕の表情で竜がこちらを見下ろす。
いや、今さら相手の事など気にする必要はない。
早まる鼓動を抑えながらスタートの合図を待つ。
ゴール地点から小さな赤い光が上がり─────
─────ドンッ
爆発音と共に花火のような青い光が広がり。
レースの開始を告げた。




