第二十二話 少年と竜とトカゲ
ユウトは俺を肩に乗せたままズンズン進む。
周りが全く見えていないようだ。
(ユウト!ちょっとは俺の話を聞けって!)
ユウトは俺を食おうとしたベガに怒りを感じているのだろう。
ユウトをこのままのテンションでベガに会わせるのは不味い。
どうにか説得しなければ─────
ユサユサ揺れる頭に必死にしがみつきながらそんな事を考えていたが………
もうアカリの家じゃねぇか。
(おぉ、ユウトか。どうした?)
こちらに気づいた竜が近づいてくる。
ユウトはジッと竜を見据え、静かにベガに問いかけた。
「ベガ、昨日この子を食べようとしたでしょ。」
(ん?そんなトカゲに会ったことはないが…)
進化したからだろう。
俺に気づいていない。
竜は怪訝そうに俺を見ている。
………こうなったら仕方がない。
とりあえずこいつの強さを確認しておこう。
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【名前】ベガ
【契約】アカリ
【性別】-
【年齢】17歳
【種族】ブライトミーティア Lv3
No.1 魔眼(竜) Lv4
No.2 魅了 Lv3
No.3 隠密 Lv1
No.4 流星 Lv3
【ステータス】
体力:D 攻撃:D+ 防御:D
敏捷:D+ 精神:D 魔力:D
【称号】
◼黒竜
No.1 念話 Lv4
No.2 咆哮(竜) Lv1
No.3 飛翔 Lv4
No.4 息吹(黒竜) Lv2
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17歳………
人間でいうと何歳だろうか?
竜は長生きそうなイメージがあるが良く分からんな………
ステータスの方は思ったほど高くない。
大きさを考えればこんなもんか?
─────それでも。
今まで見た中で最強なのは間違いないが。
速さだけなら俺と同じ値だ。
しかしスキルはヤバそうなのが揃っている。
もし戦えば絶対に勝てないだろう。
────まぁ。
いくら考察したところで俺の攻撃は最低ランクのG-。
相手が竜でなくても勝てはしないのだが。
(そのトカゲはお前の何だ?)
「友達だ!」
竜の問にユウトが声を張り上げた。
竜は暫し考え、そしてカカカッと笑った。
(そうか、友が食われそうになって怒ったか。)
「そうだよ、何がおかしいの?」
怒るユウトの姿を見ながら竜はひとしきり笑った後。
(そんな事なら俺が謝る必要はないな。)
冷静にそう告げた。
「何で!ベガは僕の友達を食べようとしたんだ!!!」
ユウトの怒りは痛いほど分かり。
(そのトカゲは自分で竜の前に出たのだろう?食われて当然だ。)
竜の意見は最もだった。
”トカゲが竜の前に出たら食われてそうになった”
当たり前のことだ。
竜が悪いのか?
そんな訳はない。
「でも………!」
ユウトはバカじゃない。
竜の言う事も理解出来ているだろう。
しかしユウトの心はまだまだ幼く、竜の正論を鵜呑みになど出来ない。
(───むしろ責められるべきはお前じゃないか?)
「何で!ベガが僕の友達を食べようとしたんだ!」
ユウトは竜に論破されるだろう。
しかしこれもいい経験だ。
ふっ、まだまだ若いなユウト。
仕方ない。
帰ったら慰めてやるか。
(ハッ、何が友だ!トカゲなど助けてやらねばすぐに死ぬ。そんな一方的な関係に友情などあるものか。お前はその年で”お友達ごっこ”でもしているつもりか?)
瞬間、頭の中で何かが弾けた────
「お友達ごっこだって?!」
(─────まぁまぁ怒るなユウト。俺がこんなノロマに食われる訳ないだろ。)
「………………え?」
竜が目を見開く。
突然会話を遮られたユウトはキョトンとした顔でトカゲを見る。
(───良く聞こえなかったな。もう一度聞こうか。今何と言った?)
竜の威圧感が増す。
爛々と輝く琥珀色の瞳がトカゲを見据えている。
(ノロマと言ったんだ。何だ、竜ってやつは鈍い上に耳まで悪いのか?)
何故か一歩も引かないトカゲ。
ユウトが不安そうにトカゲを見る。
同時に竜が大きく息を吸い、その小さな体が一回り大きくなった。
直後。
≪グォオオオォォォォーーー!!!!≫
竜の叫び。
その大きさからは想像も出来ぬ響き。
大地は揺れ、周囲の木々はざわめく。
ユウトは金縛りにあったように動かない。
咆哮(竜)。
ただの叫びとは明らかに違う。
体の芯から震えるような衝撃。
咆哮は伸びやかな余韻を残し、辺りは静まり返った。
その場の動物はおろか、植物までもが息を殺しているような静けさ。
竜が満足そうにフンッと鼻を鳴らし、もう一度トカゲを見据える。
が。
(―――突然何を喚いている?気でも狂ったか?)
今度こそ本当に驚いたのだろう。
爛々と輝く瞳がこぼれ落ちそうなほど目を見開き、表情には驚愕の色がありありと見て取れた。
(………俺の咆哮で怯まぬトカゲか。思えば昨日、食いそびれた喋るトカゲがいたな。あれがお前か。)
(あぁそうだ。昨日は世話になったな。まぁあんな遅さで俺が食われる事はないが。)
どこまでも傍若無人なトカゲである。
(────ハハハッ!)
竜が笑う。
(面白い!それならば、お前が得意な速さで勝負しようじゃないか!)
(あぁ、何だって受けてやる。)
(お前に己の無力さを教育してやろう!)
(その小さな体に見合わないデカすぎるプライドをへし折ってやるよ!)
ユウトの心配も何処へやら。
これは。
プライドの高い小さな竜と。
おバカなトカゲの物語。




