第二十話 生と死の境界
白い─────
空も地面も見渡す限りの白。
ここには俺以外に何もない。
ここは────
前にも一度来たような?
俺は、どうなったのだろう。
ユウトの家の屋根で竜と出会い、食われかけた事は覚えている。
逃げる過程で進化し。
────その先は?
体を見回して見る。
短い腕。
鱗に覆われた体。
あまり変化は感じられない。
しかし、全身が淡く光っているように見える。
そして見上げてみると、額には小さな角。
前に確認した進化先の中に、それらしいのがいた。
まぁそれを思い浮かべながら進化したのだから当然か。
とりあえず自分のステータスを確認しておく。
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【名前】なし
【契約】なし
【性別】♂
【年齢】0歳
【種族】ライトニングシャドウ Lv1 New
No.1 発光 Lv1 New
No.3 瞬動 Lv2 Up
【ステータス】
体力:G- 攻撃:G- 防御:G-
敏捷:D+ 精神:S 魔力:F
【称号】
◼創造主の加護
No.1 念話 Lv2
No.2 ステータス閲覧 Lv3 Up
No.3 情報開示 Lv3
No.4 成長加速 Lv2
◼捕食者
No.1 気配察知 Lv2 Up
No.2 補食 Lv2
◼電光石火
No.1 加速 Lv3 Up
No.2 感覚加速 Lv3 Up
◼―
◼―
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見事なまでの敏捷特化だ
G→F→E→D。
敏捷が三段階も上がっている。
地味に攻撃が下がっているが、それを補って余りある速さだろう。
「おや、進化出来たみたいだね。」
頭の中に聞き覚えのある声が響く。
最初に創造主を名乗った男。
(おかげさまでな。今までどこに行ってたんだ?)
見回して見るが、やはり姿は見えない。
「僕はこれでも忙しい身だからね。ずっと君に構ってられる訳じゃないんだ。」
(おうおう、知り合いのトカゲ相手に随分冷たい事言ってくれるじゃねぇか。)
そうは言ってみるものの、こいつの言い分も最もだ。
一日中一匹のトカゲに構ってられる奴がいるとしたら、そいつは余程の暇人だろう。
「それにしても良い魔物に進化したね。僕好みだよ。」
気持ちの悪いことを言うやつだ。
それよりも。
今は確認したい事がある。
(お前は俺を以前から知っているな。)
「さあ、どうだろうね?」
何故か脳裏にイラッとするニヤケ面が浮かぶ。
どうやらしらばっくれるつもりらしい。
だがどうしても確認しておきたい。
俺が最後に泣かせた、あの人の事を。
(ここに来る前、俺には大切な人がいたはずだ。お前はその人を知っているか?)
「…それは君の記憶だ。君にとって誰が大切だったのか、それは君にしか分からない。僕は過去の君について語る気はないよ。もし過去を知りたければ自力で思い出すことだね。」
予想以上に頑なだ。
これ以上こいつに聞いても答えてくれそうにはない。
仕方がないが、記憶を取り戻す方法を探すか。
(分かったよ。ところで、ここはどこだ?)
周りを見回して見る。
視界全てが白く、何もない。
地面と空の境界も分からない空間。
そもそも天井なのか空なのか。
「生と死の境界、と僕は呼んでいるよ。三途の川みたいなものさ。」
(ってことは、俺は今死にかけてるって事か?)
「まぁ分かりやすく言えば。」
生きるために足掻いて進化までしたのに、結局死にかけているってことか。
悲しくなってくるな。
「まぁそんなにガッカリしないでよ。竜相手にトカゲが逃げ切ったんだ。小さな奇跡みたいなものさ。」
こいつの言いたいことも分かる。
だが、このまま死んでしまえば無意味ってもんだ。
まぁいい。
まだ死んだと決まった訳じゃない。
─────きっとユウトが何とかしてくれるさ。
最終的には他力本願なトカゲであった。
そして疑問が一つ。
(そもそもお前は何で今、ここに来たんだ?まさか普段からここにいるのか?)
「まさか。ずっとここに居たら暇すぎて死んじゃうね。ここに誰か来るのが分かったから来たんだ。」
なるほど。
死にかけた人がいれば分かるって事か。
便利なシステムだな。
(生死の境を彷徨う人々と話をするって事か。適当な奴だと思っていたが、創造主としてなかなか殊勝なところもあるじゃないか。)
「全員と話すのは無理だけどね。僕やこの世界にとって重要な存在が来た時だけだよ。」
(なら俺も重要って事か。それならこのまま生き返らせてくれないのか?)
「出来るけど、生き返らせるのはやらないよ。僕が干渉しすぎると碌な事にならないからね。まぁ逆に、目に余る人には退場頂くけど。」
こいつもまた地味に物騒だな………
機嫌を損ねないようにしておこう。
「しかし、君と竜を一対一で会わせるつもりはなかったからビックリしたよ。まさか一人…いや一匹で出歩くとは思わなかったなぁ。」
………痛いところを突いてくる。
今回死にかけてるのは、偏に好奇心のままに動いたからに他ならない。
「しかも今回の進化は、存在として変わりすぎたからね。結構苦しかったんじゃないの?」
(ん?確かに死んだ方がマシかと思うぐらいにはキツかったが…そんなに変わってなくないか?)
もう一度全身を見回す。
姿形はそれほど変わっていない。
強いて言えば多少光っている事と、角が生えたことぐらいか?
「外見の話じゃない。ステータスDってのはね、相当に異常なことなのさ。まぁいずれ気付くよ。」
そう言われて竜から逃げた時の事を思い出す。
スローモーションに感じられる時間の中で自由に動き回れる感覚。
あの時は死に物狂いで考える余裕はなかった。
だが今思えば、あの動きは俺の知る常識を易々と超えている気がする。
「おっと。長々と話しているうちに迎えが来たみたいだよ。」
気付けば俺の体がみるみる透けていく。
おいおいおいおい………
(これは…死ぬのか?生き返るのか?)
「さあ、どうだろうね?」
イタズラ好きな声。
(────また会えるか?)
「あぁ、もちろん。またね。」
(またな──────)
その言葉を最後に、俺は再び意識を手放した。




