国王が現れた!魔王は消えた!
「ふざけんな!!」
魔王からの提案は、青年によってあっさりと拒否された。
それどころか、青年はゼノに掴みかかる程の勢いで詰め寄る。
「てめー、俺の妹に何する気だ...!てめーみたいな奴が信用出来る訳ねーだろーが!!俺の妹を助けて安心させたところを手込めにでもするつもりだったか!?許さねー、絶対に許さねー!!殺してやる!!」
「お、おお、何という想像力。だが安心しろ勇者よ!我は貴様の妹に興味などない!」
「はーー!?サラに興味がないだーーー!?頭イってんじゃねーかてめーは!!サラはこの世に舞い降りた天使だぞ、てめーも生物なら興味ない訳ねーだろーが!」
「ど、どうしろと言うのだ...!た、助けてくれレオーネ...さん!」
「嫌ですよそんな屑の相手なんか。視界にも入れたくないというのに」
レオーネは青年を嫌悪に満ちた目でちらっと見ると、即座に目を逸らした。
「う、ううむ、困った。ええと...あ、そうだ!ふははははは!!今更だが勇者よ!名を名乗るがいい!」
「何勝手に話逸らしてんだてめー!」
「うぅ...」
青年の怒鳴り声に、僅かにゼノが顔を引きつらせ、後ずさった時だった。
「魔王ゼノ!我が国に、一体何の用で参ったのか、改めて聞かせてもらおう」
やや緊張をはらんだ美声が、その場に響いた。
その正体は、騎士達を従え、国民の避難を指示していた人物、このレナンド王国現国王リカルドである。
まだ年若い王でありながら、レナンド王国を第一に考える彼は国中から慕われていた。
わざわざ王自ら赴いたことに内心驚きつつも、ゼノは余裕の笑みを浮かべる。
「ちょうど良かった。勇者の件は後回しだ。今すぐ彼の妹を解放してもらおう」
「あ、違いますけれど」
「えっ?」
レオーネの発言に、思わずゼノは素の声を上げる。
「私とこの屑の出身国...つまり、貴方を殺すように命じたのは、この王国ではありません。私が今ここで貴方と会ったのは偶然なのですから。元々私は魔王城のある秘境へ向かおうとしていたのですし」
「な...じゃあ、どこなのだ?彼の妹を捕らえているのは」
「ジングン帝国です」
「何だと!?」
そう、驚きの声を発したのはゼノではなく、国王リカルドであった。
加えて、国王リカルドの周りを守護する騎士達も、レオーネと青年に対して身構えている。
「帝国は今、戦争の後始末に追われていると聞いていたが...既に、魔王を倒す為に動き初めていたのか。確かに、あの帝国らしいと言えば、そうかもしれないが...」
リカルドは呟いて、しかし首を振った。
「...今は魔王についてだ。魔王ゼノよ、ここでは何だ、城で話を伺おう」
「いや、それはまた後にしよう。我は用事が出来た。今からジングン帝国へ向かう」
「!てめー、サラに手を出す気か!」
「ふははははは!!貴様に我を止めることなど出来ぬ!ではしばし待て!すぐに戻る!」
青年がゼノに駆け寄る前に、魔王は懐から古びた一冊の本を取り出すと、それを開き、何事か叫んだ。
次いで、魔王の体は白い光に包まれ、あっという間に消え失せてしまった。




