魔王からの提案
「...成程な。魔王の名は伊達じゃねーってことか、化物だな」
青年は剣を折られたというのに、特に慌てる様子もなく、淡々と最早使い物にならないそれを投げ捨てた。
そして、先程レオーネに向けた視線を今度は魔王に向ける。
「だが、てめーはここで死ぬんだよ。俺に殺されてな」
「ふははははは!!出来るものならな!!」
「馬鹿か?出来る出来ないじゃねー、やるんだよ」
青年は呟くと、レオーネの制止に応じることなく、ゼノに走り寄る。
「ふははははは!!愚かなり勇者よ!接近戦は我の得意分...や?」
ゼノは言葉を途切れさせた。
青年が何かしらの戦略故に安易に近付いてきたのだと、ゼノは疑わなかった。
だが、ゼノの予想を裏切り、青年は真正面からゼノの顔をただ殴りつけたのだ。
戦略などという次元の話ではなかった。
ゼノの体はとても頑丈だ。それはゼノの首を斬ることも叶わず、青年の剣が折れたことから分かる。分かる筈だろう。筈なのだ。
しかし青年は、何の躊躇いもなく、自分の拳でゼノを殴った。
そんなことをしたら、自分の拳が傷付くことは必至なのに。
そしてゼノの思考通り、ゼノにダメージは全くなく、青年の拳が衝撃で震えるばかりだった。
それでも青年は殴ることを止めない。ただゼノの顔に何度も何度も拳をふるった。
「貴方は、馬鹿なのですかっ!!」
レオーネが怒号を飛ばしつつ、素早く青年をゼノから無理矢理引き剥がし、距離を取る。
「ちょっと剣が使えるからって、貴方みたいな無能を受け入れた私が馬鹿でした!さっさと国に帰ってください邪魔です!!」
「ふざけんな、魔王を殺すまで帰れる訳ねーだろ!」
「貴方がいると魔王を殺せないのですよ!邪魔なのです何故分からないのですか!!」
「だったらてめーが帰ればいいだろーが!」
「はあ!?...駄目ですね、やっぱりこんなものと私が共にいること自体が間違いでした」
レオーネと青年が口論している様を見学していたゼノだが、とうとう口を挟む。
「あの...我もちょっと聞きたいんだが、何でそこまで必死なのだ?人質がいるからか?」
「当たり前だ!サラを救うにはてめーを殺すしかねーんだよ!」
「ああ、何故こんな屑を連れてきてしまったのでしょうか、いえ、私は少しも悪くありません。全ては周りの人間の誤りのせいなのです」
喚く青年に、美しく胸の前で手を握るレオーネ。
そんな二人を、騎士に誘導され避難した国の人々は遠くから見つめて応援している。勿論人々に会話の内容はちっとも聞こえていない。
ゼノは、濃い人達だなあ、とちょっと思いながら、こんな提案をした。
「そこの勇者が妹を人質に取られて焦って混乱しているんだったら、我が取り返してこようか?」




