だって、女の子だもの
ごくり、と誰かの喉が鳴る音が聞こえる。
それ程までに、その場は静まり返っていた。
ゼノは、微動だにせず仁王立ちをしている。
「...き、貴様は、何が目的だ」
騎士の一人が声を振り絞り、尋ねた。それに対しゼノは、首を傾げる。
ひっ、とその騎士は後ずさった。
「聞こえていなかったのか?我は勇者を探しに来たのだ」
「な、何の...為に」
「それは言えぬ!我は魔王!易々と情報は明かさんぞ!しかし、勇気ある者は取り敢えずかかってくるのだ!」
ふははははは!!とゼノは豪快に笑った。
「あら、では、私にも挑戦する権利はあるのですよね?」
涼やかな声が、響いた。
その場に居合わせた者達の視線が、一か所に集まる。
かつん、かつんと靴音をさせて、その人物は動けない人々を避けて、公園に入って来た。
女性は息を飲み、男性は見惚れる。
その人物は、まるで物語の聖女の如く、美しかった。
白く装飾の少ない服を纏い、長い銀髪を煌めかせ、深い碧の瞳は何よりも清らかに見える、その女性は、一人、魔王の眼前に立った。
「貴様、名を何と言う」
「レオーネと申します。貴方が魔王ゼノですね」
「その通り。我が魔王、ゼノだ!」
「では、私が、貴方を殺して差し上げましょう」
「ふははははは!!やってみるがいい!」
ゼノはひとしきり笑った後、女性、レオーネを見据えた。
「その余裕が、一体いつまでもつでしょ」
ぐぎゅうううごぎゅるるるるぐぎゅるるきゅるるるぐううう!
間の抜けた音が鳴り響く。
その場は絶望的な沈黙に支配された。
「...あら嫌だ、魔王ともあろう人が、お腹を空かせているのですか?」
「えっ!?」
驚く魔王。人々の視線が集中する。
「いや、今の我じゃないぞ!本当だって!!」
「さあ、どうなのでしょうか」
「本当だって!魔王、嘘吐かない!」
居たたまれない空気が漂う。
音をさせたのが魔王ではない誰かなら、人々は大笑いすることが出来ただろう。
しかし魔王だとしたら、笑ったら死ぬ。普通にそう思う。
「いや、本当に我じゃないって言っ」
ぐるるるるるー!!
「...あれ?」
ゼノは眉を寄せる。レオーネを除く人々が、それを見て恐怖で身を震わせた。
「...これ、お前のじゃないか」
「...は?何ですって?寝言は寝て言ってくれませんか?」
「でも、さっきのは絶対お前の方から」
「はあ!?私がお腹を空かせているとでも」
きゅるるるー!
「...完全にお前じゃないか」
「...最っ低っ!!」
レオーネは叫び、ゼノの元へ駆け寄ると、
「こんな可愛い女の子の!お腹の音を聞いたら!さりげなく俺のだよと言うのが男の役目でしょうがああ!!」
―――ビンタをした。
ゼノは硬直する。人々も呆然とする。
「もう貴方なんか知りません!ばーか!ばーーーか!!お詫びに奢らせてあげてもいいですけど!!」
レオーネは、ゼノの腕を掴む。
「えっ、我に何をさせようと」
「もう一週間も食べてないのです...その分、貴方に払ってもらいますからね」
「えっあっちょっと待て我大事な用事があって勇者を見つけないといけないっていうか見つけたいっていうかあの本当に私忙しいから」
「女の子に恥をかかせておいて、逃がす訳ないでしょう?」
「そ、それは本当に悪かっあああああ」
―――人々は何も言えずに、連行されて行く魔王を見送った。
「...何だこれ...」
騎士の一人が顔を引きつらせ、呟いた。




