37.じゃあね、東京
練習に一か月使って、かなりまともに操船できるようになり、マリーナの事務所で入手した地図で伊豆大島への航路なんかも調べることができた。
やっぱりスマホとかパソコンで検索できないのってつらい。
それでも通るべき場所ってのがあるのは分かる。
仮に浅瀬なんていったら乗り上げて座礁しちゃうから、この航路の通りに行くのが重要。
少なくとも東京湾を出るまでは、これに従わないと何が起きるかわからない。
食料は2か月分をしっかりため込み、水も大量に追加で載せた。
「これだけ準備すれば多少何かがあっても大丈夫でしょう」
どんなにかかっても3日もあればつく距離だろうと思ってる。
なので、この2か月分の食料は本当に予備だ。
天気が分からないから仮に沖に流されたときに予備を持っていた方がいいし、行った先に実は誰もいなかったってなってもまた東京に戻ってこられる。向こうに人がいれば物々交換できそうだし。
翌朝、日が昇ったのは6時頃、私はだいぶ慣れた手つきで船を固定しているロープを外していく。
最初は苦戦していたロープの扱いも回数をこなせば素早くできるものだ。
夜寝る前にエンジンは切ってるので、早速始動する。
この手順覚えるのに5日もかかったのはいい思い出。
燃料は昨日のうちに補給してあるので満タン。
海里ってのがよくわからなくってすごく苦労したけれど、大体8000km移動できるってようやく計算できたのは船を見つけてから半年かかった。
あとノットってのもおおよそ1.8倍にすれば時速になるってわかった。
こういう船独特の単位って最初分からなくってすごく混乱した。
そもそもこの船も50フィートクラスらしくって、フィートって何ってなったし。
無事にエンジンもかかり、離岸する。
ゆっくりとバウをつかって桟橋から離れて、完全に離れたことを確認したら今度はメインの推進に切り替える。
いつもの練習通り船はゆっくりと進み始める。ここからは豊洲市場の横を通り過ぎながらレインボーブリッジを目指す。
もう見慣れた風景だ。
「快晴、風は穏やか。とりあえず天候よし!」
レインボーブリッジの下をくぐるのももう慣れたもの。
いまだになんでか見上げちゃうんだよね。
あと、ちょっと目線を陸に向けば東京タワーがちらちら見える。
あの辺高いビルが多くてきれいに東京タワーが見える場所って少ないんだよね。
そのまま進めば自由の女神像とお台場海浜公園が見えてくる。
例の丸い球もここからだとよく見える。
いつもはこのあたりでUターンするか、この先で左に曲がってビッグサイトのあたりを見に行くのが練習コース。
でも今日は違う。
ここから羽田空港の方へまっすぐ進む。
いつも曲がるところでも少し空港っぽいのが見えていたけれど、今回はちゃんと駐機してる飛行機も見えてきた。
もう周辺の風景は街並みじゃなくって港って感じ。
岸壁には大きな船がいっぱい止まってるし、コンテナがいっぱい並んでる。
たまにすごい背の高い窓のない船があって、結構威圧的。
「あれが、海ほたるかぁ」
羽田空港を通り過ぎて見えてきたのは特徴的な建物が海の上にぽっかりと浮かんでいる。
たぶん海ほたる。
来たことないけどたぶんそう。
なるべく陸が見えるように進んでいくけれど、途中に船が結構浮いて止まっていた。
そして遠くの方にランドマークタワーが見える。
私は少しだけスロットルを入れて速度を上げる。
この後はもう神奈川県だよね。
しばらくは陸地を見ながら進んでいいはず。
GPSも動いてる。現在位置も大丈夫。
「じゃ、いきますか」
操縦席の横に置いたうさぎのぬいぐるみの頭をなでる。
ここからは完全に未知の世界。
さて、どうなるかな……ま、どうにかなるでしょう。
後ろを振り向くともう見えていた東京の街並みはほとんど見えなくなっていた。
きっと戻ってこないんだろうな、わかんないけど。
じゃあね、東京。
本作はここで終わりです。
雨井まいがこの先どうなったのかは、皆様のご想像にお任せいたします。
本作は、本当に一人の女子高生を無人の東京に放り込むだけの作品です。
なので、残念ながらゾンビの謎も、どうして雨井まいが感染しないのかも、答えはありません。
皆様の中で答えを見つけていただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




