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MMORPG異世界勇者たちの伝説  作者: アラベ幻灯


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6/8

老狼は初めて牙をむいた

これがこの物語の最新エピソードです。楽しんでいただけたら嬉しいです。

東方の平野。


それは、両軍が初めて正面から衝突する場所として選ばれた。


理由などなかった。

ただ、そこが「ぶつかるのに都合がよかった」からだ。


空は、低く垂れ込めていた。


新日本の若きサラリーマンとOLたちは、ぎこちない手つきで刀を握っていた。

身体はまだ、この世界の重さに慣れていない。

鎧は軋み、呼吸は浅い。


それでも、彼らの目には火があった。

怒りと、連帯と、そして――

何かになろうとする必死さ。


対する栄光の日本。


年老いた社長、部長たち。

動きは遅い。

だが、その立ち姿には、奇妙な静けさがあった。


彼らは知っていた。

「耐える」ことを。

「崩れない」ことを。


その中央に、一人の男が立っていた。


黒田義経くろだ よしつね、五十三歳。

かつて部長だった男。


彼の目には、焦りはなかった。

怒りもなかった。


ただ、状況を「読む」冷たい光だけがあった。


――来る。


その瞬間、空が裂けた。


雨。


それは、ただの雨ではなかった。

叩きつけるような水の暴力。

一瞬で地面を泥へと変え、視界を奪い、音を潰す。


ゲームマスターたちの介入だった。


地面はぬかるみ、足は沈む。

鎧は水を吸い、重さを増す。

刀を振るうたびに、水が抵抗となって絡みつく。


戦場は、崩壊した。


「進めえええええ!」


誰かが叫び、新日本が突撃する。


若さは、勢いとなる。

勢いは、前進となる。


だが――


前に進むたびに、足が沈む。


一歩。

二歩。

三歩目で、転ぶ。


そこに、刃が落ちる。


泥の中で、人は簡単に死んだ。

叫びも、誇りも、関係なかった。


ただ、顔が沈み、息が止まり、動かなくなる。


黒田は動かなかった。


「止まれ」


低い声。


栄光の日本の隊列は、前に出なかった。

ただ、わずかに後退し、地形のわずかな高みへと移動した。


水は流れる。

低い場所へ。


泥は、深くなる。

低い場所ほど。


黒田は知っていた。

歴史を。


ファランクスも、騎兵も、電撃戦も。

すべては、「条件」を読む戦いだった。


今、この戦場で最も強いのは――

若さでも、数でもない。


地形だ。


「待て」


再び、命令が落ちる。


新日本は、突撃を止められなかった。

止まる理由を、持っていなかった。


進み続ける。


沈みながら。


叫びながら。


崩れながら。


やがて、彼らは気づく。


――動けない。


足が、抜けない。


刀が、重い。


呼吸が、苦しい。


その瞬間。


「今だ」


黒田の声は、雨の中でも通った。


栄光の日本が、動いた。


ゆっくりと。

確実に。


高みから、低みへ。


斬る。


抵抗は、なかった。


泥に沈んだ身体は、ただの的だった。


血が、水に混ざる。

赤はすぐに薄まり、見えなくなる。


だが、死だけは残る。


この戦いは、終わった。


あまりにも一方的に。


若さは、泥に沈み、

怒りは、雨に流された。


勝者は――栄光の日本。


その中心にいたのは、黒田義経だった。


――


その夜。


重厚な建物の中で、祝宴が開かれた。


火が灯され、酒が回る。

疲れた顔に、ようやく安堵が浮かぶ。


国橋正典が、ゆっくりと立ち上がった。


「本日の勝利は――黒田君の功績である」


拍手。


誰もが頷く。

異論はなかった。


黒田は、静かに頭を下げた。


「身に余る光栄です」


その声には、誇張も、謙遜もなかった。

ただ、ちょうどいい重さだけがあった。


国橋が近づく。


「君のような人材がいてくれて、本当に助かる」


黒田は顔を上げる。


その瞬間。


ほんのわずかに――笑った。


誰にも気づかれないほど、小さく。


その笑みは、勝利のものではなかった。


もっと冷たいものだった。


(やはりな)


国橋は、優れている。

だが、単純だ。


信じる。

任せる。

委ねる。


それは、美徳だ。


そして――


利用しやすい。


(王は必要だ)


黒田は考える。


(だが、王がすべてを理解している必要はない)


むしろ、その方が都合がいい。


顔としての王。

象徴としての王。


そして、その背後で動くもの。


(実際に動かすのは、私でいい)


酒の音が響く。

笑い声が広がる。


誰も、気づかない。


この勝利が、戦の始まりでしかないことを。

そして――


もう一つの戦いが、すでに始まっていることを。


表ではなく、裏で。


見えない場所で。


支配を巡る戦いが。


黒田義経は、杯を静かに傾けた。


雨は、まだ止んでいなかった。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。

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