二つの王国は戦争の準備を進めている。
これがこの物語の最新エピソードです。楽しんでいただけたら嬉しいです。
新日本と栄光の日本――
二つの「日本」は、互いに相手を滅ぼす準備を、静かに、そして確実に始めていた。
戦は、叫びから始まるのではない。
戦は、土と鉄と汗の匂いの中で、ゆっくりと腐るように始まる。
まず整えられたのは、経済だった。
剣は土からは生えない。
鎧もまた、祈りからは生まれない。
すべては、耕し、掘り、育て、削り、叩くことから始まる。
この世界の資源は、地球と大きくは変わらなかった。
それが救いなのか、あるいは絶望なのかは、誰にも分からなかったが。
新日本は、西北の大地を支配していた。
風は強く、土は粗く、空はどこか遠かった。
そこでは、じゃがいもとトマトと小麦が育てられていた。
水辺では漁が行われ、牛が飼われていた。
不安定で、荒削りで、だが確かに生きている土地だった。
一方――
栄光の日本は、南東の地に根を張っていた。
整えられた水路。
規則正しく並ぶ稲。
乾いた空気の中で干される木の実。
そして、土に埋められた芋。
鶏と豚が飼われていた。
それらはすべて、ゲームマスターによって配置された「NPC」だった。
決定的な差は、地中にあった。
栄光の日本は、鉄と石炭を持っていた。
重く、冷たく、そして世界を殺すために必要な資源。
新日本は、石炭と石灰岩を持っていた。
火と骨のような石。
鉄を持たぬ代わりに、別の形で武器を生み出すしかなかった。
やがて、両者は同じ結論に至る。
――武器を作れ。
そうして、鍛冶場が生まれた。
新日本の鍛冶は、粗雑だった。
叩き方も、焼き方も、すべてが手探りだった。
刃は歪み、鎧は重く、そして壊れやすかった。
それでも彼らは叩き続けた。
血が滲む手で、鉄を掴み、形にした。
それがなければ、明日が来ないと知っていたからだ。
対して――
栄光の日本には、「技」があった。
そこには、かつて日本で名を馳せた鍛冶師たちがいた。
刀鍛冶。甲冑師。火薬職人。
彼らは若くはなかった。
だが、その手は覚えていた。
火の色。
鉄の鳴き声。
叩くべき瞬間。
打たれた刃は、滑らかで、冷たく、そして美しかった。
無駄がなく、迷いがなかった。
まるでそれは、殺すために生まれてきたかのようだった。
やがて、火薬も作られ始める。
粗末な大砲。
不安定な鉄の筒。
だが、それでも人を砕くには十分だった。
戦国の再現。
だがそれは、歴史の再現ではない。
ただの模倣だった。
魂の抜けた、形だけの暴力。
そして、そのすべてを隔てるものがあった。
空っぽ国々。
新日本と栄光の日本の間に広がる、広大な空白地帯。
草は生えている。
地形もある。
空も、風も、存在している。
だが――
そこには、人間もない。
足を踏み入れた者は、言葉を失った。
距離感が狂う。
歩いても、歩いても、同じ景色が続く。
振り返ると、来たはずの道が消えている。
音が、遅れて届く。
あるいは、先に聞こえる。
何かが「ずれている」。
だが、それが何なのかを理解する前に、
人は本能的にそこから離れた。
両陣営は、この空白を境界とした。
こうして、世界は整えられていく。
畑が耕され、
鉄が打たれ、
火薬が練られ、
兵が集められる。
すべては、来るべき戦のために。
だが――
そのすべてを、空の彼方から見下ろすゲームマスターたちは、
まったく別のことを考えていた。
ある者は、笑っていた。
ある者は、興味を失っていた。
ある者は、まったく関係のない結論に飛びついていた。
「もし地面を液体にしたら、どうなるだろう」
「いや、時間を逆にしたほうが面白い」
「違う、そもそも“戦い”という概念を削除してみるのはどうか」
彼らの思考は、繋がっていなかった。
連続していなかった。
意味すら、共有されていなかった。
それでも彼らは、確かにこの世界を支配していた。
人間たちは、武器を作り、秩序を築き、戦の準備を整えていく。
だがそのすべては――
次の瞬間、無意味になる可能性を孕んでいた。
それでも、止まることはできない。
止まった瞬間、
自分が「何者でもなくなる」と知っているからだ。
鉄は叩かれ続ける。
土は耕され続ける。
人は働き続ける。
かつての世界と、何一つ変わらないように。
ただ一つ違うのは――
この世界では、
そのすべてが報われる保証が、どこにも存在しないということだった。
このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。




