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82.覚悟の先手

「回復したなら次行くぞ。準備はいいな?」

「はい!!」


 トーキスさんの言葉に大きく返事し、俺は崇影(たかかげ)に目線を送る。

 崇影は静かに頷いた。


「じゃ、また猶予時間十分間な。」

「スタート、ですね。」


 トーキスさんとセイロンさんの息の合った合図で再挑戦の幕が切って落とされた。


 今回の作戦は今までとは違う。

 果たしてそれが吉と出るか凶と出るか…やってみなければ分からない。


 俺と崇影は一先ずその場を離れ…しかしそれ以上鬼から距離は取らずに、トーキスさんとセイロンさんの視線から逃げるように後方に回り込み、二人の様子を木の陰から確認した。

 

 十分間。

 その間、あの二人はその場を動かない。


「卑怯な作戦だとは思うけどな」


 俺の言葉に崇影は首を振る。


「殺すか殺されるかの場において、卑怯などという言葉は無意味だ。」

「崇影が言うと説得力あるんだよな…」


 俺は三口銃を静かに構え、風来石(ふうらいせき)を押し込んだ。

 崇影も、手に鎖分銅を握りしめている。準備は完了。

 俺はごくりと生唾を呑み込み、迷いを捨てた。


「作戦開始だ」

「承知した。」


 俺は、木の影からまだ行動を開始していないトーキスさんの背中に照準を絞り…トリガーを引く。


 ゴゥッ!!


 森に響いたその音と同時に…崇影は身を沈めてトーキスさんへ突進、鎖を投げ放った。 


 トーキスさんは動かない。

 だがその周囲に蔦の防御壁が現れ、銃弾を塞いだ。

 セイロンさんの力によるものだ。

 トーキスさんが微動だにしなかったのは、セイロンさんが防壁を作ることが分かっていたからなのだろう。

 風来弾によるカマイタチが蔦を切り裂き、防御壁が崩れる。


 散り散りになった蔦の間から、崇影の放った鎖がトーキスさんを襲う。


「なるほどな…」


 トーキスさんは小さく呟くと身を翻し、寸でのところで鎖を避けた。


 俺たちの今回の作戦、それは「隠れるための十分間を奇襲に当てる」という邪道なやり方。

 ルール説明の際「最初の十分間は攻撃不可」とは言われていない。

 開始直後十分間、鬼の二人は『待機時間』。

 つまり…その時間を戦闘に充てれば俺たちか一方的に攻撃し放題のサービスタイムになる、ということだ。

 

 …とはいえ、流石に甘んじて攻撃を受けてはくれない。

 防がれる、逃げられる、は想定の範囲内だ。

 それでも反撃が来ないのは大きい。

 この十分間に鬼の動きを封じることが出来れば…!!!


 俺は再びトーキスさん目掛けてトリガーを引いた。


 ゴウンッ!!

 

 しかし、トーキスさんはすっと後方へ身を引いた。

 そして俺の放った弾丸の先には…セイロンさんの姿があった。

 入れ替わった!? 何で!?

 セイロンさんはその場に立ったまま、こちらへ掌を掲げると俺にチラリと目線を送り…ふわりと笑った。


「っ!?」


 何だ? この状況で何で笑える…? それも、あんな曇りのない笑顔で。

 ぞくり、と背筋が凍った。得体の知れない物に対する恐怖心が警鐘を鳴らしている。

 セイロンさんを撃ってはいけない、と本能的に気づく。けど、もう遅い。

 俺の放った風来弾はセイロンさんの掌へと吸い込まれていく…


 この際、当たりさえすればセイロンさんでも構わない、と思ったのだが… 

 何かがおかしい。

 狙いは完璧だ。

 けど、狙い打ったはずなのに、これはむしろ誘われているように……そう、風を纏った弾が『吸い込まれて』いる。


 セイロンさんに弾が接触したはずのその瞬間、カマイタチが全てセイロンさんの手の中へ呑み込まれた。

 その掌からポロリ、とこぼれ落ちたのは弾丸。

 風の魔力と弾の勢いを全て無力化されたのだと気付く。


「なっ…!?」


 俺は思わず後ずさる。

 セイロンさんの口元が微かに動いた。 

 何かを呟いている…何だ?


『あと、六分。』


 口の形がそう言っていた。


 反撃のためのカウントダウン。


 ヤバイ。何とか隙を見つけ出さなければ…!!

 俺は慌てて視界から消えたトーキスさんを探す。


 ─いた。 


 崇影が鎖をしならせてトーキスさんを追っていた。

 あの鎖で拘束が出来れば間違いなく有利になる。

 俺は改めて銃を構える。

 だがトーキスさんは、まるでわざとそうしているかのように、ギリギリの距離で鎖を躱していた。

 

 くそ、これだけの速度で動かれると狙いを定められない…下手に撃てば、崇影に当たる。


 …わざとだ。

 俺が撃てないように、わざとギリギリまで鎖を引き付けて避けている。

 

 このままじゃ埒が明かない…


 どうする? いっそセイロンさんを狙うか?

 いや…ダメだ。弾の無駄遣いは避けたい。


 逡巡する俺に崇影がチラリと視線を送った。

 その直後、崇影が大きく飛び上がりトーキスさんから距離を取る。

 ナイスだ、崇影! 


 俺はそのチャンスを逃さぬよう、すぐさまトリガーを引いた。

 セイロンさんに防がれる可能性も考えたが、蔦は現れない。


 「チッ!!」

 

 トーキスさんは素早く後退して避けるが、風来弾は範囲攻撃だ。周囲に広がった風の刃が辛うじてトーキスさんの腕に届いた。

 その瞬間、微かに鮮血が舞う。当たった!!


「よしっ!!」


 思わずガッツポーズ。決して大きなダメージではないが、当たっただけでも儲けもんだ。

 このままダメージを加算していけば…!

 俺は急いで弾丸を補填する。


 その間にも崇影はトーキスさんに向けて鎖を放ち、先ほどより距離を保ったまま拘束を試みている。

 だが、崇影の鎖を地面から這い出た蔦が絡め取った。

 

 セイロンさんが動いた…

 けど、今ならこちらにセイロンさんの邪魔は入らない!

 そう判断し、俺は氷結弾へ切り替えトーキスさん目掛けて走り寄りながらトリガーを引いた。


 狙いは足元。一瞬でも動きを止めたい。

 風が止んだその瞬間を狙い、トリガーを引いた。


 キィィン…!!


 甲高い氷結弾の音。


 細かな氷の粒を撒き散らしながら弾丸がトーキスさんを狙うが、トーキスさんは俺がトリガーを引くと同時にその場を離れ、木の上へと飛び上がった。軽やかだ。


 けど、ここで怯んでいる暇はない! 俺は続けて木の上目掛けて銃を放つ。


「なるほどな、オマエらにしちゃやるじゃねぇか。面白ぇ手だ」


 言いながらトーキスさんが俺の目の前に飛び降りた。

 俺が放った氷結弾は空しく空を切り、先ほどまでトーキスさんがいた木を氷漬けにした。


 一瞬にして至近距離に迫るトーキスさんの顔。

 不敵な笑みを浮かべている。舐められている…!


「はぁっ!!」


 俺は慣れないながらも、握った拳を思い切り前方へ突き出した。


 バシンッ!!


 確かな手応え。けど…俺の拳はトーキスさんの掌にすっぽりと収められていた。

 渾身のパンチを簡単に止められた…!

 俺はギリッと奥歯を噛みしめ、勢いよく右足を振り上げた。

 

 バシンッ!!


「おぉ、いい蹴り出せんじゃねーか。」


 また、受け止められた。


「くっそ!!」


 どうする!? 今タイムアップになれば一瞬でゲームオーバーだ。

 十分経過まであと何分だ!?

 俺の右手右足はトーキスさんの手に封じられている。

 今は反撃こそされないが、逃れようにも簡単には放してもらえそうにない。

 

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