81.狩人の領域
この命中力、トーキスさんか──!!
俺が払った毛虫の動きを瞬時に捉えて枝を投げ付けたのだろう。
マジか……その辺にある物投げるってのは武器に入らないということらしい。あの威力だと、木の枝も小石も十分脅威だ……
だが、その後俺に向けた追撃が来ないと言うことは、俺が毛虫を落としたことはまだバレていないようだ。
枝の間から目を凝らしても、トーキスさんの姿は見えない。どれだけ遠くから投げたと言うのだろう……視力良すぎだろ。
けど、動く物に反応して攻撃を仕掛けるのなら、今回の作戦は悪くないかもしれない!
俺は心の中で小さくガッツポーズをした。
その数秒後──
ガサガサッ!!
辺りの木々が突如不自然に大きく揺れた。
それを合図に、俺は三口銃を構え、葉の隙間から目を凝らす。
「成る程な……罠を張りやがったか」
面白がるようなトーキスさんの声。
俺の視界の端で茶色のフードが揺れた。
セイロンさんの姿はどこにも見当たらないが、トーキスさんは俺の射程距離だ! 行ける!!
そう判断し、俺は木の上に隠れたままトーキスさんの足に照準を合わせてトリガーを引いた。
パァン!!
銃声まではさすがに消せないが、弾の速度は速い。
さすがにトーキスさんといえど、掠るくらいはいけるだろう。
……と思ったのだが。
放った弾丸の先に、トーキスさんの姿は無かった。
俺がトリガーを引くと同時にその場を退いたのだ。
これが狩人の感というやつだろうか──
俺が狙うタイミングを完全に読まれていた。
ガサガサッ!!
俺が隠れていた木が突如大きく揺れ……周囲の枝が伸びてきた。
マズイ!! セイロンさんに見つかった!!
俺は咄嗟に木から飛び降りると同時に銃を構え、周囲へ視線を巡らせる。
──後ろか!!
トーキスさんが突進してくるのが視界に入った。
俺は真っ直ぐ銃を構えようとし……伸びてきた枝に手首を鞭打たれた。
バシンっ!!!
「痛っ!!」
鋭い痛みが走り、俺の手首にミミズ腫れが浮かび上がる。
衝撃で銃が手から滑り落ちた。
ヤバイ……!!
トーキスさんの攻撃が来る!!
だが、その後ろに──ギラリと光る鎖が目に入った。
崇影だ!!
トーキスさん目掛けて放たれた鎖。しかしやはり伸びてきた枝がそれを絡め取る。
ダメか……!!
そう思った次の瞬間。
鳥の姿の崇影が猛スピードでトーキスさんの横腹へ突進した。
「っ!!」
トーキスさんはギリギリ直撃を避けるが、確実に体を掠めている。
腹部の衣服が破れ、トーキスさんは一瞬顔を顰めた。
崇影は上空で方向転換し、再びこちら目掛けて急降下してくる。
トーキスさんは即座に屈み、何かを呟いた。
瞬間、土の壁がトーキスさんの前に現れ、崇影の進路を塞ぐ。
ならここは、俺が!!
俺は痛む手首を無理矢理動かして三口銃を拾い上げ、トーキスさんの背後へ回り込んで銃口を向けた。
「僕のこと、忘れてませんか?」
「!!」
耳元に響く澄んだ声。
ヤバ……! 背後を取られた!!
と思ったのも束の間。
気付いた時には俺はセイロンさんに綺麗に投げ飛ばされていた。
背負い投げってやつだ。
ビュンッと耳元を風が切り、次の瞬間には俺は背中から思い切り木に打ち付けられていた。
「がはっ……!!」
膝を付くようにして倒れる俺の体に、容赦なく蔦が巻き付く。
「っ!!」
慌てて逃れようとするが、既に手遅れだ。
両手両足を蔦に拘束され、そのまま再び木に向かって投げ飛ばされた。
「っあ……!!!」
二度目の衝撃。もはや声も出ない。
くっそ、せめて一撃くらい……!!
俺はぼやける視界で何とかセイロンさんを捉え、銃を構えようとする。
だが、蔦は再び俺の体をズルズルと這うように覆い、手足どころか、首にまで巻き付いてきた。
ちょ、待て……首はヤバイって……
逃れようともがけばもがくほど、余計に絡みつく。
「っ、く……っ!!」
首に巻き付いた蔦がゆっくり絞められていく。
嘘だろ、セイロンさん……本気か!?
苦しい……このままじゃ、息が……
マジで死ぬ……!!!
意識が途絶えかけた所で──ふっと蔦が緩み、俺の体はその場に投げ出された。
「がはっ……てッ、ゴホッ、ゴホッ……」
ギリギリ酸素を取り込んだ喉が喘ぐ。
これは、ゲームオーバー……だよな……
何とか荒い呼気をしながら、顔を上げた。
セイロンさんとトーキスさんが並んで立っている。
その両側に、地に伏した俺と、崇影の姿……
崇影は全身切り傷だらけで、肩から血を流して倒れていた。
俺がセイロンさんにやられていた間に、崇影はトーキスさんにやられたのだろう。
辛うじて崇影がトーキスさんに食らわせた突進は……トーキスさんの衣服を破ったものの、大きなダメージにはなっていないように見える。
結局──今回も全然敵わなかった。
「この短時間でこれだけの罠を仕掛けれたのは褒めてやるよ」
トーキスさんがそう笑う。
「蔦を集めて木々を結びつけ……蔦を踏めば周囲の木が不自然に揺れるように仕込んだわけですか。注意を逸らすという意味では有効な作戦でしょうね」
セイロンさんが地面に張り巡らされた蔦を引っ張る。
それに伴い、蔦に繋がれた木がガサガサと揺れる。
そう、今回の俺達の作戦は『自分達以外の物を囮に使う』という作戦だった。
自分の隠れている木以外の樹木を揺らすことで、あたかもそこに隠れているように見せかける。
そちらへ注意が向いた所を奇襲すれば或いは──と思ったのだが、やはりそんな上手くはいかない。
蔦を一瞬踏んだ時点で、トーキスさんに見破られてしまったしな……
経験値が違い過ぎる。
セイロンさんは倒れた俺達にそっと近づき、治癒を施してくれた。
また連敗記録を更新してしまった。
けど、次だ!!
次こそ──!!
作戦はもう一つ考えてある。
若干卑怯な方法ではあるが、この際背に腹は代えられない。
俺は覚悟を決めた。




