変化
俺が向かったのは、学校の食堂。本当は昼休み以外立ち入り禁止だけど、ばれなければ大丈夫だろう。
ここだったら誰もこないだろうし、話も外に聞こえない。
「こんな所を選ぶんだ。へぇ。」
何が可笑しいのか桐沢晶は、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。
「で、教えてくれる気になった? 君が本気で死のうとしていたか・・・。」
「なぁ・・・なんでそんな事に興味があるんだ?」
「教えなーい。」
「じゃあ、俺も教えねぇ。」
「えー・・・まぁ、佐伯君なら良いかな。」
桐沢晶はいきなり、ブレザーのボタンをはずし始めた。
「ねぇ、私の噂しってる?」
ブレザーを脱いで、ブラウス姿になると、今度は右腕のボタンを外した。まさか。
「リストカットしているって噂。あれ、本当なんだ。」
右腕の手首。細い手首にあったのは、いくつもの刃物で切ったような傷痕。もう治っているようだけど、その傷痕は一生消えないように思えた。
「あ、もう、やってないよ。やめたんだ。」
「なんで。」
思わず聞いてしまった。桐沢晶はブラウスのボタンをしめて、ブレザーを着る。そして、
「去年の十二月、君を見たのがきっかけ。」
と答えた。
「私ね、去年の十月の終わり、友達といろいろあって悩んでて、これ、」
右手首を指差した。
「始めたの。最初は一回だけだったんだけど、どんどんエスカレートしていってさ。本気で死のうと考えたとき、君があのビルに入っていくのを見てね。なにをするんだろうなーって思って、ついていったの。そしたら、君が拳銃を持って、自分を打とうとしてたじゃん。でも、空砲で・・・。なんで、佐伯君みたいなサッカーがうまくて、才能がある人間があんな事をしたんだろうって思って、それから君のことを調べたの。君がどんな人か、すごく興味があってさ。そうしている内に、私、死ぬこと忘れてるの。」
桐沢晶は一通り喋り終わると、息をついて、髪を耳にかけた。
俺と桐沢晶は同じだ。と、思った。
「次は佐伯君の番だよ。教えて、君の事。」
なんて答えればいいか悩んだ。けど、冷静になりたくない自分がいて、思うままに話したくなった。
「・・・俺はあの時、本気で、死のうとした。病気になってから、死ぬことをずっと考えていた。」
桐沢晶は黙って聞いていた、
「その時、あのビルに入ってみたくなって、あれを見つけた。それで引き金を引いたけど、空砲。そしたら、急に馬鹿らしくなってさ・・・。死ぬことはやめたけど、今、すっげぇ毎日がつまんねぇ。」
「もう一度、サッカー部に入ればいいじゃん。」
さっきの悠助と似たような事を言う。
「それ、さっき悠助に言われたよ。」
「だったら入りなよ。私、佐伯君の事、応援するよ。」
応援するよ。か・・・。
「俺が戻っていいのか・・・?」
「・・・うん。」
その一言がやけに心強かった。
「あ、そろそろ部活行かないと。友達に怒られちゃう。」
「へぇ。お前って何部?」
「美術部。でも、最近入ったんだ。」
「最近?」
「うん。私、君を知る前まですっごい毎日がつまらなかった。でも、君を知ってから変わったんだ。そして、これからも君のことが知りたいって思ってる。良かったら、また話そう。」
桐沢晶はそう言うと、食堂から立ち去った。
桐沢晶が変わったんだから、俺も変わらなくちゃならない。
そう思った。
俺は悠助にさっきの返事をするため、教室に戻った。




