頼み
放課後。
宏人は部活に行ってしまい、俺は、まだクラスメイト達が無駄話している教室で、自分の席に座って、外を見ていた。もちろん、振りだけど。本当は、桐沢晶に話しかけるタイミングを探している。
クラスメイトがいる教室で桐沢晶を呼び出すなんて、そんな目立つ事をするより、桐沢晶が教室を出たときに話せばいいと思ったからだ。
「潮。」
「あー? ・・・悠助?」
悠助だ。サッカー部でクラスメイト。俺がまだサッカー部にいたとき、それなりに仲良くしてた友人。けど、部活をやめてから、サッカー部の同級生達とは自分から避けていたから、最近は全然話してなかった。
「よ、悠助、おひさ。」
「おひさって、同じクラスの奴に言うか?」
「だけど実際そーじゃん。」
「まぁな。でさ、潮。頼みがあるんだけど」
「頼み? なんだ。」
悠助の頼み事だ。俺に出来る範囲のことならやる。
「えっと、サッカーの事だけど・・・さぁ・・・」
悠助はなぜか言うのを躊躇っていた。サッカー部のことだから、俺に遠慮して言いにくいのかも知れない。
「一年生が部活に入ってきたのよ・・・。それで、三年は大会があるじゃん。だから、二年が一年の指導するだろ。」
他の学校はどうだが知らないが、ここのサッカー部は三年が大会に出るため、一年生の世話はすべて二年生がやるというのが暗黙の了解になっている。
「それでさ、今年の新入部員かなり多くて、二年だけじゃ指導以前にまとめきれないんだ。」
そういえば、今年の新入部員は二年の二倍近くいるとは聞いた事がある。
「だからさ、潮。その・・・もう一度・・・」
なんだ。そんなに言いづらいことなのか? いったい、どんな頼みだって言う-
「もう一度、サッカー部に入らないか?」
一瞬、悠助が言った言葉の意味が分からなかった。
「確かにお前はあの事があるから、できないけど・・・。教えるぐらいだったら、できるだろ。つーか、俺もお前に教えて欲しい。潮みたいな天才がサッカーをしないだなんて、勿体ねぇから。」
やっと意味を理解して、俺は答えを考える余裕ができた。
確かに、教えるぐらいだったら今の俺でも出来る。サッカーは今でも好きだし、そこに携われるならもう一度入部したい。ただ、なんとなく・・・決断できない。
そして、ふと、桐沢晶の席を見てみた。さっきまで友達と話していた桐沢晶はそこにいなかった。もしかして、俺が悠助と話している間に帰った?!
「悠助、俺ちょっと用事思い出した!」
「え・・・ちょ・・・潮!」
桐沢晶が出て行ってから、そんなに時間は経っていないはずだ。まだ近くにいるだろう。
俺は教室を出て、廊下を見渡す。桐沢晶はいた。あの時と同じで、階段の方に向かっている。この距離なら、呼べば気づくか?
「桐沢晶!」
桐沢晶は振り向いた。少し驚いていたが、すぐに笑顔に戻って、周りにいる友人に何か言うと、俺の所に駆けてきた。
「話してくれるの? あの事。」
「・・・とにかく、どっか行こうぜ。ここじゃ無理。」
「そう。じゃあ、どこにする?」
その時、俺が思いついたのはあの場所だった。俺は何も言わず、あの場所に向かう。後ろから、足音がするから付いてきているのだろう。