保健室
鼻につく消毒液の匂いがして、目を開けてみた。天井にあったのは明かりの付いていない蛍光灯。俺はベットに寝ていた。周りにあるカーテンを開けると、そこは学校の保健室。夕日が差していた。
誰がここまで運んでくれたは知らないけど、時計を見て、もう帰る時間だと分かって、ベットから起きる。
ふと、ドアの近くにあるゴミ箱の中を覗いてみた。俺の薬が入っているはずのケースが入っていた。中には薬は無い。
ドアを開けて、自分のバックを取りに戻るため教室への道を歩いた。
桐沢晶が保健室まで運んでくれたのだろうか。いや。あんな女が男を運べるだけの力があるとは思えない。じゃあ、先生が? それもないだろう。先生達には薬の事は教えていない。薬の事を知っているのは・・・
「あー! 潮ー!」
前から聞こえる声に顔を上げると、二つのバックを右肩にかけるという変な格好をしている宏人がいた。
「宏人。」
宏人は俺の所まで駆けてきた。
「ったく! 心配かけやがって・・・。今は大丈夫か。」
「ああ・・・一応。」
「そっか。」
宏人の持っているバックは俺のだと分かって、
「バック。」
と言ったが、「俺が持つ。」と言って渡してくれなかった。
「もうそろそろ学校閉められるからな。行くぞ、潮。」
「あー・・・。」
俺達は昇降口の方に向かった。
「宏人。」
「あ?」
「俺を保健室まで運んだのって、お前?」
「そーだよ。軽すぎだよお前。簡単に運べたぜ。もうちょっと太れ。」
「薬も・・・」
「俺が無理矢理飲ませた。」
やっぱり、全部宏人がやってくれたんだ。じゃあ、あの桐沢晶は。
「桐沢晶は?」
宏人はその質問に顔をしかめた。
「・・・晶ちゃんがいきなり軽音楽部の部室にやってきてさ。俺を部室の外に呼び出して、潮が倒れた。って言われて・・・。」
先生じゃなくて、宏人呼んでくれたのは有り難いけど、なんで宏人を呼んだんだ。普通だったら、まず先生を呼ぶだろう。
「あいつさ、顔色一つ変えずにそう言ったんだ。そしたら、そのまま帰っちゃったんだぜ。『誰にも言わないから』っとか言って。まるで、潮の病気を知ってるみたいだった。」
知っているのかもしれない。俺の事を調べたと言ったぐらいだ。病気の事を知っていたとしてもおかしくない。そして、万が一の時の処置の仕方を知っているのは宏人だけ、という事を知っていても・・・。それだったら、先生を呼ばずに宏人を呼んだ辻褄が合う。
「なぁ、なんで発作起こしたんだ?」
俺は宏人に話そうか迷った。俺はあの事を宏人に話したくない。だから、適当に誤魔化した。
「桐沢晶が教室に忘れ物を取りに来てさ。少し話したんだ。その時、桐沢晶が取りに来たノートをまた机に忘れてさ、それで思わず走って・・・。」
「馬鹿。そんなことで走るなよ。っていうか、忘れ物? リストカットの間違いじゃないか?」
「いや。たぶん違う。」
「ふーん。まっ、晶ちゃんがリストカットしてないにしろ、あんま関わらない方が良いと思うぜ。」
宏人は少し間を開けてから、「変だよ、あいつ。」と付け加えた。