噂
青い空と白い太陽。
南向きの校舎の二階。窓際の席は日差しがきつくて、授業を受ける気にならなかった。 早く授業が終わってほしい。
「あー・・・。後、三分か。切りも良いし、これで授業終わりにするか。号令。」
先生の一言に教室にざわめき声が広がる。
その中にまぎれて聞こえてきた俺の名前。
「潮。」
宏人が俺の所に来た。
宏人は俺の小学校の頃からの友人。
「飯喰いに行こうぜ。」
俺は宏人の誘いに無言で頷いて、立ち上がり、バックから五百円玉を取り出した。
俺と宏人は、ゆっくり歩きながら購買へ向かった。その間、今度のテストの話とか部活の話とか、クラスメイトの変な噂の事を話していた。
その中の一つ。単なる暇つぶしの一環のたわいのない話。
「なぁ、潮。晶ちゃんの噂知ってるか?」
「晶? 誰それ?」
「同じクラスの桐沢晶ちゃん。」
「桐沢晶・・・。」
聞いたことがあるような、無いような名前。少し考えてから、あるクラスメイトの顔が頭に浮かんだ。
桐沢晶。クラスメイトの一人で、どっちかと言うと大人しめな女子で、一度も話したことがない。
「ああ、あいつがどうかしたのか?」
「・・・本当かどうかは知らないんだけどよ。」
ちょうど購買について、パンを選びながら話を続けた。
「晶ちゃんってリストカットしてるみたいだぜ。」
「はぁ? なにそれ。」
思わず、パンを選んでいた目を宏人の方を向けてしまった。
「それ本当かよ?」
「だーから本当かどうかは分からないって。」
身近にいる人がリストカットしているだなんて、気分が悪い。
そして、桐沢晶がリストカットをしている場面を想像して、次に浮かんだ場面は引き金を引いた、あの時の俺の手だった。
「四百五十円。」
はっとして、前を向いた。購買のおねえさんともおばさんとも呼べない微妙な歳の女の声だった。俺は慌てて五百円玉を渡して、おつりの五十円を受け取った。そして、俺は早くその場から立ち去りたくて、宏人に「先に行ってる。」と行って早足で教室に戻った。
教室にはクラスメイトの半分ぐらいが、それぞれ集まって昼ご飯を食べていた。あの桐沢晶もその中にいた。
あんな噂を聞いた後だから、彼女の両腕が気になってしまった。けど、制服で隠れているのだから、リストカットの痕など見えるわけがなかった。それに噂なんだから、リストカットなんてやってないのかもしれない。
それに、友達の中で楽しそうに笑っている彼女が、リストカットなんてするような悩みを持ってるとは思えない。
俺は自分の席に座って、宏人を待つ事にした。宏人は一分もしないうちに追いついて、俺の前の席に座る。
それからパンを食べながら、また、俺達はたわいの無い話をした。
さっきの桐沢晶の話も宏人の頭から消えていっただろう。俺も宏人の話を聞いている内に、桐沢晶の噂もあの光景も忘れていった。