第28話 魔王が串焼き屋をやっていました
夏休み期間に7つの不思議を全て回るのは無理です。
今回は、”不思議な森”から、さらに100キロメートルほど奥に入った、標高2000メートルの山の中が目標です。
そこは、滅多に人が立ち入るところではありません。ミズホ河に合流する支流の一つで、テンリュウ川を遡ることになります。その名の通り、”不思議な森”を西に30キロメートルほどなだらかな森を抜けると、一挙に2000メートルの急な登りに当たります。その2000メートルの上空から、段々と流れ落ちてくる様を天に上る竜に例えてこの名が付いたとのことです。
一応、王族の旅なので、馬車には王族であることの、2本の瑞穂が交差する紋章を描いた旗がなびいています。そして、左右に親衛隊が護衛についています。仰々しいですが、これは王族の示威行為でもあります。みなさんを見守っていますよ!ってね。
さて、前回と同じ王様の巡視用の宿泊施設に着きました。
「「さあさあ、行こうよ。町をみて歩こうよー」」
カトリーヌちゃんとマキ君が、声を合わせて訴えています。ところで、あなたたちは何時からそんなに仲良しになったの?
着替えました。私は、黄色のブラウスに紺色のオーバーオール、靴は茶色の半長靴、ツインテールに白いリボン。アンズちゃんは、白の着物に紫の袴です。アランは冒険者風、マキ君も冒険者風。カトリーヌちゃんは水色のワンピース。ドラコちゃんは黄色のオーバーオール。護衛は冒険者風に。侍女の2人は、町のお姉さん風。
それぞれ、お忍び?、ということで楽しみましょう。
ジジは、アランの肩の上です。
宿を出て、広場に向かいます。たくさんの人が行き交い、露店の掛け声が五月蠅いです。
3つ巴の太陽が、真上にあります。お腹も空きました。
屋台がたくさん並んでいます。肉串がいい匂いを漂わせています。
アランとドラコちゃんは、水を得た魚のように、屋台をはしごしながら買い込んできました。
さて、どこで食べようかと、周りを見渡していると護衛と侍女たちが、広場の一画にテントと椅子を用意していました。
「ここ、大丈夫ですか?。公共の場ですよ」
「大丈夫です。ここにミズホ王国の旗印がありますので」と侍女のアカネが応えました。
「うーーーーーん。これじゃお忍びにならないよ」
私とアンズちゃんとカトリーヌちゃんは、おとなしく急場のテントの下で座っています。
広場のステージで、若い女の子が踊っていました。それをじーっと見つめるアラン。次第に息が荒くなって、ピコッと白い耳が頭に飛び出しました。それを見たマキちゃんが、すかさずゲンコツをアランの頭に落としたのです。
(アラン、ダメだよ、冷静に・・・・・)
面白いもの見てしまいました。
「サヤカ!、魔王が居るよ。おれロックオンされている。おぉ手招きしているよ、どうしよう?」
「ジジ。あぁ・・、あそこの串焼き屋のおっさん?。それより、魔王って恐ろしく危ない奴じゃないの?」
「いや、女が魔女で、男が魔王。初代魔王サクヤは悪鬼を封印して、この世界を救った英雄だよ。で、どうする?」
「行ってみよう」
「こんにちは!。魔王さん?」
「いやあぁ、こんなところに魔女様が現れるなんてびっくりしたよ。おれはラムジ。魔王代理だよ。こんなところで長話はできないので、夕方、宿に伺ってもいいかな?」
「良いですよ。食事を用意して、お待ちしております」
広場や大通りを練り歩いて、宿に帰り寛いでいました。
夕食の時間になって、魔王代理のラムジがやってきました。
商会の知り合いと言うことで、皆にラムジさん(魔王代理)を紹介しました。皆には魔王の存在は伏せています。初代魔王サクヤは、おとぎ話にも出てきますが、魔王が今も居るとは誰も想像できないようです。
そして、旅のはなしや商いの話で、盛り上がりました。
その中で、不思議の森や今回の旅の目的である”地下トンネル”についても話題に上がりました。
「”地下トンネル”の存在は、各地にあるんだ。この国にも3か所あるよ。君たちが調査しようといしているところもその一つだね。北西にある”とちのきむら”の奥に2つ目。スローン王国との境界にあるツキミ町に3つ目がある」とラムジおじさん。
「奥はどのくらいあるのでしょうか?」
「何処に繋がっているのでしょうか?」
「モンスターはいるのでしょうか?」
次々と質問の嵐。
「それは、わからない。自分で確かめるのが一番だと思うね」
「なるほど、それは百聞は一見に如かずですね」
「うん!。サヤカさんは、どこでその言葉を? まあ、良いか、魔女候補さんだったね」
翌日、私とジジ、アランはラムジが住む街外れにある小さな家を訪れました。
「やあ、どうぞどうぞ」
「お邪魔します」
「いらっしゃい」
夫婦で住んでいるようです。
「紹介するよ。妻のリリーだよ」
「えっ、まさか、あのリリーさん?」
「そうです。あのリリーです。サヤカ様がリリーの花屋をあの場所で始めていただけるなんて、嬉しくて」
本題は、魔獣化するアランを魔の国に移すかと言う話です。本人の意向もさることながら、周囲の理解が必要だと。
「アラン、どうする?。周囲は薄々感じているし、マキちゃんは確信しているよ」
「アランよ。身の置き場が危ういのであれば、正直に申せ。ただ、無理に連れていくことはない」
「おれは、このままサヤカに付いてゆきたい。サヤカが迷惑でなければ」
と言うことで、サヤカ預かりとなりました。
ラムジさんの情報は、それとして、我々も独自に調査しましょう。
幸い最近、その場に行った人の話を聞くことができました。
「わしは、鉱物調査が仕事で、3年前にそこを覗くことができたぞい。もう一度行く体力は無いぞい」
「どのくらい深いの?」
「中の様子は?」
「モンスターはいないの?」
矢継ぎ早に、質問が彼を見舞うのでした。
話をまとめると、大人が4人並んで通れて、天井も大人2人分ほどあって、奥行きは500メートルほどあったそうです。モンスターも獣も虫もいない単純な穴で、行き止まりになっていたそうです。
このアクアの町から、不思議の森を通って、タタシ村までやっと馬車が通れて、およそ3日かかるそうです。それより奥は徒歩になって、目的地までは、さらに10日ほどかかるとのことです。地元の狩猟人や途中にある放牧場へ行く人が居るぐらいで、道は無いに等しいらしいです。したがって、私たちのような子供には到底、到達することができないとの結論です。
結局、情報を集めることができ、10歳の子供にしてみれば、それはそれで大収穫でした。
魔女見習いとしては、魔王に会えたことは大きな収穫でした。今度会ったときは、魔の国について聞こうと思いました。
(恵さんへ。こちらに来て早5年がたちました。10歳になります。友達もできて、探検団を結成して、この世界の七不思議に挑戦することになりました。でも、背は伸びません。やっと110センチメートルなんです。チビです。まあ仕方ないですね。寝たきりが長くて、骨格が成長しなかったのですから)




