シーン12
――10月9日――
折り畳み式の長テーブルを二つ重ねて一つの卓にしたものが二つ用意し、更に窓側の壁にぴったりとくっつけて設置した長テーブルの上にはお客に遊んでもらうボード・ゲームを置いた。
「これで全部だったか?」
「うん、おっけーだよせーや」
立夏に答えた直後に「こんなもんか?」という扉の向こうから快斗の声に続き「まあまあじゃない?」というのは瑞樹さんだ。
二人は入口に喫茶店の看板を付けていた、看板と言っても木製の板に”ボードゲーム喫茶 四季”と書かれているだけの地味なものだが……。
「……しかし、やっぱ少しショボ……地味じゃないか、あれ?」
「仕方ないよ……みんなゲームを覚える事ばっか考えてて飾りつけなんてすっかり忘れてたんだもんね?」
「まーな……」
快斗に相槌を打ちながら、何にしてもこれで明日の準備は整ったなと考える。
学園祭の前日だけあって教師達は最後の打ち合わせやらなんやらがあって姉さんはいないし、春香はクラスの出し物を手伝っている。 千秋も家の用事で今日は帰ってしまったので四人での準備だったが、それでも一時間と掛からずに終わりそうだった。
「しかし……四季かぁ……」
発案は姉さんで言葉の響きがいいだろうというのが理由だったし、快斗と瑞樹さんにとってはそれでいいだろう。 しかし、俺……いや、俺達にとってはそれだけではない別の意味を持つ言葉だ。
「誰も仲間外れにしない、みんなでやるって事なんだろうね?」
生きていれば絶対にこの場にいたであろう幼なじみ、俺個人にとってはそれ以上の意味を持つ女の子の名前だ。 生者の自己満足なのかも知れないが、死者に対し生者が出来る事がこういう事くらいなのも事実な気がする。
そんな事を考えていると扉の開く音がし、続いて「お~い、部長~まだ何かやる事ってあるのか?」という友人の声だ。
「……う~~ん?……だいたいは終わってると思うよ?」
「なら今日はもう上がっていいですか? クラスの方がまだやってるなら手伝って生きたんですけど」
言ってから横に立つ幼なじみをチラリと見た、そしてそいつは何かを諦めたように小さく溜め息を吐く。
「うん、いいよ」
部長の了解を得て、快斗と瑞樹さんは荷物を持って出て行った。 それを見送ってから「……んで、俺達はどうする?」と尋ねる。
「春香ちゃんを置いて帰るの?」
意地に悪い……しかし可愛さを感じさせる笑顔を見せる立夏に「……だな?」と肩を竦めながら笑って返したが、このタイミングで気になっていた事を聞いてみるべきかと思い付く。
「……その前にいいか?」
「ん? 何?」
「千秋の事なんだけどな?」
どうも最近、千秋に避けられているような気がする。 いつも通りに笑っていたあいつが俺を見る表情に一瞬だが影が差す事もあり、どうしたものかと思っていたのだ。
俺の言葉を聞いた立夏は困った顔になって「あー……」と頬を掻いた。
「心当たりあるみたいだな?」
「あるって言うか……原因はボク達にあるんだよねぇ……多分」
どういう事だろうと更に聞いてみたが、困った顔のまま黙っている……と言うよりどう答えたものか悩んでいる風か、なので俺も黙って待つことにした。
しかし、原因が立夏達にあるというのはどういう事だ、彼女らだって千秋を大事にこそすれ困らせるような事をするとは思えない。
「え~とねぇ……今はまだせーやには言えないかな? やっぱ……」
「今は……?」
「うん、今はまだ女の子のなかだけの問題なんだ、今はまだ……ね?」
口調はどこか冗談めかしているようにも聞こえたが、俺を真っすぐに見つめる立夏の茶色い色の瞳の光は真摯なものだ。 それは半ば答えを聞いたようなものだと思えたが、その事を彼女に確認する事は躊躇われた……怖かったと言ってもいいだろう。
もしも想像通りのものだったとして俺はいったいどうしたらいいのか分からない。
だから、「そうなのか……」とだけしか言えなかった。




