シーン3
二年生までの放課後は単に家に帰るだけの時間だったが今は違う、幼なじみや友人と部活をして過ごすという有意義な時間となっていた。
「今日のゲームはね……」
教室の半分ほどの広さの部室の中心あたりに置かれたテーブルの上にゲームのボードを広げた。
「……”ドラゴンと冒険者”っていうゲームだよ」
いかにもダンジョンという雰囲気にデザインだ、そこにはいくつものマスがあるからすごろくのようなゲームなんだろうと考えた。
「えっとね……このゲームは冒険者になってダンジョンの奥に棲むドラゴンの宝物を取ってくるゲームなんだ」
ボードの上部にあるスタート地点が地上で、そこからダンジョンの奥深くへもぐり宝物を取ってから無事に生還を目指すらしい。
「宝物は人数分あって、一人一個までしか持てないから早いもの勝ちじゃないけど、それぞれ点数が違うよ」
「ふむ? ならば得点の高い宝物の奪い合いになるか……?」
「そうでもないよ冬子姉ぇ、さっきも言った通り生きて帰るまでがゲームだからね。 点数の高いのは奥の危険な場所にあるけど、低いのは浅く安全な場所に置くんだ」
宝物をゲットしても帰還途中で死んでしまえば得点はゼロ……つまり、あえて点数の低い物を狙い帰るという選択もあるって事か……もちろん、高得点を取ったプレイヤーに生きて帰られれば負けにはなるのだろうが。
その後もインストは続き、「…………って感じなのがだいたいのルールね?」と最後に立夏が聞いてくるが、特に質問は出なかったのでゲーム開始となった。
ジャンケンで決まった一番手は俺なのでまずは「二歩進むぞ」と宣言をして一歩移動するというカードを手札から出して自分の駒を動かす。 剣と盾をもった人間の形をした木製のコマは、誰のものかが分かるように赤や青などの色で塗られている。
「……で、良いんだよな?」
「うん。 じゃあ、次はどうする」
移動したら次にモンスターと戦うか否かを選択する この場合はモンスターカードの山札から一枚捲りそのモンスターと戦う。 ただしモンスターにはレベルがあってレベルごとの山札を作ってある。 そして最初はレベル1から捲るのでいきなり強敵が出てくることはないらしい。
そして、その通りとばかりに出てきたのは”ゴブリン”、ファンタジーに疎くても雑魚と分かるモンスターだ。
「……楽勝そうだな」
戦う場合は勝てばモンスターのレベル分の点数とアイテムカードを引くことが出来き、負ければ自分のライフ・ポイントが今度はレベル分減る事になる。
そして10ポイントあるそのライフがゼロになったプレイヤーは脱落となる。
「じゃーサイコロ振ってね~」
モンスターとのバトルは六面体のダイスを振り相手のパワー値以上の数値を出せば勝ちだ、この時にアイテムカードを使えばその数字に修正を加えられる。
ちなみに六面体ダイスとは四角い形の、いわゆる普通のサイコロの事だ。
俺が振ったダイスの目は4、ゴブリンのパワー値は3なので俺の勝利だった。
その後でアイテムカードを一枚引き、それから残った手札を捨て札にし自分の山札から新たに四枚のカードを引いて手番を終えた。 プレイヤーの初期の手持ちカードは十枚で、そこに今手に入れたアイテムカードを加えていくことになる。
「じゃあ、次は千秋ね~~」
二番手の千秋も俺と同じ手順をこなしていくと、同じようにイベントカードでモンスターとの遭遇を引く……ただし、俺と違い千秋はゴブリンに負けてしまった。
「わ~~負けた~~~!?」
悔しがる千秋に続いて快斗の番だが、快斗は手札の関係で一歩移動しか出来なかったようだ、そして戦闘では先ほど千秋が倒し損ねたゴブリンを倒す。 これでわかると思うが戦闘を選び負ければ自分のライフが減るだけでなく、次のプレイヤーに対し戦うべき敵がオープンにされる。
なので手札を見て勝てそうなら戦えばいいし、無理と思えば迷うことなく戦闘回避を選択できるようになってしまうのだ。
「む~~ずるい~~!」
「し、しょうがないだろ千秋ちゃん、そういうゲームなんだから……」
更に春香達も行動し、そして再び俺の手番……の前にドラゴンの番がある。
立夏がドラゴンカードの山からカードを引くと、そこには攻撃と書かれていた。
この場合はドラゴンの攻撃でドラゴンのレベル分のダメージを全員が受けることなる、最初のレベルは1なので今回はライフが1減るだけだが、この先プレイヤーの誰かが宝を手に入れると上がりダメージが増えていく事になるらしい。
「成程……確かにこれなら低得点で素早く帰還という戦術も有効ってわけですね」
瑞樹さんが納得する、説明は受けていたとはいえ実際にプレイしてみて実感がわいたのだろう。
「そういう事。 でも、比率的には攻撃のカードは多くないから運が良ければそんなには攻撃は来ないよ? 一応ライフ・ポイントの回復手段もあるしね?」
「でも……運が悪いと続けて何回も攻撃が来るって事だよね?」
春香の言う通りだ、これは結構運要素の強いゲームだな。
最初こそみんな同じルートだったが、やがてそれぞれにルートを選び分かれていく。
俺は二番目に点数の低い宝物を狙うようなルートを選び進んでいく。 そしてその俺と同じルートを立夏も進んで来るのはあいつも同じものを狙っているのだろう。
更にゲームは続き、行動を終えて手札を補充した俺は「……な……しまったっ!?」と心の中で叫んだ。 宝物まではあと三マスで手札にある移動カードをニマス分で、対する立夏も同じ位置で止まっているが、問題なのはそこではない。
俺の手持ちの移動カードは三枚で、うちの一枚は捨て札だ。 そして残り山札は四枚なので次の手番に移動カードは手札に来ない、つまり移動できないのだ。
その山札のカードには移動力をプラス1するアイテムカードがあるのだが、あくまでカード一枚の移動に1足す効果なので、移動カードそのものがなければ意味がない。
これは取られると思いながら立夏の手番が来たが、しばらく何かを考えた後に立夏は別の方向にコマを動かしたのに俺は驚く。
「立夏……?」
「ん? あー気にしないで、ボクが狙いを変更しただけだから……」
立夏が言うにはこの宝物を狙うのはプラン1で、他のプレイヤーの動きによっては別の物への変更も考えていたからだそうだ。 言われて俺も周りを見てみると、春香がもう少しで俺狙っているものより高い宝物を取りそうで、かつライフもあまり減っていないようだ。
「成程ね、確かにこいつを取っても勝てないか……」
「ん~~……でも、絶対じゃないからねこのゲーム。 春香ちゃんが脱落すると踏んでせーやがこれを取るのは十分ありだよ? ただ、ボクは春香ちゃんが生き残った場合を考えて動いただけだからね」
十分に筋は通っているし、立夏の性格を考えれば情けでこの宝物を譲ってくれたというわけでもないだろう。 そもそも俺の手札がどうかは立夏には視えていないのだ。
「流石に立夏はやり慣れているな……だが私も要領は分かってきたぞ?」
不敵に言う冬子姉さん、名目上は顧問なのに完全に部員として遊んでいる……まあ、姉さんが楽しいならいいんだけどさ。
そんなこんなで、今日も楽しい部活の時間はあっという間に過ぎていった。




