シーン19
――4月29日――
今日はゴールデン・ウィークの初日……と言っても世間的にはの話であって学生のわたし達はまだ明日と明後日は登校するんだけどね。
みんなとはその後の土曜日に少し離れた町の遊園地へ遊びに行く事になった。
こういう時の旅費とかその他諸々はお小遣いじゃなくてお母さん達が出してくれるのは大人の冬子さん以外はみんな同じなのでお金の心配はしないでおもいっきり遊べる。
十時を過ぎたくらいにわたしはふらっと家を出たのは、気晴らしにウインドー・ショッピングとでも行こうかなって考えたからだったんだけど……。
「……おや? 春香じゃないかい」
……と、家の前で永遠さんに声を掛けられた五分後には、この人の縁側に並んで腰かけていた。 暇だから少し話し相手になってほしいと言われたののであって、決して美味しいお菓子があるからと言われたからじゃないよ?
「連休はどこにも行かないのかい?」
「いいえ、土曜日にみんなで遊園地に行く予定です」
「へぇ? いいねぇ……楽しんでおいでよ?」
わたしは「はい!」と答え後で、永遠さんの足元のアインがこっちを見ているのに気が付いた。
「え~と……もしかしてアインちゃんも行きたいのかな?」
もちろん返事が返ってくるわけもなく、「うふふふふ、そうかもねぇ?」と代わりにご主人様の笑い声。 もちろんだけど、流石にペット――という表現は永遠さんはしないが――は連れていけない。
それから、二人で他愛無い世間話が始まった……。
「そういえば春香ちゃん、金曜にやる映画は見るかい?」
金曜日の夜に昔の映画をテレビ放映しているからその事だとすぐに分かる、確か今週は死んだ人たちが期間限定で生き返る現象が起こるっていう映画だったはず。
「あんまり興味ないですけど……でも、そうですね……死んだ人にもう一度会えるなら……」
わたしは四季ちゃんと会いたい、あって謝りたいと思う。 でも、それは決して叶わない事だから、そう理解しているから「そういう魔法とかないんですかね?」と軽い気持ちで言ってみた。
だえど、「……そんなものはないよ」と言った永遠さんの表情はとても真剣で、少し悲しげに見えた。
「……でも、そうかい。 春香にはそれでも会いたい子がいるのかい?」
「ええ……まぁ……」
どう答えていいか分からず曖昧な声になった……ん? ちょっと待って……。
「永遠さん、今……”会いたい子”って言いました?」
「ふふふふ、ごめんね? 多分、四季の事だと思ってね?」
どちらかといえば老人ではなく少女にような悪戯っぽい笑みを浮かべる、確かに永遠さんだって四季ちゃんの事は知っているから当然だった。
「でもね、会ってどうするんだい?」
「どうって……?」
「死んだ人と会いたいって気持ちは分かるよ? でもそれは、もう一度その相手と別れる悲しさや寂しさを味わうって事じゃないのかい?」
そうだとわたしは思い至る……確かに四季ちゃんともう一度会えたら嬉しい、でもそれはまた死に別れを体験するという事なのだ。
もちろん、生き返りすべてがそういうわけはないが、この場合は映画の話の延長線上なので期間限定の生き返りが前提だからそうなる。
「……それでも、わたしは四季ちゃんに謝らなくちゃいけないんです……」
春香ちゃんの言う謝りたいことというのはきっとあの時の事だろう。
「わたし……四季ちゃんに酷い事を言っちゃって……いなくなっちゃえ……なんて……」
俯く春香ちゃんの悲し気な表情は、今の僕の視点からははっきり見えていた。
「そんな事を言ったのかい? 友達じゃなかったのかい?」
知っているはずなのに、本当に知らないかのような口調の永遠さん。
「……四季ちゃんが晴夜君の”婚約者”って言い出して、晴夜君もそれを認めちゃって……わたしはずっと彼の傍にいたのに、四季ちゃんは後から来たくせに……って……ずるいって……」
それは恋心じゃない、でも晴夜くんは”大好きな男の子”なのは同じで、その男の子の一番近くのいた自分がその場所を取られて、あげくには晴夜くんを独り占めされてしまうんじゃないかっていう怖さ……春香ちゃんはそう語った。
それは、僕が初めて知る彼女の本心で、僕の行動が彼女をそんなに不安にさせてしまった事が悲しかった。
「それで、そのすぐ後に四季ちゃんは……だから、もしかしたら……わたしが四季ちゃんを呪っちゃって……そのせいで……」
違うんだよ春香ちゃん、僕はただ晴夜を助けたかったんだよ……僕に”視え”てしまった彼がいなくなってしまう未来を変えたかっただけだったんだ。
そう、僕には未来が視える力があった……でも、それは決して素晴らしい能力なんかじゃななかった。 だって、僕の意志に関係なく断片的な結果だけを視せるから。
最初に視えたのはお父さんとお母さんの死……だけど、この時の僕は単なる気のせいだろうって思った……だけど、お母さん達は本当にその通りに事故死した。
次に視たのは僕を引き取ってくれた家の男の子、つまり晴夜くんの事故死だった。
だから僕は必死にそれを回避しようとした、そうしたら未来は変わった。
だから、この時も同じ事をしようとしただけだったんだ……僕がデートなんてしようって言ったせいで事故にあう彼の死を回避しようと。
「呪いかい……そうだねぇ、確かにそういう力はあるよ?」
その言葉に僕は驚く、まさか僕の死が本当に春香ちゃんの呪いだって言う気? ううん、例えそうだとしても春香ちゃんに言っちゃいけない。
「……でもね? 春香、あんたが今幸せかい?」
「……はい……でも、四季ちゃんや晴夜君を不幸にしての幸せなんて……」
すると、永遠さんは「違うよ?」と優しい声を彼女に掛けた。
「呪いっていうのはね、魔法の力と違って本当にヒトを不幸にしかしないのさ……呪われた相手だけじゃなく、呪った本人もね?」
ヒトを呪わば穴二つ……ってどこかで聞いた気がした。
「だからね、あんたが幸せなら……あんたは誰も呪ってなんかいないんだよ?」
永遠さんの言葉には不思議な重みと真実味があった……。
単なる大人のいう気休めの言葉じゃなく、この人が本当に魔法とかの力と知識を持っているかのようだった……そんなはずないって分かっているのにね。
「でも……」
「いいかい? ヒトというのはどうしても誰かを傷つけてしまう、悪気はまったくなくてもね? だってみんな幸せになりたい……不幸になんてなりたくないんだから」
そう、あの時のわたしにとっては四季ちゃんの存在がわたしを不幸にすると思い込んでしまった……。
「そうだとしても……そのために誰かの不幸を願うのはいけない事です……」
「そうだね、あんたは四季に言ってはいけない事を言ってしまった……それは謝らなければいけない事……」
分かっているけど……四季ちゃんはもういない、だからわたしは一生赦されることはない……。
「……そうだねぇ……昔の話をしようか……」
永遠さんが語ったのは一人の女性の事だった、その人は事故で親友の娘夫婦を死なせてしまった上に、事情があってその娘姉妹を自分の子供として育てた。 それだけ聞くとその人がすごい悪人に思えちゃうけど、永遠さんが言うにはそれはそれで親友や姉妹にとってはひとつの幸せなんだだそう……。
やがて真実は明らかになり、その人は自分の命をもってでも罪を償おうとした。
でもその人は赦された、親友とその孫娘姉妹は彼女を赦した……。
どうしてって聞いたら、その三人は生きていたからねって答えた。
「死者から赦される事はない……でもね、生きている者からは赦される事は出来るってことだよ春香……」
生きている者……でも四季ちゃんの家族はもういない……だとしたら……。
「……あ!」
「分かったみたいだねぇ?」
わたしは頷いた……。




