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シーン3

  終業式は何事もなく終わり、俺達は教室に戻って来てホーム・ルームを開始しようというところだ。

 俺は教壇に立つ先生を見る、肩くらいで揃えた黒い髪に眼鏡を掛けた知的な女性教師という姿の担任の名は初雪はつゆき 冬子とうこ先生。 朝から何度か名前が出て来てたから察しはついているかも知れないが、俺の幼なじみの姉さんでもあるのだ。

 父さんの友人の家の人で俺が小さい頃から家にちょくちょくやって来ては遊んでもらったものだ。 今ではそういうものでもないが、目標だった教師になった事もあって相談にのってもらったりとちょくちょくお世話になっている。

 その冬子先生が「……さてと?」と口を開いたその表情に俺は嫌な予感を覚えた、何しろ、長い付き合いだからこそ分かる何か企んでいるときの笑顔なのだから。

 「これが終われば春休みだが、その前に……みんなに転校生を紹介しよう!」

 当然、俺も含めて教室の全員が驚愕の声が上げる。

 「……晴夜君、これって……?」

 「ああ、そういう事だったんだな……」

 春香に答えてから隣の空いた席を見やる、この席はその転校生のために空けたのだろう……まではいいが、それでも何で?という疑問は残る。 しかし、「よし、入って来ていいぞ!」と先生が言ってしまうのでそれを考える時間はなかった。

 教室の前と後ろにある出入り口の内の前の扉が開き、春香の着ているのと同じ制服姿の生徒が入って来る。 まあ、それは当然と言えば当然だ。 俺が「……ん?」となったのは、緑色の髪をツインテールにしている女子に見覚えがある気がしたからだ。

 「……え? ちょ……まさか……?」

 春香のそんな困惑の声が聞こえ、彼女も同じ事を感じていると分かる。

 転校生は冬子先生の隣に来るとこちらを……というか、彼女の水色の瞳は間違いなく俺を見てにこりとした。

 「初めまして。 ボクの名前は雨空あまぞら 立夏りっかです」 

  元気な声で自己紹介をする、雨空 立夏……間違いなくあの立夏なのだ。

 「ボクは転校生だけど、実は小学三年まではこの町に住んでたんだ。 だから、もしかしたら知り合いの人もいるかもです!」

  そんな事を言いながらも、立夏は間違いなく俺と春香を交互に見ている。 しらじらしいな……と呆れれいると彼女は不意に大きく息を吸い込み、そして……。

 「せーや!! ボクは帰ってきたぁぁあああああああああっっっ!!!!」

 ……と、隣の教室まで響かんくらいの大声で叫んだのだ。

 次の瞬間は打って変わって沈黙が訪れる、俺からみんなの顔を見えないが驚きと困惑にぽかーんとなっているであろうというのは簡単に想像できる。 ついでに言うと……。

 「「「「「はぁぁああああああああああっっっ!!!!!!?」」」」」

 ……という、春香を除くクラスメイト全員の大合唱と共に視線が俺に集中するのも簡単に予想出来てはいた……。

  

 ホーム・ルームが終われば帰宅の時間だが、俺は校舎の屋上にいた。

 ホーム・ルームの終了と同時に速攻で冬子先生を捕まえてここに来たのは、面倒な質問攻めに会う前に逃げ出したという理由もあったが、最重要事項はもちろん彼女にたいする事情聴取だ。 

 目の前には楽しそうな表情の冬子姉さん・・・・が立っていて、俺の後ろには春香と立夏もいる、春香は少し心配そうに、立夏は申し訳なさそうな表情でいるだろうというのは簡単に想像出来る。

 「……それで何の要件なのかな天野君? 先生も暇ではないのだが?」

 「冬子姉さん!」

 俺のムッとした声に流石にバツの悪そうに頭を掻いた姉さんは、「……まあ、流石に悪ふざけが過ぎたか、すまんな晴夜」と謝罪してきた。

 「だが、立夏は責めるなよ? ほとんど私が考えたようなものだからな?」

 「冬子姉ぇだけが悪いわけじゃないよ、ボクも悪ノリしたのも事実だから……」

 先に言っておくと俺は正直怒ってはいるのだが、二人にこうも素直に謝れると怒るに怒れない。 なので、わざとらしくため息を吐いて見せてから「……別に怒ってはいないよ」と言った。

 「ただ、事情はちゃんと説明してほしい。 そもそも立夏はなんで帰って来たんだ?」

 立夏は俺が小学三年の時に親の仕事の都合で引っ越した、その後はもう四年は会っていない。 携帯電話くらいあるのだからと思う者もいるだろうが、その当時はまだ子供がそんなものを持つような時代には少し早く、また俺達の間では必要もなかった。

 「え~と……それはね、実はボクのお父さんが今度は外国に仕事に行く事になったてさ……流石にボクも外国の学校に通うの大変だろうなぁ……てなったんだよ」

 どこの国かは知らないが立夏は外国の言葉は話せないし、文化や生活習慣も違うから少なくとも学生の間は日本でという事か。 そういう事情なら生まれ育って知り合いだっているこの鷲頭市に帰ってくるのは分かる。

 「まあ、そんなわけでな? せっかくだからお前達二人を驚かしてやろうと思ってな? サプライズという奴だな」

 簡単に言うが、わざわざ転校日を二年生最後の終業式にするなど学校や他の教師たちが簡単に許可するはずもない、根回しやら諸々の手続きの調整やらかなりの労力を使ったのだろう。

 冬子姉さんはおちゃめな一面はあるが本来はこんな事はしない。 しかし。俺達……というか、ほとんど俺を揶揄うとなると労力を惜しまないのだから困りものだ。

 とは言え、俺が本当に嫌で不快な思いをする事は絶対にしないのではあるが。

 「……まったく、わたしも本当に驚いたんだから……あれ?」

 「ん? どうしたんだ春香?」

 「えっと……朝の時の千秋ちゃんの様子、もしかして……?」

 言われて気が付いた、朝に一緒に登校した千秋の何か隠しているような態度、あれがもしかして……」

 「姉さん、もしかして千秋には言ってあった?」

 ほとんど確信して俺が聞くのに、「うむ、そうだ」と頷いた。

 「千秋は学校が違うし、ああ見えて口は堅いからな、事前に伝えておいたんだよ」

 まったく、みんなしてと思いながらも、決して悪い気はしなかった。 何であれ親しかった友達とまた一緒に学校生活をおくれるというのは純粋に嬉しい。 

 そう、立夏との別れは二度と会えないというものではなかったのだ、まだその気になればというわけにもいかないにしろ会う機会が永遠に失われたわけでもない……あの子と違って……。

 「……あ! でも冬子さん」

 ネガティブになりかけた思考を春香の声が中断させてくれた。

 「立夏ちゃんの家は? 昔の家はもう他の人が住んじゃってますよね?」

 「……ああ、それなんだがな……実はこんな無茶をした理由はそれもあってな?」

 冬子姉さんの蒼い瞳がこちらを見た、それで分かってしまう。

 まず流石に立夏一人でアパート暮らしはさせまい、かと言って――彼女の両親の付き合いのすべては知らない俺が思い付く範囲だが――大事な一人娘を預けるくらいに信用があるなら俺か春香の家しかない。

 そのうえで姉さんが俺を見たなら……。

 「……俺ん家か?」

 一日か二日くらいなら冬子姉さんの家なりホテルなりに泊まるのも出来るだろうが、流石に春休みの間ずっととはいかないだろう。 だからこそこの人は今日という日にこのサプライズ作戦を実行したに違いない。

 言われてみれば最近、母さん達が俺の隣の部屋……かつてあの子の部屋だった場所で何やらこそこそやっていたように思う。

 しかし、それでも、僅かに残る可能性に期待して姉さんの顔をジッと見ながら問うと、姉さんはにやりという会心の笑みを浮かべ……。

 「うむ! 正解だ!」

 ……と、力いっぱいに肯定したのだった。

 

   

           

 いつもは一人、ないし二人で歩く帰路を今は三人で歩いている。

 「……ああ、やっぱり迷惑かな……?」

 不安そう立夏の声は、ずっと不機嫌そうな顔をしているのを自分でも自覚しているから当然だなとは思う。

 「大丈夫、晴夜君はそんな事を思うような人じゃないよ?」

 「……なんで春香が言うんだよ……まあ、そうなんだけどな」

 別に立夏が一緒の家で暮らすのを迷惑と思ってはいないし、冬子姉さんや両親に対して怒っているわけではない。 しかし、自分の知らないところで話が進んでいて、その思惑通りになったという事が単純に面白くなかった。

 「そうなの? なら良かった……」

 そう言うと立夏は安堵した表情になるが、少し大げさな風にも見えた。 単に俺が迷惑がっているのとは別の何かを心配していたのだろうか? あるいは気のせいか、春香もそうだが幼なじみとはいえ年頃の女心というのは男には理解出来ないところもあるのだろうと実感する事もある。

 「……そういえば晴夜君、お昼ごはんはどうなってるの? 確かおばさんは今日は出かけるんじゃなかったかな?」

 「……ん? ああ、適当にカップ・ラーメンでも作るつもりだけど?」

 こういう時の定番だったが、今朝は珍しく昼ごはん作っておこうか?と言ってきたのを変に思ったが、今はもう理由は分かっている。 立夏には悪いとは思うがそれを断ってしまったものは仕方ないので我慢してもらうしかない。

 「ん~~? わたしが何か作ろうか? おばさんの事だからお昼用の食材は火ってあると思うんだけど?」

 勘がいいな春香、立夏が帰ってくるのを知って朝にああ言ったのだから確実に用意してあるだろう。

 「でも、悪いよ春香ちゃん。 ボクは別にカップ・ラーメンでもいいしさ?」

 「遠慮しなくていいよ、それにせっかくだしわたしも三人でごはん食べたいしね?」

 少し考えて「ああ、じゃあ頼んでいいか?」と言った、流石に快斗がやっているようなゲームのヒロイン並みに料理上手でもないが、春香の作る料理は旨いしレパートリーも中学生にしてはある方だろう。

 「うん、任されたよ」

 春香が笑顔で答えた時、ちょうど俺の家の門の前に到着した。

 「立夏、そこで待っててくれ」

 「立夏ちゃん、ちょっと待っててね」

 すると俺と春香の声が重なった、どうやら同じ事を考えていたようだ。 何しろ、何だかんだドタバタして大事な言葉をまだ言っていないのだ。

 「……ん? どうしたの?」

 首を傾げる立夏には答えないで揃って門を潜ると振り返って立夏と向かう、そして……。

 「おかえり、立夏」

 「おかえりなさい、立夏ちゃん」

 再び俺達の言葉が重なる。

 まったく予想してないかったのだろう立夏はしばし唖然となったが、やがてそれは嬉しそうな笑顔へと変わっていき……。

 「うん! せーや、春香、ただいま!」

 


        

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