シーン12
この学園の一階のロビーに自販機が置かれている、少し休憩となったタイミングで俺は喉を潤そうとロビーへと向かった。
「……晴夜」
名前を呼ばれて振り返れば、用事の為に職員室に戻ったはずの冬子姉さんだった。
一見すると普段通りだが俺には姉さんが少し不機嫌になっていると思えた、俺達の為にいろいろ世話を焼いてくれる姉さんだが、まだ二十代の若い教師が生意気をやっているという風に見る年長の教師だっているだろう。
本人は言わないが、そういう教師達にあれこれ嫌がらせめいた言動をされてるという噂は俺も聞いていた。
「姉さんも何か飲むの?」
「ああ、少しのどが渇いたのでな?」
俺はコインを投入すると「何を飲む?」と聞いた。
「……ん?」
「偶には奢るよ?」
「ほう? 気が利くな?」
「そりゃね、だって”弟”だしさ?」
その表現に姉さんは一瞬キョトンとなった後に、可笑しそうに笑い出した。
「くくくく……そうか、”弟”か、成程な。 だが、ここは学園だぞ?」
だから”生徒”ではないか? 教師が生徒に奢られるわけにはいかないだろう?と言いたいのだろう。
「もう放課後だよ? だから”弟”でもいいだろ?」
「ふふふふ。 まあ、そうだな? では、ありがたく奢られてやろう?」
姉さんは炭酸飲料を選び、俺は微糖のコーヒーを買った。 それで互いにのどを潤した後に、「冬子姉さんは一人で苦労しすぎじゃない?」と言ってみた。
「……ん? そんな事はないさ、”弟”や”妹”の面倒を見るのは”姉”の義務にようなものだしな?……まあ、苦労もあるがその分くらいは楽しんでいる」
だからお前が気にする事じゃないと言ってくる、それも嘘ではないのだろう。
それでも、やはりどこか無理をしているのではないかと思えるのだ。 姉さんが俺達の世話を焼くのは昔からだったが、改めて考えてみると四季の一件の後からそれが一段と増した風にも思える。
「でもさ……」
更に言おうとした俺を遮った「晴夜……」という声は、ひどく真剣なものだった。
「お前や春香達も大人になれば嫌でもいろんな苦労をする事になるのだ、今焦って苦労や辛い思いをする事もない。 それにな? 子供には子供の苦労があるものだ、だから大人に任せられることは素直に大人に任せておけ」
そう、姉さんは大人で俺は子供だ。 そして俺が大人になるにはもっとたくさんの経験と時間が必要なのだろう、それは仕方ないと思う。
それでも姉さんの苦労を少しは背負わせてもらえるくらいにもなっていないと思われているのは悔しい、そう思っている俺の肩を姉さんは叩いた。
「悩むのはいい、焦るのも仕方ない……だが、一人で結論は急ぐなよ?」
「それって……?」
「お前が私の事を心配してくれるようにな、お前の事を心配している仲間もいるという事だよ」
それだけ言うと空っぽになった缶を缶用のごみ箱に捨てて去って行った、その後姿を見送った俺は、半ば無意識に呟いていた。
「……分かってる……分かっているけどさ……」




