シーン11
山札から五枚のカードを引いた快斗が「……げっ!?」と声を上げたので、後ろから覗き込んでみると、奴の手札は五枚中四枚が領地――得点カードで、残り一枚がブロンズ・コインだった。
言っておくと快斗と瑞樹さん、それに春香と立夏で今やっている”キングダム”というゲームは最大で四人までのゲームなので俺は見学者だ。
コインのカードを使い、場にあるイベントカードを購入しデッキと呼ばれる山札を作っていき、そこから更に得点カードを購入する。 最終的に得点カードの点数の合計が多いプレイヤーが勝者となる。
ならばコインカードだけ集めればいいかも知れないが、最高得点の領地カードの値段は8金、それに対しコインはブロンズが1、シルバーが2でゴールドが3だ。 つまりは手札五枚中にゴールドが二枚とシルバーが一枚や、シルバーが四枚がなければ購入できない。
更にゴールドコインを購入するためにはブロンズ・コインが六枚必要なので、まずはシルバーから数を揃えていくしかない。 しかも、最初の手札には一点の得点カードも入っているため、運だけに頼ったプレイでは必要なコインを手札に集めるのも一苦労なのだ。
その為にこのゲームは様々な効果を持つイベントカードでいかに効率よくデッキを回すかがカギになる。
そうこうしていると瑞樹さんが手札にコインを揃えて最後の一枚となった六点の領地カードを取ってゲーム終了となった。
「くっそ~もう一回俺の番が回ってくれば……」
「残念だったね~?」
どうやら六点カード一枚の差で快斗は瑞樹さんに負けたみたいだな。
「……ふむ? このゲームはなかかなよい出来だな? しかし、カードの種類はこれで全部なのか?」
イベントカード数十種類あり一回のゲームで箱の中から十種類を選んで使う、その組み合わせでいろんなゲームが出来るのも、またこのゲームの面白いところだ。
「ううん、もっといろいろな拡張のカードとかもあるんだけどね。 全部手に入れると置き場所を取るし、運ぶに重いし……何より予算がねぇ……」
やはり部活動とするにはゲームのレパートリー自体が少ないかも……と立夏が肩を竦めると、「あー確かにこういうのってお金かかりそうですねぇ……」と瑞樹さん。
「そういえば部活なんだから部費とかでないの姉さん?」
俺が聞いてみると姉さんは渋い顔になる。
「うむ……交渉はしているのだが生徒会長が頑固でな? 申請は受けるけど支給は来年度でないと無理の一点張りでなぁ……」
部費をいくら出すかの相談なんかの手続きやらもあるし、立ち上げたばかりでどれだけ活動を続けられるかもまだ不明なら仕方ないのかも知ればない。
「ともかく交渉は続けてみるが、当分はゲームは立夏の私物に頼らざるを得んな?」
「まあ、仕方ないですよね……」
そう答えた立夏に、「その代わりというわけではないのだが……」と服のポケットから茶封筒を出して立夏に差し出した。
「これでこのゲームの拡張でもいいし、他に良いのがあればそれでもいい。 お前の好きなように用意してくれ」
もちろん所有者は立夏で良いと続ける、自分が持っていても役に立たないし、部活動の備品として学園に寄付するのも癪だからなという理由らしい。
「ちょ……そんなの悪いよ……」
「なに、部活を作れと焚きつけたのは私だからな? これくらいはして当然だ」
実際には事務的な手続きだとか交渉だとか十分に責任は果たしているはずなのにな、姉さんらしいと思う。 昔から年長者として俺たちみんなの事を常に考えていてくれている。
しかし、その姉さんに好意に甘えてばかりもいられないかと、俺が動こうとするより早く「ちょっと待ってろ」と快斗が自分の鞄へ向って開くと中から財布を取り出した。
「これでも少しは足しになるだろ?」
数枚の紙幣を立夏に差し出した、みんな当然驚くが一番驚いたのは瑞樹さんだった。
「ちょっと……それって今月発売のゲームを買うとか言ってたお金でしょう!?」
「そうだけどな、どうせ今やってる途中の奴を終わらせないとそっちは買ってもプレイ出来ないし、こっちに時間を割くなら発売日までに終わるかも微妙だしな?」
だったら、こっちで有意義に遊べるようなボードゲームがあった方がいいと快斗。
それは立夏に気を遣っての嘘ではないのだろうとは思う、最初はやる気がない事でも一度やり始めてエンジンがかかると、とことんやろうというのが快斗だと段々と分かってきていた。
もちろん、困っている友達を助けたいという人として当然の心もちゃんとあっての事なのも間違いないだろう。
「当麻、気持ちはありがたいが生徒にそんな事をさせるわけにはいかんぞ?」
「そうだと、悪いよ快斗君!」
その二人は、「……はいはい、私も家に帰って貯金箱を開けてみます」と瑞樹さんが言ったのにぎょっとなった。
「小石川までか……」
不意に学生服の裾を千秋が掴んできた、そして「晴夜君……」と春香まで俺を見てくれば「ああ、そのつもりだよ」と頷いて見せた。
「立夏、姉さん。 俺達も協力するよ? いや、それくらいさせてくれよ」
「うん、千秋もお小遣い少ないけど……協力するよ~」
「立夏ちゃんや冬子さんにばっかり負担は掛けられませんしね?」
立夏が「ど、どうしよう……」と冬子姉さんを見上げる、みんなの好意は嬉しいし無下に断るのもそれはそれで悪いと思っているのだろう。 その姉さんはしばらく考えていた、教師としての立場と、俺達の姉さんとしての存在としてはいろいろと葛藤があるのだろう。
「……では、こうしよう。 我らはみんなからカンパを募って部活動に必要なボードゲームを購入すると……そしてその管理は立夏に一任するという事だな」
無難な理屈だとは思う、やる事はまったく変わっていないのに言葉一つでこうも受け取り方が変わるものだ。 そして、こういう言い方なら立夏としても「うん……そういう事なら……」と納得するしかないようだ。
「でも先生、そうなるとそれらゲームの所有権は誰になるんですか?」
確かに瑞樹さんの言う通り、学園側でもないし俺達の誰かというわけでもないだろうう、強いて言えばボードゲーム部の所有となるのか。
「ひとまずは部員全員という事でいいだろう。 四年後のこの部活がどうなっているかなど誰にも分らんしな? 万が一廃部にでもなるならその時に希望者が引き取ればいいしな」
四年後と言うと俺達が学園を卒業した後という事だろう。 一応は千秋はまだ在籍中だが、俺達のいなくなったボードゲーム部にいる理由がないなら無理に続けなくても良いという事だろう。
その辺は”冬子先生”ではなく、冬子姉さんとしての判断だな。
「だからというわけでもないが、立夏個人のゲームも部室に持ってきた物は基本的に誰でも自由に使って良いという事にしたい……」
そこで俺達を見渡す。
「無論、全員がそれを自分の物同様に大事に扱うという約束が大前提だ」
それは当然だ、他人の物だから雑に扱っていいわけはない。 ましてや、快斗や瑞樹さんはともかく俺達は幼なじみだしそんな事は絶対にしない。
無論、快斗達も友達の大事なものを雑に扱う事はしない性格なのは分かっている。
だから、もちろん全員が頷く。
「はい、ボクもそれでいいです」
そして、それを立夏も分かってるからだろう、そう即答した。




