気合
「……ってぇ」
「マスター!マスター!」
足の痛みで目が覚める。
ふと辺りを見渡すと、見知らぬ部屋だった。
ただし外は見覚えがある。部屋の雰囲気からも、俺達が借りていた宿である事に間違いない。
「マスター、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫ではないがとりあえず命に別状は無さそうかな」
「良かったぁー……」
「ごめんな、心配かけて」
コータにここまでの経緯を聞く。
まず、俺が足を撃たれた後ゴーレムが起動した。
あの男にゴーレムが群がり押さえつけている隙に、コータとへきへきは力を合わせて外に出た。
その際、外で冒険者と遭遇したのだという。
その冒険者は偶然同じ宿の客だったそうで、宿まで連れて行ってくれたらしい。
ちなみに俺はそこまで意識があったそうだが、冒険者に運ばれ始めたところで気を失ったとか。
全く記憶がない。
女将も女将で、気を利かせて高い部屋に移してくれたそうだ。
高い部屋はベッドも良質。
その分ベッドの回復効果は高い。客が負傷して部屋を移る事は、この世界ではよくあることらしい。
それにしてもリボルバーは反則だろ……
俺もとっさに手を打てただけマシか。
コータもへきへきも無事だし、俺自身も急所には当たってない訳だし。
何故リボルバーをあの男は持っていたのか。
答えは明白だ。恐らくこの世界に来た際に、ポケットに入っていたのだろう。
日本ではありえないことだが、海外ではよくある事なのかもしれない。何て物騒な。
そんな可能性考えて、冒険なんてやってられない。
そしてもう一つ、あの銃は撃つ直前に光っていた。
間違いなく《ロックオン》が適用されていたのだろう。
そんなの無理に決まっている。
相手に殺意が無くて良かった。
殺す気まんまんではなかったから、心臓でなく足を狙ってくれたのだろう。
考え事をしていると、部屋の扉がノックされた。
何かと思ったら男性の冒険者だ。恐らくお世話になった冒険者だろう。
「この人が例の?」
「うん」
「じゃあちょっと翻訳をお願い」
「分かった!」
冒険者は非常に紳士だった。
適当にお礼を言った後、彼にはお世話になったお礼をすることに。
俺が行ったダンジョンが、本当にリン・テートだったというのを報告する権利を譲渡する。
これは冒険者ギルドに報告するだけで割と高額な報奨金が貰える。
確かこれでラッドも装備を整えるだけの金を入手したとか。
どうせ俺達は報告する気はないしね。
「あと、いい人そうだしお願いしてもらっていいかな」
「お願い?それも翻訳するの?」
「たのんだ」
せっかくの良い人なので買い物を頼んだ。
ぶっちゃけパシりだが、状況が状況だし快諾してくれた。
一応気持ちで成功報酬として《ファイア》のカードを渡しておこう。
冒険者は俺の頼んだものを持って来てくれた。
ピンセット、清潔なタオル、アルコール、包帯等だ。
非常に気が重いが、やらなければならないだろう。
「コータ、準備が出来たら外で待っててもいいぞ?」
「何で?」
「これから凄い痛そうな事が始まる。中にいたら見たくないものを見る事になるぞ」
「んーん、一緒にいる」
「そうか、じゃあ手伝ってくれるか?」
「うん!」
まぁ本人が助けてくれるというのなら甘えよう。
ちなみに申し訳ないが、衛生上の問題でへきへきには部屋の外に出て貰った。
ベッドは非常に高い自然治癒力を発揮する。
昼間受けた銃弾の傷も、すでにかなり傷がふさがっている。
だが、大きな問題がある。
銃弾が足の中に埋まっていたのだ。
せっかくなら貫通してくれればいいものを。
どうも弾丸が小さくなっている気配がない。
おそらく、このままだと埋まったままになってしまう。
とはいえこの世界には銃弾を摘出してくれる医者なんていない。
自力でなんとかしなければ。
昔見た映画の見様見真似だが。
布を使って猿ぐつわをする。
《短剣》を取り出して、傷口へと当てる。
……ちょっと勇気が湧かないが、頑張ろう。
さん……に……いち……。
突き刺すような激しい痛みが、足を駆け巡った。




