想定外
「おぉ、これがその例のダンジョンか」
「ここがあの女のハウスね」
「何言ってるんだ、ホラ行くぞ」
「うん!」
ダンジョンは町の東にあった。
未明に見たダンジョンとは違い、かなり工夫が見て取れる。
まぁ冷静に考えて、あの少年たちはまだ小さい。
工夫はあまり出来ないとかそういうのかな。
だからと言って甘やかしたりはしないが。
仮にアレが女の子だったら助けたかもしれないな。可愛かったらだが。
さて、ダンジョン内部だが俺達のダンジョン同様、いやそれ以上に入念に手が加えられている。
ここがダンジョンかもしれないという情報がなければ、俺達も自然洞窟だと勘違いしそうだ。
まだダンジョンと決まった訳ではないんだけどね。
そうか、この脇道の穴は奇襲用か。
こっちは穴に顔を向けた瞬間に後ろから襲えるようにしてるのかな?
なかなか賢いな。
「ねぇマスター、マスターならどこでどうやって奇襲する?」
「んーそうだなぁ、あそこに二つに分かれた道があるだろ?」
「うん」
「あそこが怪しい」
目の前で二つに分かれたT字路がある。
厳密にはY字路って感じかな?よく分からないけど。
俺だったらここで襲うかなぁ。
「例えば左に向かおうとする時は、念の為右を見るだろ?それで右に誰もいないって確認するだろ?」
「うん」
「それで右には誰もいないって安心するんだよ。その心理の隙を突くかな。背後を取りやすいというか」
「へー、いろいろ考えてるんだねー」
「ということで、あそこを進む時は《警戒》をしっかり頼んだぞ」
「はーい」
コータは俺の左側に回り、腕をがっしりと掴んでいる。
ちなみに今回ばかりはとっさに動く為、へきへきからは降りている。
T字路に差し掛かり左に曲がろうとした瞬間、コータがぎゅっと力を込めた。
奇襲の合図だ。
「そこか!」
とっさに右手に《短剣》を出し、そのままの勢いで投擲をする。
一瞬遅れてへきへきが《嗅覚探知》で反応した。ちょっと修行が足りないな。
俺が《短剣》を投げた先には、やや肌が黒いダンディなおじさんが弓を構えていた。
ノータイムで反応されるとは思っていなかったのだろうか、短剣は弓の弦を見事に切断した。
日頃の鍛錬の成果だ。投擲も伊達に練習してない。
ダンディなおじさんは苦い顔をしている。
さて、俺達はダンジョンに訪れた訳だが、攻略しに来た訳ではない。
命を取る気はないし、場合によっては調味料連合に入れてもいい。
とにかく相手の出方次第だ。
俺は相手の様子を見る。
そいつは弓を地面に叩きつけた。
そしておもむろに懐に手を入れ……。
その時、俺は察した。
同時に可能な限りの事はしたと思う。
コータに《幻惑》と《警戒》を。
へきへきに《威嚇》を指示。
二人に被害が及ばぬように呼び寄せを使って天井近くに転移させる。
ゴーレムを召喚し、俺達とその男との間に出現させる。
《ハイジャンプ》のベクトルを下方向に変更。
凄い勢いで伏せるように調整。
《強棍棒》を手に出現。
顔と胴体を守るようにした。
これだけのことを流れるように行った。
アミサガンの世界に来て、色々修行を行った成果だろう。
そう、俺はベストを尽くしたと思う。
しかし、現実は非情だ。
ゴーレムが現れる前に。
コータの幻惑が発動する前に。
威嚇の声が届く前に。
男が懐から取り出したリボルバーの弾が、俺の左ふくらはぎを的確に捉えた。




