死のトランペット
フマウンの市街地を歩いていると、すぐにでも気づくことがある。
兵士がそこかしこにいるし、世紀末な雰囲気ではない。
しかし、彼らはモンスター及び中央部対策の兵士だ。
基本的に軍人であり、警察ではない。
例えば暴力事件とか放火事件があれば手が空いた者が協力する。
一方で盗難事件が起きた場合は協力してくれるかと言えばそうではない。
一言でいえば治安があまり良くないのだ。
裏通りに一歩でも入ると見えてくるのは宿屋と隣接した娼館。
現実世界では小学生なんじゃないかと思うような子が客引きをしている。
はっきり言ってドン引きだ。
お金は手をかざす形式なので問題ないが、荷物はひったくりや置き引きの危険性が常に付きまとう。
初めて入った町だと言うのに、コータの入った鞄をあやうく奪われそうになった。
無法地帯かここは。
そして驚いたのが、ここは比較的まだ治安がいいと言う事だ。
冒険者ギルドが近いので最悪の状況は回避できる。
一番治安が悪いのはスラム街だそうだ。
そこでは殺人以外の大体の事は黙認とまで言われているとか何とか。
ということで表通りで主要な施設をチェックして、とっとと帰る事にした。
こんな危険なところに居られるか!俺は自分のダンジョンへ帰る!
ちなみにスラムの話は本屋兼魔法屋のおばちゃんが教えてくれた。
一番高いのはマーシュと同じで一万だったが、それ以外の中ごろの値段は充実していた。
武器や道具を見る限り、どうやら中堅以上の装備が充実している。
優秀な装備が数多くそろえられているが、一方でマーシュより若干高い。
それだけ需要が多いのだろう。
冒険者掲示板はマーシュより大きなものだった。
それだけ依頼が多いということなのだろうか。
雑事の半分ぐらいは中国語だが、残り半分と重要なクエストは英語で書いてある。
少しでも多くの人が参加してほしいものは、大陸で一番使われてる英語ということなのだろう。
ちなみにマーシュへの配達任務等、一部はフランス語でも書かれていた。
治安が悪い町に長居するのもどうかと思ったので、適当なところで切り上げる事に。
食事は適当に済ませた。
やっぱりパンが硬かった。
マーシュで食べたパンはここで作られたものだったのかもしれない。
帰り際にへきへきとコータ用にお土産を買おうと思ったが、ここでは英語が通じなかった。
適当にコータとへきへきが好きそうなものを選んで買っておこう。
……ん、これは……!
「ハナ、これ何か知ってるか?」
「何ソレ」
俺が手に取ったのは黒いキノコだ。
確かフランスではこう呼ばれていたはずだ。
「これはな、死のトランペットって言うんだ」
「何それかっこいい」
何だかんだでハナはこういう厨二病をくすぐるものに目が無い。
夕飯用に一緒に買っておこう。
ぶっちゃけただのキノコなんだけどな。
■ ■ ■ ■ ■
あまり長居をしても危険なだけだと判断して、俺達はフマウンを出た。
今回の収穫は南の山についてだろう。
ここは中央部と南部の唯一の経路ともいえる山道が存在する。
しかしそこはここよりも強いモンスターが生息しているようだ。
報酬が多い代わりに、危険度が高いらしい。
帰り道、コータにつみれを渡して食べさせながら歩く事二キロ。《警戒》で出していたコウモリの一匹が反応した。
遠くから影がいくつか迫ってくるのが見える。
あれは……オオカミか?
いや、オオカミには違いないが少し現実のオオカミよりデフォルメがかかっている。
体が大きく、牙も分かりやすく出ている。爪もかなり大きい。
意味は同じだが、ゲームっぽい感じで『ウルフ』と呼ぶことにする。
「走るぞ!」
「うん!」
ハナの手を引き走り始める。
最初目視出来たウルフは五体程度だったが、数はドンドン増えて十を越し、三十にまで迫っていた。
流石にこの数相手に二人では無理がある。コータも《撹乱》程度ではこの数相手は無意味だろう。
まだダンジョンまでの道のりは遠い。フマウンに戻るにしても遠すぎる。
「ねぇ、こんな時こそ呼び寄せ使ってみたら?」
「あぁ、そうだな。やってみよう」
モンスターを装備している時の利点はいくつかある。
まず統率がしやすい。経験値も分散できる。彼らが倒したモンスターのお金は独占できる。
それ以外にも『呼び寄せ』という利点がある。
呼び寄せはその名の通り、装備しているモンスターを近くに召喚できる。
コータは近くにいるので対象外だが、コボルド達をこのピンチに召喚できるのはでかい。
コボルド達と共闘しているのを見られてはまずいので、街道を外れて森の中に入る。
そして呼び寄せを使う……!
呼び寄せには大きなメリットがあるが、リスクというかコストが大きい面がある。
モンスター一体呼び寄せるのに100アモル必要なのだ。
四体呼ぶには400アモル。流石に乱発できる額ではない。
今のようなピンチにのみ使うのが正しいと思う。
呼び寄せを使うと、コータがコウモリを召喚した時のようにポンっとコボルド達が出現した。
のだが、ヴァンとアンの二体しか呼び寄せに成功しなかった。
突如呼び寄せられたヴァンとアンだが、ウルフを見てすぐさま状況を理解したようだ。
あらかじめ外出時は呼び寄せを使うかもしれないと言ってあるのが良かったかもしれない。
しかしお金はあったはずなんだが、何がいけなかったのだろうか。
ウルフ達を見たアンは急いでファイアを出現させた。
すぐ撃つのかと思いきや、アンはファイアを維持したままウルフの方へ向ける。
ウルフはそれを見ると急に足を止めて、集団で引き返して行った。
なるほど火が怖いのか。今度からはハナに頼もう。
後で聞いた話なのだが、かつてコボルド達はこの周辺で暮らしていたらしい。
ウルフたちと遭遇する事も多かったようで、その度に火を使って追い払ったとか。
だからアンの対応が少し手馴れたものだったのか。
「しかし、何で二体しか召喚出来なかったんだろ」
「もしかして、MP不足じゃない?」
「へっ? ……あー」
採掘でもMPを使うのだ。呼び寄せでも使うのは当然といえば当然か。
そういえばダンジョンを出る前にMPがすっからかんになるまで採掘した後フマウンに向かったんだっけか。
フマウンからも早く切り上げてきたので、回復する時間が無かったのか。
俺達は人目を気にして街道を離れ、森の中を経由してダンジョンへと戻った。
■ ■ ■ ■ ■
コボルド達で頑張っているのはいつもの四体だけではない。
今回はヤンという高齢のコボルドについての話だ。
ヤンは元から手先が器用で、以前は弓を使って戦ってもいた。
しかしゴブリンとの抗争で片目の視力を失い、わき腹に大きな傷を負った。
今では戦闘要員を退き、物を作る要員として働いている。
ヴァンやダンが使っていたナイフ、イアンが使っていた弓矢はヤンが作った。
ナイフこそ出来がいまいちだったものの、弓矢はかつて自分が使っていただけあって良く出来ている。
後者は戦闘要員に満たないコボルドの練習用の弓矢として、今も活躍している。
現在は主に机等の家具を制作している。
自分たちの家具ぐらいダンジョンマスターの俺らの手を煩わせないようにしたいらしい。
そんなヤンにあるお願いをしていた。
「おーすげー良く出来てる。器用だなぁ」
「まぁ、使うのはあたし達じゃなくてあの子たちなんだけどね」
二つの皮製の鎧がある。と言っても胸当てに近いものだが。
片方はマーシュで以前買ったもの。軽くて丈夫そうなものを選んだ。
そしてもう片方はヤンが作ったものだ。
マーシュで買った方は体格的にヴァン向きだったので、ダンが着れるように大きめに作ったようだ。
そのまま店で売っていても違和感がないレベルの出来だ。
ヤンは見本があればあまり高度な技術を要求しない限り、同じものをつくれるようだ。
ナイフの出来が良くなかったのは見本が無かったからであり、《短剣》がある今はそれなりの物が出来る。
とはいえ鉄が無いので木製のナイフになってしまうのだが。
ヤンは他にもコボルド達が武器の手入れをする為の道具やポーチ等も作っている。
へきへき用の首輪を作った時点で、ハナからの信頼度が急上昇となった。
「大丈夫そうかね」
「うーん、大丈夫だね」
ヴァンとダンが皮の鎧を試着している。
どこか結合が弱い部分が無いかとあちこちを引っ張ってみるが問題なさそうだ。
ヴァンは市販品だからまぁその心配は無いと思うのだが。
ヴァンとダンは指で〇を描いた。
OKを表現する際はそうしてくれとお願いしたのだ。
問題は無さそうか。
ちなみに型は取ってあるようなので、もう見本がなくても新しいのが作れるとか。
何て優秀なんだ……。
その日の夜、さっそく採掘した後光る壁のモンスターで使い心地を確かめた。
軽いながらも中に木の板を仕込んでいるので動きにくいかと思ったが、問題ないようだ。
当のヤンはと言えば、すでに新しい机の作成に取り掛かっている。
俺達が睡眠に落ちた後でも、ヤンの作業は続いたのであった。
死のトランペットは実在します
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