北の台所 フマウン
マーシュから帰ってきた時、ふとダンジョンの入口で足を止めた。
……そういえば。
「なぁ、この上って探索してないよな?」
「あたしが知るわけないじゃん。そういうのあんたがやってるんだから」
「せやな」
ここは非常に高い山のふもとなので、さすがに今から山頂までは探索する気は起きない。
一応崖の上をちょっと調べてみるぐらいに留めておく。この上にもダンジョンがあったら問題だし。
コボルド達にわざわざ働いてもらうほどのことでもないかなと思い、俺とコータだけで行く。
と思いきや、ハナもついてくるらしい。たまには探索に参加したいと。
まぁコータを崖の上に飛ばしても反応が無かったので敵はいないのは分かってるのだが、たまにはいいか。
十メートル以上ある崖を正面からよじ登る趣味はないので迂回路を探す。
この周辺はコボルドとゴブリンが多くいた地域だったようで、どちらも外で見ない今、あまりモンスターを見かけない。
途中触手のようにうねうね動く植物のモンスターがいた。
ハナに触手プレイは興味あるかと聞いたら、興味あるよとか言いながら俺をそちらに蹴り出してきた。
やめて、俺が触手プレイされちゃう。
あたし見る専だからさーとかほざいてやがる。男の触手プレイ見て何が楽しいんだ。
ちなみに植物のモンスターは動きこそ触手だったが、近づいたら普通に鞭のように使って叩いてきた。
イラついたのでふつうに殴り倒した。何の為の触手っぽいツルだったんだ。
少し迂回した所で緩やかな坂道を見つけた。そこから登って崖の上を探索する。
多少木が生えていたが、近くにダンジョンらしい洞窟もなくモンスターもあまり気配がなかった。
そのまま歩いていると、開けたところに出る。
ちょうど俺達のダンジョンの崖の上辺りだろうか。広くはないが空き地になっていた。
「わぁ……」
「おぉ……」
高いところから見たこの世界は新鮮だった。
森が広がり遠くに海が見え、マーシュと恐らくだがフマウンが見える。
空は晴れ渡り、風が気持ちいい。
ふと一つの事を思いつく。
「……なぁ、ここにお墓を立てないか?」
「お墓?」
「あぁ、コボルド達はたまに寂しそうな顔をする時があるんだよ」
「あぁ……」
彼らはここに来るまで、多くの同朋を殺された。
恐らく見捨てた仲間も数多くいるだろう。
弔うことも満足にできなかったはずだ。
俺は彼らをその闇から救ってやることはできない。
しかしある程度軽くしてやることが出来るなら、それの手伝いぐらいはしてやりたい。
この綺麗な風景を見たとき、そんな事を思いついた。
ハナがコボルド達に説明をし連れてくる間、俺は《短剣》を装備して穴を掘り始めた。
やがてコボルド達がハナに連れられてやってくる。ヴァンとダンが穴掘りを手伝ってくれた。
モンスターたちはその性質上、死体が発生しない。死亡したら光になって消える。
そこで、遺品を埋める事にした。ダンとヴァンはそれまで使っていたナイフを入れていた。
昔世話になったコボルドから貰ったものだという。
最後に土を被せて木を一本立てた。石碑のようなものを立てたい気持ちになったが、目立つと荒らされてしまう恐れがある。
ダンジョンとして本格稼働した後を考えると、あまり目立つものは立てられない。
最後に手を合わせた。
コボルド達はそういう文化が無かったが、俺達の真似をして手を合わせていた。
涙を流すものもいた。ハナなんか貰い泣きしていた。
最後に一輪、咲いていた花を添えた。
■ ■ ■ ■ ■
カートリッジの仕様の発見により、採掘の効率が格段に上昇した。
今まで俺のダンジョンは仕掛け部屋から400メートルぐらいしか進んでなかったものが、一日に800メートルペースで採掘されるようになった。
目標は二キロぐらいかと思っていたが、もうちょっと長くしてもいいかもしれない。
墓を作った夜、採掘を終えてハナと交代してからノートへの書き込みをしていた。
すると、ハナから連絡が来た。流石にまだ採掘は始まったばかりだと思ったが。
「どうした?もう採掘終わったのか?」
『違う違う、ランがお願いがあるって』
ランというのはいつも採掘の際に手伝ってくれる女の子のコボルドだ。
俺達を手伝う機会が多いということで、現在アンから英語を教わっている。
既に俺より遥かに上達しているのは気のせいにしておこう。
『保健室をモニターで監視できないようにしてほしいってさ』
「保健室?なんでだ?」
『もうすぐ妊婦の人が出産出来る時期になるんだって』
「ほー」
産婦人科には行ったことないが、出産の際は局部をさらけ出すことがあるぐらい分かる。
モニターを弄って俺が見れないようにしておく。
あ、そうだ。居住スペースのトイレを増やしておこう。
三つは設置しておいたが、五十体もいると混雑する時がある。
あと二つは必要だな。
もちろんモニターで覗けないようにしておく。
ノートを書き終えた辺りでハナが採掘を終えたので、転送できるエリアまで移動し次第こちらに飛ばす。
食事をしながら、明日の予定を決める。
「明日はフマウンに行ってみたいと思います」
「可決」
「お、おう……。もうちょい議論をしたかった」
「まぁあたしも行きたかったしね」
フマウンは北部最大の町だ。
昨日空き地から見た限りだと、マーシュの倍近くの大きさを誇っている。
マーシュは柵で囲われているぐらいだが、フマウンは町が塀に覆われているのは確認できた。
運が良ければハンマーが手に入るかもしれない。
翌朝、採掘をこなして光る壁の処理を行う。
コータとヴァンがレベルを一つ上げた。
そういえば金カードって全然出ないなぁ。
幸運を付けてるからレアなカード出やすいはずなのに。
もしかしたら一人一枚しか入手できないのだろうか。
コータを引き連れてハナと一緒にフマウンに向かう。
その時、大失態を犯した。
「……あっ」
「やっべ……」
森から出る時、人間と鉢合わせしてしまったのだ。
中年の男女だ。恐らく夫婦でマーシュとフマウンの間で物資を運搬させている人だろう。
しかし森から出てくる必要は普通の人間にはほとんどない。
この森に関するクエストは掲示板にないし、貴重な敵が出る訳でも無い。
少し疑惑の眼差しを感じる。何か誤魔化さないと……。
まず後ろに振り向きます。
次にベルトを弄るフリをします。
夫妻の方に向き直ります。
最後に人さし指を立てて口に当て、ウインクを一つ。
夫妻はハッとした後、奥さんが何かを言って旦那さんの背中をバンバン叩いた後マーシュへ去って行った。
「元気なことねって言ってたけどどういう意味?」
「知らない方が幸せだと思うぞ」
言ったら殺されかねない。このまま知らないでおいて貰おう。
森の中でよろしくやってたカップルのフリをしたなんてことは。
■ ■ ■ ■ ■
フマウンへ向かう途中で、俺とハナはこの前買った教科書で得たフマウンの情報を共有していた。
警戒はコータに任せる。
フマウン。周囲を高い石壁に囲まれた北の要所。
山のもの、作物、魚と一通りのものはこの町で手に入る為、別名北の台所とも呼ばれる。
北が海に面しているフマウンは、石壁は〇ではなくU字に囲っている。
最北端はマーシュや他の地域からの船を受け入れる港。
南部には居住区。その間はすべて畑になっている。
モンスターが襲ってくるため、この世界では安易に畑を作ることができない。
その為石壁で囲われているここが台所と言われるのは道理かもしれないが、他にも理由がありそうだ。
この世界は海は塩が無い。つまり塩害が発生しないし水不足なら海の水を飲めばいい。
作物も海の近くなら海から水を持ってこれるということだ。
異世界なのに妙な合理的な世界だな、ここ。
フマウンは別の顔も持っている。
かつては中央部と何度も戦を挑んだようなのだ。
フマウンの北部にも山があるが、その一部は他の高い山脈と比べると低い場所がある。
ここが中央部へ行く為の唯一の道であり、かつてここで何度も戦が起こったそうだ。
なので、フマウンは中央部から攻め込まれた時の拠点としての役割がある。
その影響で、フマウンには多くの実力者が集まっているようだ。
この町には自警団というかちょっとした軍隊がある。
そこから引退したものや、自警団までの訓練として冒険者もそれなりの猛者が存在する。
それらの者を求めて、他所からも冒険者がやってくる。こうして北の要所は現在進行形で人口を増やしている。
そうこうしているうちにフマウンの町が見えてきた。
昨日も高台から見たが、やはりこの町は大きい。
この町は北の山からモンスターが下りてくることもあるらしいので、警戒度を上げて進む。
町の入口まで到着した。
あれ、この文字って……。
「なぁ、お前これ読める?」
「……読めない」
とうとうギブアップが出た。
チート(語学)タグは回避されたようだ。
恐らくようこそフマウンへと書いてあるのだろう。
しかし、言語が漢字漢字している。
これは間違いない。中国語だ。
中に入ると非常に活気にあふれていた。
とりあえず近くの八百屋兼魚屋に向かうと、英語が通じてハナがほっとする。
まぁこれだけ色々なものが入り乱れる町なら、英語が各施設で通じるのだろう。
英語ぐらい使えないとやっていけないというのはこういうことなんだなと改めて思いました。まる。
いや重要なのは分かるんだけど、ほら何というか、ねぇ。
とりあえず今日は様子見に来たという面もあるので、目的は特にない。
その辺りをハナと二人で散策することにした。
まるでデートだねって言ったら目つぶしが飛んできた。あっぶねえ。




