依頼
一晩明けたら大分スッキリした。
なかなか寝付けなかったが、一度睡眠に入ったら泥のように眠っていたとはハナ談。
いや、何でお前が俺の睡眠事情を把握しているんだよ。
ハナから各種報告を受ける。
まず少年が持っていた宝石に関してだが、金庫を購入して保管する。
割と高価なものだが、いつかは買わないといけないと思っていたのでいつ買うのか、今でしょとのこと。
ちなみに暗証番号は、ハナの誕生日になっている。
以前ハナの誕生日を忘れた際、怒られて俺のロッカーの鍵の番号をハナの誕生日にされた。
忘れたら二度とこの中身を出させないということらしい。流石に覚えましたごめんなさい。
そういう出来事があったので、俺もこの暗証番号は覚えやすいので助かる。
死体は以前から決めてあった場所に置いてある。
ぶっちゃけただの横穴だが、換気扇が置いてある。
死体を入れた後は土で塞ぐ。
スケルトンとしていつか利用可能になるかもしれないが、うーん。
その朝の食事は余ったイノシシ肉でサンドイッチを作ろうと思っていたが、さすがに肉を食べる気がしなかった。
シリアルで軽めに済ませる。ブルーベリーを入れて多少酸味と甘味をプラス。
ちなみにこの前はキウイを入れた。
今日は気分転換にマーシュへ行く事に。
情報収集が主だが、ハナから誘わた時のセリフが「デートに行こう、デート。」だったので買い物もする。
良いのがあればダン用の盾とかも欲しい。
小銭稼ぎに出かける前に採掘→光る壁を処理の日課を済ませる。
ハナは掘るものが無いので、居住スペースの隣に少し広めの空間を二つ作っていた。
一つは訓練ができるよう、町の道場ぐらいの広さのスペース。
もう一つは弓の練習をする為、縦長のスペース。
的は設置するがそれ以外は特に物を置かないので、いざ侵入者が来たら隔壁で保護せず放棄する。
かなり罠が集まってきたが、二刀流や矢の雨のようなカードはなかなか出てこない。
金カードもあれ以来さっぱりだ。コータが出てきたのはかなり運が良かったのだろうか。
それと、レベルも大分頭打ちになってきた。
俺も8に上がるのにかなり時間を要した。
ちなみに今日はマーシュで昼を食べる予定なのでサンドイッチは作ってない。
コボルド達の護衛は断った。
コータならたまたま近くにコウモリが飛んでたで済むが、コボルドをぞろぞろ連れた人間の冒険者なんていないだろう。
いざとなれば呼び寄せなんて機能まであるらしい。
マーシュまでは特にモンスターと遭遇することも無かった。
森から出てくるところを誰かに見られたら厄介だったが、そもそもここはほとんど人通りがないからな。
マーシュへ到着したら、まず冒険者ギルドへ向かった。
しかしギルド自体は入らない。危険だからだ。
昨夜少年が来た際彼のステータスを見たが、当然のことながら《ダンジョンレベル》は無かった。
ということは、逆に俺達は他の人からステータスを見られた時に《ダンジョンレベル》があると気づかれる恐れがある。
ギルドでは何かしらのチェックがあるようなので、利用はしないと二人で決めてある。
しかし、掲示板は別だ。
ギルドの外には掲示板が置いてあり、色々な依頼が張ってあるようだ。
前回もチラッとみたが、他の冒険者が怖くてあまり見れなかった。
今回は堂々と盗み見たいと思う。
情報収集の手段としてはうってつけだろう。
「えーっとこっちが素材採取で護衛に荷物運び……これが……」
ハナがぶつぶつ言いながら色々とみている。
英語やフランス語で書いてあるので俺は読んでるふりだ。
ふんふん。なるほどなるほど。分からん。
あ、ここ縦読みするとnekoになる。
「……あ、これはでかい」
「どうした?」
ハナが何かを見つけたらしい。
メモを取り出して書き留めている。
「ゴブリンが集中して出没する場所があるんだって。ここから東南のところ」
「ほほう……。それは気になるな」
あとは大したものが無かったので昼飯にする事にした。
あ、盾忘れてた。後でいいや。
■ ■ ■ ■ ■
マーシュはそれほど大きくない漁村だ。
食事を取れる場所も限られている。三カ所プラス魚市場にある食堂ぐらいだろうか。
ギルドの近くにある小さな飲食店に入る。
メニューはハナに任せた。読めん。
出てきたのはスープ、パン、サラダのセットだ。
スープは魚の出汁が良く出ている。サラダは魚から作ったようなソースがかかってるが詳細は不明。
このソース、どうやって作られてるのか気になる。現実世界にはかなり劣るが。
パンが凄い硬かった。スープに浸しながら食べるらしい。
ちなみに後でこのソースについておばちゃんに(ハナを介して)聞いたが、自家製で企業秘密だそうだ。
サラダを突っつきながら今後について相談する。
一番の問題はあのゴブリンだ。
以前俺がコボルドとゴブリンの三つ巴を繰り広げた時、もっと俺達のダンジョンの近くに勢力があったはずだ。
予想されていた場所からかなり離れている。そこにどうしてもひっかかる。
「やっぱり何かありそうな気がする」
「だよな。急に場所が移動しすぎている」
何故こんなに警戒しているのか。
理由は簡単だ。コボルドという前例があるからである。
コボルドは一斉に場所を移動させた。何故か?俺達のダンジョンに移住したからだ。
そして、同じ事がゴブリンにも起きているのではないかと俺達は考えた。
ただ移住してるだけとみるなら問題ではない。
問題は時期だ。俺たちだけがこの世界に来た訳ではないのはロベルトの件で確実となった。
仮に他にダンジョンがこの周辺で出現し、ゴブリン達を取り込んだのなら……。
仲良く出来るか?
ゴブリンとコボルドが対立している時点で難しい気がする。
何よりそんな危険な芽があるなら、今のうちに摘んでおきたい。
しかし無闇に動きたくもない。
ダンジョンを長期間留守にできないし、ギルドや他のダンジョンに目を付けられたくはない。
出来ればローリスクハイリターンな方法を取りたい。
あーだこーだ言っていると、三人組の男が入ってきた。
特に気にせず相談をしていると、そのリーダー格っぽいこちらに近づいて来た。
金髪で少し高そうな鎧を着ている。
何だろう、凄いウザい空気を感じる。
アレだ、現実世界で同じクラスにいたチャラい奴と同じ空気を感じる。
「ねぇ、何か困ってる事でも?」
「えぇ、まぁはい」
と曖昧な反応をしてから気づく。
あれ、日本語?こちらの世界ではホーガン語と言った方がいいか。
「あれ、ホーガンの方ですか?」
「うん。そうだよ、君たちも同郷?」
「いや、少し離れた田舎出身ですよ」
「へー。この言葉使う人この辺だと珍しいから、つい話しかけちゃった」
「はぁ……」
ハナが話に入ってこないな。
ちょっと苦手なのか?
いや、これは何かを考えてる顔か。
「それでゴブリンって言葉が聞こえたんだけど、どうしたの?」
「あぁ、いや……」
「ちょっと困った事が起きて」
適当に誤魔化して返そうとしたら、唐突にハナが入ってきた。
困惑する表情を浮かべたら、足をガツっと踏まれる。痛い。
話を合わせろということらしい。
「困ったこと?」
「はい、こっちの馬鹿がゴブリンに荷物を盗まれちゃって」
馬鹿に反論しようとしたらまた踏まれた。痛いよハナさん。
「見たところ冒険者の方ですよね?取り返してはくれませんか?」
「そうですね……」
迷ってるのがわかる。要は報酬を出せということだろう。
「しかし私たちは現金がちょっと無くて。代わりと言っては何ですが、こういうものなら」
「……ほう」
ハナが出したのは《ファイア》だ。
最近採掘しまくってる上、《幸運》がついてから出現率が高くて割と余ってきている。
なるほど、300モル相当の報酬の代わりとしては使えるか。見たところ後ろの二人のうち一人は魔法系っぽいし。
「前報酬として二枚、成功報酬として追加で五枚。失敗しても、ゴブリンたちの情報を頂ければ一枚差し上げます」
三人は嬉々としてゴブリン狩りに行った。
食事に来たんじゃないのかよ。善は急げってか。
去った後、営業スマイルかましてるハナが真顔に戻る。
「お前、成功報酬って……」
「あるわけないじゃん。荷物なんて無いんだから」
「ですよねー」
「あぁいうチャラいの苦手だわ。ちょいちょい色目使っちゃってさ」
「それは同感だ。まぁいくら色目使ってもハナは俺のもんだけどな」
スパーンと殴られた。
どうせ彼らはギルドのゴブリン討伐的なクエストも兼任するだろう。
食事を終えた俺達は、会計を済ませて店を後にした。
■ ■ ■ ■ ■
俺達はまず魚屋に行った。
コータとへきへきへのお土産を買う為だ。前回好評だったつみれと骨が処理された魚を買う。
ついでに前回美味しかった魚をいくらか。
続いて武具屋に向かう。盾を見るためだが、武器も見ておきたい。
店頭には少しの武器と、多くのカードが展示してあった。
「カードと武器、両方売ってるんだな」
「カード化されてない武器もカートリッジの枠を節約するにはいいからねー」
カード化されている武器はいつでも取り出し可能な他に、非常に軽いというメリットがある。
たとえば俺が持っている棍棒は俺が出すと、まるで木の枝を持っているかのように軽い。
しかし、ハナが出してそれを俺が持つとかなり重く感じる。
また、自動的に修復されるという利点がある。
例えば棍棒と剣で打ち合うと、もちろん棍棒が欠ける。
しかし、それを一度収納してもう一度出すと綺麗な棍棒になる。
以前ファイアで燃えた時は修復不能になり、カードが消えた。
盾を見てみる。
見た事無かったが、盾や鎧や兜にもカードは存在するようだ。
持ったら軽いとか、傷ついても治るとかそういう効果があるのだろうか。
値段を見る限り、武器の場合は実物の方がカードより安いようだ。
一方、防具は逆にカードの方が安い。
武器は必需品の一方、防具はカード枠を埋めない実物の方が需要があるということなのか?
今回欲しいのは盾のカードなので、安いのはありがたい。
鉄製はやはり高いので木の盾にする。
木の盾と言ってバカにするなかれ、この世界の木はやけに丈夫だ。棍棒使ってる俺なら分かる。
しかもわざわざカード化されてるだけあって、非常に厚さがあり簡単には壊れ無さそうだ。
二種類あったので大きい方を選ぶ。《ロックオン》は脅威だが、最初から受け止めれば問題ない。
ファイアがどうしようもないのは……どうしようもないな。
武器を眺めていたら、《強棍棒》があった。棍棒に鉄で補強されていて、釘バットを彷彿とさせる。
値段は……実物で二千強、カードで三千弱。なんでや!木に鉄絡めただけやろが!
そこでふと思いつく。
「ここのおっちゃんなら《ハンマー》が手に入れられるんじゃね?」
「あー……聞いてみよっか」
聞いたら一個三百アモルだそうだ。
実物が今無いから取り寄せに四日かかるらしい。お願いした。
その後、サロメの所で地図と歴史書……というか歴史の教科書みたいなものを買う。
細かい地名や歴史上の人物等、咄嗟に出てきた時に分からないのは不便だ。
ちなみにこれで金が尽きた。帰ったら光る壁で稼ごう。
例のホーガン人とは明後日会う約束をしている。
大体の用事は済ませたので帰る事に。
「そういえば、前から思ってたんだけどカートリッジってどういう意味なんだ?」
「えーっと、意味と言われるとちょっと困るけど拳銃で言う弾倉とかがそうよ」
あまりに今更の質問だったが、話題が無いので恥を忍んで聞いてみた。
弾倉か。カードをまとめて扱うという意味ではあってるのか…?
ふと思いついたことがある。
杖を二つ用意して俺とハナが両方杖、魔法三つという装備をする。
ハナが魔法を三回撃って、俺のカートリッジと交換。
すぐさま魔法を三回撃てる。織田信長リスペクトだ。
まぁコマンドが開ける状態じゃないと使えないんだが。
「てか、そもそも他のカートリッジを装着できないんじゃないの?」
「やってみようぜ。暇だし」
実際にやってみた。
……あれ、出来た。問題なく杖を出す事が出来る。
「やれば出来るもんだな。……ってどうした?」
「うーん。これってもしかして……」
ハナがバインダーを出して自分の《採掘》カードを取り出す。
本来ハナが持ち主の《採掘》カードは俺のカートリッジに差せないのは実験済みだった。
しかし、ハナが自分のカートリッジに《採掘》を差して、それを俺が装備すれば……。
「……装備できたな」
「こ、これは……!」
今まで、未完成である俺のダンジョン部分は俺しか採掘できなかった。
遅々として進まなかった俺のダンジョン作成は、この発見を機に急激に進展することとなる。
……何で今まで試さなかったんだろう。




