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百年生きた剣鬼、希少長寿種に転生し、世界を観る  作者: ザナトス


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第58話 森に馴染む日々

朝露をまとった草花が、朝日に照らされて輝いていた。

ユグレシアへ来てから、朝は決まって森を歩くようになった。

澄んだ空気を吸い込みながら木々の間を進む。

耳を澄ませば、小鳥のさえずりと、小川のせせらぎが静かに響いていた。

「おはようございます、カゲツ様。」

後ろから聞き慣れた声がする。

振り返ると、籠を抱えたセレスが微笑んでいた。

「おはよう。」

「今日も薬草を採りに行くのですか?」

「ああ。体も動かしたい。」

「でしたら、ご一緒してもよろしいですか。」

「構わない。」

二人は並んで森の奥へ歩き始めた。

初めてユグレシアを訪れた頃は、どこを見ても新鮮だった景色も、少しずつ見慣れてきている。

どの辺りに薬草が多いのか。どこへ行けば湧き水があるのか。森の道も自然と覚え始めていた。

「こちらです。」

セレスが腰を下ろし、一株の薬草を指差す。

「この葉は傷薬になります。」

「前に教えてもらったな。」

カゲツも隣にしゃがみ、丁寧に摘み取っていく。必要以上に採らない。根は残す。また育つように。

それがユグレシアのやり方だった。

「旅先でも役立ちそうだ。」

「ええ。森によって生える植物は違いますが、覚えていて損はありません。」

穏やかな会話を交わしながら作業を続ける。言葉が途切れても気まずさはない。風が吹き、木漏れ日が揺れる。

そんな静かな時間が心地よかった。

その時だった。

「セレスさん!」

若いエルフの青年が駆け寄ってくる。

少し息を切らしている。

「どうしました?」

「北側の畑で困っているんです。」

「柵の一部が壊れてしまって……。」

「魔物ですか?」

「いえ、昨夜の強い風だと思います。」

「すぐに向かいます。」

セレスはカゲツへ視線を向けた。

「申し訳ありません。」

「手伝ってもらってもよろしいでしょうか。」

「もちろんだ。」

二人は急ぎ足で畑へ向かう。

そこには木製の柵が倒れ、育てている野菜が外へ踏み荒らされそうになっていた。

数人のエルフが丸太を持ち上げようとしているが、うまく噛み合わない。

「少し離れてくれ。」

カゲツは倒れた柵を確認する。壊れているのは一部分だけだ。無理に新しく作る必要はない。

近くに転がっていた丈夫な枝を拾い、折れた支柱へ添える。

木刀で軽く位置を整え、蔓でしっかりと固定していく。

最後に力を込めると、柵は元の位置へ収まった。

「これならしばらくは持つ。」

青年が柵を揺らしてみる。びくともしない。

「すごい……。」

「こんなに早く。」

カゲツは木刀を腰へ戻した。

「大掛かりな修理は後でやればいい。」

「今は畑を守る方が先だ。」

「ありがとうございます。」

周囲のエルフたちが頭を下げる。

「助かりました。」

「困った時はお互い様だ。」

短く答えると、カゲツは畑を見回した。幸い野菜への被害はほとんどない。それを確認すると、小さく頷いた。

「これで大丈夫だ。」

セレスはそんな様子を静かに見つめていた。

「戦うための剣だけではないのですね。」

「直せるものなら直す。」

「その方が早いこともある。」

「……カゲツ様らしいです。」

里へ戻る途中、小さな精霊がふわりと姿を現した。一体、また一体。気付けば数体の精霊が二人の周りを舞っている。

以前のように遠くから眺めるだけではない。

肩の近くまで飛び、木刀の柄へ止まり、また風と共に飛び立っていく。

「精霊たちも、すっかり慣れたようですね。」

「ああ。」

カゲツは穏やかに空を見上げた。旅を続けてきた日々とは違う。ここには急ぐ理由がない。

朝になれば森を歩き、人々と言葉を交わし、精霊たちが静かに寄り添う。

そんな一日が、また静かに過ぎていく。

気付けば、ユグレシアでの暮らしは少しずつ日常へと変わり始めていた。

穏やかな日々は、その後も静かに続いていった。

朝は森を歩き、薬草を採る。

昼には里の者たちと言葉を交わし、夕暮れには世界樹を眺めながら一日を終える。

旅をしていた頃とは違う時間の流れだった。急ぐ者はいない。誰もが森と共に生き、その一日を大切に過ごしている。

カゲツもまた、その穏やかな暮らしに少しずつ馴染み始めていた。

ある日の昼下がり。広場を歩いていると、子どもたちが木の枝を手に集まっていた。

「カゲツさん!」

「ちょうどよかった!」

「どうした。」

「この前みたいに教えて!」

どうやら遊びの延長らしい。

カゲツは少し考え、頷いた。

「少しだけだ。」

子どもたちの表情が一斉に明るくなる。それぞれ枝を構え、真似を始めた。

「まずは足だ。」

「振ることより、立つことを覚えろ。」

枝で地面に立ち位置を描きながら、一人ひとりの姿勢を見ていく。

「そう。」

「そのまま力を抜け。」

ぎこちなかった構えが、少しずつ安定していく。

「できた!」

「さっきより立ちやすい!」

子どもたちは嬉しそうに笑った。その様子を見ていたセレスも、小さく微笑む。

「皆さん、本当に楽しそうですね。」

「遊びの延長だ。」

「それで十分だ。」

カゲツは枝を子どもへ返す。

「無理に強くなる必要はない。」

「怪我をしないことを覚えろ。」

「うん!」

元気よく返事をすると、子どもたちはまた笑いながら駆け出していった。

その背中を見送りながら、セレスが口を開く。

「最初は皆さん、カゲツ様を遠くから見ているだけでした。」

「今では、こうして自然に話しかけています。」

「そうか。」

「受け入れてもらえたなら、それでいい。」

その時、小さな光が視界を横切った。一体の精霊が、カゲツの肩へふわりと舞い降りる。

続いてもう一体。

二体の精霊は羽を揺らしながら楽しそうに光を瞬かせた。

「最近は毎日ですね。」

「ああ。」

「すっかり慣れたらしい。」

精霊たちは風に乗って舞い上がると、広場を大きく一周し、世界樹の方へ飛んでいく。

その姿を見上げながら、カゲツは静かに息を吐いた。

この里では、特別なことは何も起きない。

だが、それが心地良かった。

穏やかな毎日が続き、人と語らい、精霊が寄り添う。

そんな日々が、一日、また一日と積み重なっていく。

そして季節は、誰にも気付かれないほどゆっくりと歩みを進め始めていた。

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