魔法少女捕縛編 十四、古都で出会った魔法少女。
――古都探索も三日目。
オレは観光をメインとしながら、魔法少女の探索に勤しんでいた。(主にアリスが)
だって、 「魔法少女を見かけませんでした? 」なんて、片っ端から聞いて回れるわけないじゃんよ。普段は普通の女の子なんだし。
瑞稀も紫苑も知らないと言うし、肝心な時に黒猫は現れない。おまけに容姿も、どんな属性を持っているのかすら分からない。
こうなると、頼れるのはアリスだけだ。 ……まあ、本人はやたらと張り切ってはいるが、魔法少女を見つけるよりも先に、観光する場所がなくなりそうだ。
三日目の今日は、女性陣全員で行動中。瑞稀は相変わらず傍らでオレの腕を取り、紫苑は頭の後ろで手を組みながら後ろを歩いている。
驚いたのはアリスだ。いつの間にか瑞稀や紫苑と打ち解け、楽しそうに談笑している。いつの間にそんな仲良くなったんだ? 女の友情ってやつは、魔法よりわからん。
そうして、ぶらぶらと観光を堪能し、お昼に瑞稀とアリスからの「ハイ=アーン」攻撃を喰らったオレは、午後の散策の途中でふと、足を止めた。
視線の先に、ひと際目を引く真っ赤な鳥居が立っていた。周囲の景色から切り抜いて貼り付けたみたいに鮮やかだ。
その鳥居の額束を見て、昼メシ直後の眠気が吹っ飛んだ。
「厳島神社って……」あれって確か、広島じゃなかったか?
しかし、オレの目の前には、厳島神社が鎮座している。これだから異世界ってやつぁよぉ……
「マスター、魔法少女反応です」唐突に反応するアリス。
「なにっ?! それはどこから――」オレは瑞稀と紫苑をチラ見してからアリスへと視線を戻す。
「この二人です、とか、言うんじゃないだろうな?」
「ち、違いますっ!」
ぷう、と頬を膨らますアリス。うん、可愛い。
「反応はこの先からです」アリスはスッと指を差す。
反応はどうやら、神社の境内の中のようだった。
「ここから先、二人は遠慮してくれ」
「えっ、どうして?」
驚いて言い返した瑞稀の肩に、紫苑の手が乗せられた。
「行こう」
「なんで? 私も手伝うよ」
オレの腕をギュッと掴み、頑なに離れようとしない瑞稀。その腕を解き、オレは瑞稀を見つめる。
「浩司?」
「ごめんな。同僚が封印されるさまは気分がいいもんじゃないから、ここで少し待っててくれ」
「でも、大人数で行った方が安全でしょ?」瑞稀の言葉にオレは首を横に振る。
「それじゃあ、警戒されて逃げられるだけだ」この広いキョウトゥの街の探索が、初めからやり直しになってしまう。
不満そうな顔をする瑞稀。
「大丈夫。オレにはコイツがある」オレはポケットの中にあるマジスマホを服の上からポンと叩いた。
「それに、アリスもいる」
「はい。マスターをお守りするのが私の役目ですから」胸に手を当ててアリスは言う。
それでもなお、瑞稀は不満そうな顔をしていたが、やがて渋々と頷いた。
「……わかった。ちゃんと戻ってくる?」
「約束しよう」
「ぜったい! 絶対だからね」
「もちろん。紫苑、頼む」
「ああ」紫苑はそう頷くと、瑞稀の肩に手を回して、瑞稀と共にオレたちに背を向けた。
その紫苑から逃げ出すようにして、瑞稀は小走りでオレに駆け寄る。そして、柔らかい唇がオレの口に触れた。
「……おまじない」言って急に視線をあらぬ方へと向ける瑞稀。唇に残った感触に、オレの思考が一瞬止まる。
「あ。あの、えっと……」しどろもどろになりながら、瑞稀は近くのお店に指を差した。
「あ、あそこのお店で待ってるから!」
耳まで真っ赤にしながら、その店に向かって駆けていく。
瑞稀と紫苑。二人が店の中に消えるまで見送ってアリスへと向き直ると、アリスは拳を作り、自分の胸に当てて呆けていた。
「どうした、アリス?」
「あ。い、いえ。なんでもありません」
一瞬、アリスの顔に影が差したような気がしたが、振る舞う笑顔はいつものもの。気のせいかね。
☆ ☆ ☆
紅に染まる鮮やかな鳥居をくぐり、石畳の参道をオレとアリスで進んでいく。参道の両脇には孟宗竹が生い茂り、空を覆い隠している。
まるで異世界にでも迷い込んだかのような錯覚を覚えたが、そういやここって異世界だったわ、と我に返った。
やがて一対の石像が姿を現す。神社って普通は狛犬が置かれているところが多いが、ここでは狐様が置かれていた。
動く石像が置かれてなかったことに、少し残念気味の自分がいた。
「どこだ?」
「えっと、あの方です」アリスがスッと指差した先には、一人の女性が立っていた。
腰にまで届く長い黒髪を一本の三つ編みにまとめ、その佇まいは清楚で神秘的に見える。
白い小袖。赤い袴を着て、竹箒を左手に持ち、右手ではてちてちとスマホを操作していた。
「――あの」
「はいっ」
オレが声をかけると、彼女は弾かれたように振り向き、袖や黒髪が宙を舞う。
「なんでしょうか?」
「ちょっと、お聞きしたいことがあるんですけど」そう言うと彼女は手の平をオレに向けて突き出した。
「申し訳ありません。私、ここの従業員じゃないので」……は? 巫女服着て竹箒持っているのにか。
「いえ、別に観光場所を聞きたいわけじゃなくて」
「では、どのようなご用件――はっ!」閃いた時によく出る、稲妻が落ちた時みたいなリアクションを取る巫女(偽)さん。
「――ナンパ。ですか?」女連れでナンパするやつがどこにいる。
「いや、そうじゃなくて」
「私たちは委員会の使いです」アリスはずいっと一歩前へ出て、巫女(偽)さんに、ズバリと言い放つ。
ちょ、アリスさん?!
オレたちが何を目的にやって来たのか。それがわかった巫女(偽)さんは、まるで蝋人形のように表情どころか動きまでピシッと固まった。
巫女(偽)さんは無表情のままで、くるうりと方向転換して地面にしゃがみ込む。
――ん? 地面に手をついて、足を伸ばして、尻を浮かせて――
「あっ」
逃げた。ものすごい勢いで。しかもクラウチングスタートで。脱兎のごとく逃げてった。
オレはそれを唖然と見ているだけだった。
「まっ、マスター。逃げられちゃいます!」
「はっ!」
オレたちは慌てて追いかける。このまま逃げられるんじゃないかと、内心焦っていた。だけど――
……あれ? だんだん動きが――
オレたちが追いつく頃には、巫女(偽)さんはゼーゼーいいながら、壁に寄りかかっていた。
「み……」み?
「巫女服重すぎる……」何やってんだこいつぁよ。
「観念してください」ずいっと一歩前へ出るアリス。こっちもこっちで一体どうしたというんだ。
「こうなったら仕方がないっ。全員まとめて始末してやるっ!」――それ、悪役のセリフだかんな。
巫女(偽)さんは自分の懐に手を突っ込み、「あれ? あれ?」とか言いながら、何かを探している。
オレはポケットからマジスマホを取り出して、巫女(偽)さんへと向けた。
「きゃああっ! なにすんのよっ!」
「なにもなにも、時間かかりそうだなって思って」
「変身が終わるまで待つのがセオリーでしょっ!?」異世界でもそんなセオリーあるんだ。
「わかった、わかった。待ってるからさっさと変身してくれ」
「なによその上から目線。いいわ、待ってなさいよ! 変身してけちょんけちょんにするんだから!」今日日聞かねぇな、そんな言葉。
「まったくもう。最近の若い人はジョーシキっていうものを知らないんだから……」
キレ気味で懐からコンパクトを取り出した巫女(偽)さんはそれを開いた。……あれ? 変身アイテムなんて、必要あったっけ?
「覚悟なさいっ、悪の手先ども! この私、小清水雪菜が、イツクシマ神社の名にかけて、成敗してあげるっ!」勝手に神社の名前賭けんじゃねぇ! 他人だろうがお前はよ!
「桂の水面、月渡り――」
「お?」おおっ! セリフ付き変身か!
「――五山に輝く紅の文字。二条の天守で――」
オレが今も……けふんけふん。昔見たアニメの魔法少女もセリフを言いながら変身してたっけな。
「稲穂の赤門潜り抜け、蓮の華を――」
――ん? 長くないか?
「――比叡の紅葉仰ぎ見て、清水の音羽で想いを清め――」
……まさかとは思うが、
「舞台の袖からダイビングッ!」
オレは雪菜にツカツカと歩み寄り、その頭を引っ叩いた。
「いひゃいっ! なにすんのよ!」
「なげぇんだよ! それになんだダイビングッ! って、だんだんいい加減になってるじゃねーか!」
「悪者は文句を言わずに待ってればいいのよ! 桂の水面、比叡の紅葉――」さっきとセリフが違うじゃねーか。
オレは手に持ったマジスマホを雪菜にかざすと、雪菜の体は光の粒子となって吸い込まれ始める。雪菜は慌てて距離をとった。
「だから、やめなさいって言ってるでしょ!?」
「どうせピカッと光って終わりだろ?」オレのその一言で、唱えようとした変身の呪文だか観光案内だかを止めた。
「そ、そんなことないもんっ! 見える人には見えるんだから!」
「誰だよそいつぁよ!」
「えっと、視聴者さんとか?」
顔を真っ赤にして、左右の指先を合わせながら雪菜は言う。……頭痛くなってきた。
「それじゃあ、見せてみろ」
「……へ?」
「オレが最後まで見ててやる。だから、お前のあられもない姿を見せてみろ」
そう言い放つと、雪菜は自分を抱きしめた。
「い、嫌よ! なんでガン見している奴の目の前でやらなきゃいけないのよ! この変態! スケベ!」
かっちーん。
ムカついたオレはマジスマホを雪菜へと向ける。
「やめて! 吸わないでよっ!」
そんな抗議に耳を貸さず、構わずかざし続けるオレ。
「あんっ! ダメッ! そんなとこ吸わないでっ!」
オレをスケベ呼ばわりした罪。その体で贖ってもらおうか。
「ホレホレ。早く見せないと大変なことになるぞ」
「い、嫌よ! あっ! や、やめて! アアンッ!」
こうして小清水雪菜は光の粒子となってマジスマホに吸われたのだった。四人目の魔法少女、捕獲完了。




