〜聖女意思疎通大作戦⑨〜
アリス様はお髪とお化粧を直すとのことで、お部屋に戻られた。
母上が来るまでお茶にしましょうとダリキスに案内されたのは夕焼け沈むサンルームだった。王城のサンルームとは違いガラスは透明で太陽の光を取り入れるようになっている。ガラスの向こうには湖だろうか、水面に太陽が沈んでいく様子が見える。
「綺麗…」
「こちらから見えるのはウェーズ湖です。ウェールズの要となる貯水池であり、マヤ様のお好きな魚が取れるのもこの湖になります。水のなかったこの地に人が住めるようにと、建国誌に出てくる初代聖女様がお作りになったのがウェーズ湖、そこから我が家の家名も来てるのですよ」
ジェラード様が丁寧に説明してくださる。
「お魚…人口の湖にどうやって…?」
「初代聖女様が魚がないなんて耐えられない!お刺身食べたい!お寿司食べたい!と言いながら隣の領のマーナードより運んで来たとの伝説が残ってます。マーナードには5本ほど河川が流れておりますのでありえない話ではないでしょう」
「なるほど。初代聖女様の食欲に感謝します」
ジェラード様はそれはそれは楽しそうに豪快に笑った。
「マヤ様、父上とずいぶん仲良しですね」
駄犬もといダリキスが非常に不満そうにしているが無視するのが1番だ。
話している間にジュリエッタがお茶を淹れてくれていた。
「ありがとう、ジュリエッタ」
ソファーに腰掛け久しぶりのストレートティーに口をつける。
…王城ではサリーが常にミルクとハチミツを入れてくれてたからね!美味しかったけどお肉にならないか心配だったわ。
王城のものとは香りが違いこちらの方が少し渋いようだ。
「美味しい。お城のお茶とは違うのね」
「王城のお茶はアッサム、ウェールズのものはダージリンです。アッサムがお好みでしたら取り寄せますか?」
ダリキスが目をキラキラさせて聞いてくる。
「どっちも美味しいから大丈夫。ダージリンだからストレートなのね。久しぶりの味にホッとしたわ」
「それはようございました」
ジュリエッタが妖艶に微笑み、駄犬はなぜか残念そうにしている。藪蛇なので絶対に触れないでおこう。
そうしてるうちに日が沈み、湖には光の玉が浮き始めた。
「うむ。そろそろ晩餐会の時間ですな」
「お待たせしましたわー」
オーロラを纏った銀髪の妖精が現れたところで
「エスコートします」とダリキスに手を取られた。
あまりにも自然だったから、つい受け入れてしまった。
しまったと思ったときには手はぎゅっと握られて離せない。
…これは心臓に悪い。光の玉を数えよう。
ひとーつ、ふたーつ、みーっつ…
「マヤ様、主役がそんなぼーっとした顔してたら侮られますよ。しっかりしてください!」
ジュリエッタに叱責され現実世界へと戻ってきた私は、ダリキスにエスコートされパーティー会場へと足を踏み入れたのだった。




