第10話
腕に収まったまま逃げだそうとしない秋穂に古賀は人知れず微笑む。
先ほどまでは女性ばかりだった視線に男性のそれが多く混じる。そのことに優越感を感じている自分もどうかしていると思うのだが、秋穂が腕の中にいるというだけで、そんなことどうでもいいと思ってしまう。
重傷だな・・・
突然、秋穂の体がこわばった。
視線を追うと、こちらを一人の男が見ていた。
正確には、秋穂を抱く俺をにらみつけているという表現が正しいだろう。
その反応から、昨夜、秋穂が実力行使されかけた上司があの男であることが分かる。大丈夫だ、というように抱き上げている腕に力を入れる。
それが伝わったのか、秋穂の体からこわばりがとれた。
そのことを確認し、古賀が男に鋭い視線を向けると男は視線をそらし、どこかへ行ってしまった。
「・・・」
会社を出ると、車で待っていた霧斗が信じられないものを見たかのような視線をして俺たちを見てきた。
「ちょっと、荷物・・・」
車に乗せると、放心状態から脱した秋穂はそう言って車を降りようとしたが、それを古賀が許すはずもなく、膝の上にのせ腰に手を回す。
「あとで、届けさせるから心配するな」
バックミラー越しに、あきれかえった顔をした霧斗と目があったが、ため息をつくと車を発進させた。
「何なのよ・・・」
「・・・」
「あんた一体私をどうしたいわけ?朝置いていったこと根にもってんの?」
「本当に分からないのか」
「わかんないわよ」
そういう秋穂は泣いていて、それが嘘である事が分かる。
「いいかげん諦めろ」
「・・・何を」
「俺から逃げようとすることを、自分を偽ることをだ」
「・・・」
自覚しているであろう秋穂は、俺の言葉にすぐに黙った。
「お人好しなとことも、自分に自信がないことも、過去にとらわれて身動きできないでいることも、俺は、全部知ってる。それを踏まえた上で俺にとってお前は最高の女だよ」
きっと、回りくどい言い方では秋穂には届かない。
だから・・・
「好きだよ」
大きく目を見開いた秋穂の瞳から、また、ぽろぽろと涙が零れる。
「好きだよ、秋穂」
「・・・」
そっと、頬を濡らす涙を拭ってやる。
「・・・好き」
ぽそりと呟かれた言葉に体が震えた。
そのまま、秋穂を抱きしめると抱きしめ返してくれる細い腕に愛おしさと自分のものだという思いが募る。
顔を近づけても逃げないのを良いことに、そっと秋穂の唇に口付ける。
「これからは、ちゃんと名前呼ぶように」
「古賀さん?」
不思議そうな顔をし俺の名を呼ぶ秋穂に
「秋穂も近いうちに古賀になるんだから」
というと、しばらくきょとん、とした後、意味が分かったのか真っ赤になった。
それだけで満たされる。
やっと、やっと、手に入れた、俺の大切な宝物。
古賀視点これにて完結です。
そんなに長くならない予定だったのに気づけば11話目・・・おかしいな???
しかも、後日談が後何話か続きます。
おいおい、って感じですが、引き続き読んでいただけると嬉しいです。




