第1話:『18歳の誕生日、国からの重い手紙』
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本作を見つけていただき、本当にありがとうございます。
本作は、ダンジョンが出現し男女出産比率1:9となった世界で父親と息子がダンジョンへ逃亡するコメディです。
★【一挙投稿スケジュールのお知らせ】★
全28話構成となっています。
本日から3日間で完結まで投稿いたします。
日曜夜には一気に最後までお読みいただけますので、ぜひお付き合いいただけますと幸いです!
まずは第一話、どうぞお楽しみください!
「あら、央太。本当に見違えるほど立派になって。……今日から、あなたが我が国の『国宝』なのね」
鏡の前で、実母である志乃が僕の襟元を優しく整えながら、うっとりとした、けれどどこか逃れられない重圧を孕んだ笑みを浮かべた。
鏡の中に映るのは、丁寧にしつらえられた白とエメラルドグリーンを基調とした最高級の礼服。そして、志乃からそっくりそのまま受け継いだ、サラサラと輝くハニーブロンドの髪と、澄み渡ったエメラルドグリーンの瞳。
母親たちによる徹底的なスキンケア教育のおかげで、僕の肌には傷一つなく、我ながら「カゴの中の愛玩動物」にふさわしい、完璧に整えられた美少年の姿がそこにあった。
2051年。
世界は、25年前に突如発生したダンジョンとその副作用『出生比率ショック』によって、生まれてくる子供の9割が女の子という、圧倒的な女系社会に移行していた。
男として生まれてくる確率はわずか10分の1。
そのため、僕たち若い男性は、ただ生きているだけで国家最高レベルの「保護対象」であり、同時に「共有される公共資源」として扱われる。
「お母様、お褒めいただき光栄です。ですが……少々、この服は肩が凝りますね」
僕は志乃に叩き込まれた、完璧に上品で気品ある標準語で微笑みかける。
志乃は満足そうに頷いた。彼女の眩いばかりのハニーブロンドのハーフアップが、優雅に揺れる。その美貌は37歳という年齢を一切感じさせない。しかし、その手には彼女の髪色と調和する黄金の結晶スタッフが握られており、そこから放たれるAランク魔導士としての魔圧は、僕の背筋を冷たく凍らせる。
その時、リビングのインターホンが厳かに鳴り響いた。
やってきたのは、黒いスーツに身を包んだ、いかにも「政府の役人」といった風貌の女性二人。彼女たちは恭しく一礼すると、純金製の上品なアタッシュケースから、一枚のカードを取り出した。
「波多野央太様。本日、18歳の成人を迎えられましたことを、政府を代表してお祝い申し上げます。こちらが、あなた様の『ゴールド生殖カード』でございます」
それは、鈍い黄金の輝きを放つ、僕の身分証明書。
これを受け取った瞬間から、僕は法的に「生殖義務を負う成人男性」として登録され、毎月の精子提供義務と、一夫多妻(複数婚)の権利が解禁される。
「……確かに、受け取りました。ありがとうございます」
お礼を言いながら受け取る僕の手は、かすかに震えていた。
役人たちが去ったのとほぼ同時に、僕のスマートフォンが、これまでに聞いたことのない、おぞましいほど軽快な電子音を鳴らした。
――ピコーン♪
画面を見ると、国営生殖アプリからの通知がデカデカと表示されている。
【生殖センターよりお知らせ:波多野央太様。初回精子提出期限まで、残り『48時間』です。良質な検体採取のため、今夜は高タンパク・低脂質の食事を摂取し、21時までの就寝を強く推奨します】
「うわぁ……始まった……」
僕が呆然とスマートフォンを見つめていると、リビングの隅、普段は「犬のクッション」が置かれているはずのスペースから、気の抜けた声が聞こえてきた。
「おぉ〜、央太! ついにお前も大人の男の仲間入りやな! 景気良く精子絞り出してこんかい!」
缶ビールを片手に、無作法にあぐらをかいて座っている男。
ボロボロの黒いレザーコートを羽織り、無精髭をうっすらと生やしたワイルドなイケメン。後ろでラフに結んだ黒髪。37歳にしてギルドにその名を轟かせる、最強の大剣使い――そして、僕の父親である健吾だ。
健吾はコテコテの関西弁でニヤニヤと笑いながら、僕にビール缶を掲げてみせる。
「パパ、何言うてんねん! 殺されるでホンマ……!」
僕は思わず、幼少期にパパからこっそり移された関西弁で小声のツッコミを入れてしまう。
案の定、僕の背後に立つ志乃の周囲で、バチバチと恐ろしい音を立てて空間が歪み始めた。
「……健吾。央太の聖なる成人の日に、なんて下品な言葉をかけるのかしら」
「ひっ、志乃!? 冗談や、ちょっとしたスキンシップ――」
「床がお似合いよ。沈みなさい」
志乃が黄金のスタッフを軽く地面に突いた瞬間、健吾の足元の床が、超重力魔法によって文字通り凹んだ。
「ぎゃあああ! 重い重い重い!」と悲鳴を上げながら、健吾はリビングのフローリングに、顔がぴったり埋まる形で這いつくばらされる。
「お母様、本日も大変お美しい重力魔法ですね」
僕は背筋をピンと伸ばし、完璧な標準語で微笑む。
(本音:パパ、なんで床に埋まってんのに、まだビール缶だけは死守しとるんや……。この家、ほんまに魔境やわ)
僕の18歳の誕生日は、こうして、国家の重い義務と、家庭内の圧倒的な暴力によって、賑やかに(?)幕を開けたのだった。




