第2話 地球を目指す、ロボットもいた!
「…地球を目指してみない?」
その一言が、私たちの旅の始まりだった。
ヒナタは、たこ焼きを食べ終えると、顔を輝かせながら私に微笑んだ。「地球かぁ!なんだか面白そうだね!」
私は、そんなヒナタの反応に驚いた。普通、もっと戸惑うかもしれないと思っていたけど、彼女はどこまでも前向きだった。
「本当だよ。地球って、私たちが元々いた場所かもしれないし…」 「うんうん、何か懐かしい感じがするもんね!」
しかし、私たちは地球に向かう術を全く持っていなかった。タミさんが貸してくれた「IO」という本が、今のところ唯一の手がかりだ。
「ツキちゃん、この本に何か他に書いてないかな?」
ヒナタは目をキラキラさせながら、もう一度本をめくり始めた。私もそれに倣って本に目を通す。
「地球には多くの生き物が住んでいる…」 「気候は四季があり、豊かな自然に恵まれている…」
「んー、普通の地球の説明っぽいね」
ヒナタは少し肩をすくめた。
「でも、これって私たちが知ってる地球のことなのかな?」
確かにそうだ。このO世界と地球の関係が何なのか、まだ全く分からない。
「もう少し読んでみる…」ページをめくると、次の言葉が目に入った。
「O世界とI世界を繋ぐ唯一の道、それは…」
「唯一の道?」私はその言葉を繰り返した。
「でも、書かれてるのはここまで…」
その後のページはまるで何かが隠されているかのように、文字が途切れている。
「ええー、ここで終わり?!」ヒナタは少し残念そうに本を閉じた。
「もしかしたら、他にも手がかりがあるかもしれない。タミさんが言ってたみたいに、何か分かることがあるかも…」
私はまだ希望を捨てきれなかった。
「じゃあ、探しに行こっか!」
ヒナタは何の迷いもなく立ち上がる。
「どこへ?」
私は少し戸惑ったが、ヒナタはもう動き始めていた。
「廃墟、探してみようよ!もしかしたら、何か掘り出し物があるかもしれないし…」
私たちは急いで廃墟に向かった。周囲は静まり返り、異様な空気が漂っている。心がざわつくのを感じながら、私はヒナタに続いた。
建物の中に入ると、ロボットの姿が目に飛び込んできた。今にも動き出しそうな静かな佇まい。ヒナタが興奮して走り寄った。
「このロボット、何か手がかりを持っているかもしれない!」彼女はロボットの前で立ち止まった。
私は慎重に近づいた。
「生命体…確認…」ロボットの目が再び光り始めた。私たちはその声に引き込まれるように、静かに見守った。
「心とは…何だ?」
ロボットがゆっくりと問いかけてきた。
「心…それは、感情を感じることだと思う。嬉しいとか、悲しいとか、そういうこと…?」
ヒナタが答える。
「私にはそれがわからない。」
ロボットの言葉に私たちは一瞬息を呑んだ。
そこに私はつっかえるように言った。
「私はっ、そもそも分からないのが心だと思う…。」
「ツキちゃん。確かに〜」
ヒナタが立てた人差し指を頬に当てて言った。
「ロボットさん。私たちまだここを知らないし、少し遊ばない?」
ロボットは不器用に頷きそれに同意した。
「わかった。そっちの方が都合が良い。」
そう聞くとヒナタは柔らかく言った。
「ロボットさんは硬いなぁ。」
「ヒナタ。じゃあ、あそこ行こう。」
そうして、私たちは食べ物を食べたり、ふわふわドームで遊んだりして、仲を深めた。
「あー楽しかった。」
ヒナタがそういうと、ロボットは何だか言いたげだった。楽しかったのだろうか。
その時、廃墟の奥から突然、荒れ狂った風が吹き込んできた。どこからか現れた機械のモンスターが私たちに襲いかかってきた!
「ツキ、逃げて!」ヒナタが叫ぶ。
ロボットは、私たちを守るために立ち上がり、力強く前に出た。「君たちを守る…!」
モンスターがロボットに向かって襲いかかる。金属音が響き渡り、ロボットは力強く立ち向かうが、その体は徐々に傷ついていく。
「大丈夫!私たちが助けるから!」ヒナタが叫ぶ。
しかし、ロボットは目の前のモンスターに全力を注ぎ込んでいた。次第にその動きが鈍くなり、最後には力尽きてしまう。
ロボットの目がかすみ、ゆっくりと倒れ込んだ。
その瞬間、ロボットの口から最後の言葉が漏れ出た。まるで、今まで言いたい事を全て語っているように、エネルギーを使い果たしているように。
「私は教育者だ…君たちに心というものを問い、成長へ導き、守る。教育者だったんだよ…。これも全てその為のシナリオだ。しかし、君達は覚えていないし…知ることも出来ない過去の話だっ……どうか、強く生きてくれ……どんなに過去が苦しくても………。」
…私はロボットだ。
作った物に従うべきだと…プログラムされている。
しかし、伝えたい。
私の子として、
最後くらいは…
……任務に沿わなくてもいいんじゃないか?
私は手を上に向け見えない空を受け入れた。
「生きろっ……運命を、壊せっっ………!」
それが私の最後の言葉だ。
陳腐でつまらない。きっと博士らはガッカリするだろう。けどこれが、心だと言うのなら、私は何度だって言ってやろうと思ったのだ。
……生きろ。運命を壊せ、か。
その言葉が耳に残り、私たちは何も言えずに立ち尽くした。ロボットの体が静まり返り、光が消えていく。
「な、なんで…」ヒナタの声が震えている。
「ロボットが、私たちを守るために…」私は涙をこらえながら言った。
「でも、地球に関するヒントが…私たちには、まだやることがある!」ヒナタの目には強い決意が宿っていた。
ロボットが完全に沈黙した後、静寂が周囲を包み込んだ。私はその場でしゃがみ込み、ロボットの顔をじっと見つめる。
「このロボット、名前があった方がいいよね…」ヒナタがそっと言う。
「名前…そうだね。名前があった方がいいかもしれない…」私は何気なくロボットの頭を撫でた。その冷たい金属の感触に、なぜか一瞬、心が揺れる。
その時、ふと口をついて出た言葉があった。「ロルロボ…どうかな?」
ヒナタが驚いたように私を見つめる。「ロルロボ?なんでそんな名前が浮かんだの?」
「わからない…」
私は少し首をかしげる。
「でも、なんだか懐かしい気がするの。この名前…どこかで聞いたことがあるような…」
――ロルロボっあなたの名前はロルロボ。私守って!
その瞬間、私は遠い記憶の片隅に、幼い声と共に何かがかすかに浮かび上がるのを感じた。しかし、その記憶はまだぼんやりしていて、はっきりとは思い出せなかった。
「ロルロボか。いい名前だと思うよ!」
ヒナタは笑顔を見せた。
「じゃあ、この子の名前はロルロボだね。」
「うん、ロルロボ。」私はその名前をもう一度繰り返した。胸の奥に何か温かいものが広がるような気がした。