第1話 地球目指しますかい
「う〜…」
視界が歪む。
「目…覚めた?」
女の子の声だ。
「わ、私!ヒナタって言うらしい!君の名前は?」
「なまえ……?」
ヒナタ。凄く元気で可愛い女の子だなと思った。見た感じ私と同じ高校生と言った所か。
金髪で髪の毛は長くて、なぜだか白衣を着ている。
「名前だよっ。な・ま・え。」
そこでやっと名前というのを思い出した。
「ツ、ツキ…?」
と言っても、名前以外の自分の事をイマイチ多く思い出せなかったのだ。
「ツキちゃん!髪の毛は青くて短くて、なんだか大人っぽいというか、かっこいいというかっ。」
「…あっありがっ!?」
その時、ヒナタがめいっぱい両手を広げて、抱きしめてきた。
「これからよろしくねぇ〜。ツキちゃん!」
「だ、大丈夫だよ!それよりさ…どこ?ここ。」
私達は白い部屋にいた。
白い壁に白い床、そしてひとつのドア。
殺風景で気味が悪かった。
「ん〜。ここはねぇ…分かんない!」
私は疑問に思った。
普通に考えてこの状況は不可解なのではないかと。
「ちょっ、ちょっとごめんね…。」
私は恐る恐るヒナタの腕を避けて、ドアノブに手を伸ばした。
ガチャッ
耳に馴染んでいる金属音。
その時、ドアの向こうの部屋が変形した。
「わっ、わぁっ!!」
部屋の向こうが、パタパタと形を変えて、元々あった研究室のような場所が、細い滑り台へと豹変した。
「ひ、ヒナタ…行ってみる?」
少し、気持ちが上がっていたのだろう。
何も考えず、私たちは螺旋状に下って行った。
「わぁ〜!なんかやってるよ!」
「ほ、本当だね!なんだろう…。」
私たちが滑り台を下った先には、
なにやら大きな会場でライブをしている様子だ。
「ツキちゃん!なんか綺麗な女の子が歌ってるよ!」
会場は大盛り上がり。
ステージには、ザ歌姫な風貌の、女の子が歌っている。
大きな液晶にマニ、と書かれている。
「あの子、マニって言うんだって。」
照明が七色に光って、色で照らす。
しかし会場には、あまり身に覚えにない生き物ばかりで、少々目を疑った。
「な、何あれ…?カエル?トカゲ?」
「なんだっていいじゃ〜んツキちゃん!早く行こ!!」
とヒナタが急かした位で、螺旋状の滑り台がガラリと形を変えた。
「お、落ちるぅ!!」
私はいきなり形を変えた滑り台に疑問を持つ暇もなくただヒナタにしがみついた。
「ツ、ツキちゃ、わあああ!!」
滑り台がトランポリンになってこちらを待っている。
「ヒナタちゃん!あそこ!」
私はヒナタちゃんと手を繋いで、トランポリンを目掛けて落ちていった。
「わ、わああああ!」
二人ともそう声をあげた後、トランポリンの反発に助けられた。
そしてステージ会場の端へと到着しひとつ。
「ツ、ツキちゃん!凄かったね!!」
「す、凄かった!!」
私たちは楽しかった。
「ひ、ヒナタちゃん!あっち行ってみない?」
私は、青やピンクの傾向で照らされた通路を指さした。
食べ物の絵が書いてある看板に釣られたのだ。
少し、状況も整理したかったというのもあったのだが。
「わぁ〜綺麗!いっぱい部屋があるね!」
ヒナタは手を大きく広げた。
ここは色んな施設が揃っているみたいだ。
「……ごちゃごちゃしてるなぁ…。」
そう考えた時、ちょっと、ちょっとだけ、既視感を覚えた。
「ツキ!ここのお店いいんじゃない?!」
そうヒナタが指を指した先には、のれんにたこ焼きの絵が描かれているお店だった。
「たこ焼き…良いかも。行こう。」
私たちはのれんを左手で避けてドアを開けた。
ガラガラガラ
「わっ…」
むさ苦しい熱気。日と書かれた提灯が扇風機の風で揺れている。
壁には、先程ライブで歌っていた歌手のポスターが、ホコリに染みながら張り付いている。
ちっちゃい顔と青い髪、私たちよりも幼そうな体で、可愛らしかった。
ここのオーナーだろうか。
「わ〜!!凄い!!てんちょ〜さん!たこ焼きたこ焼き!!」
ヒナタは元気よくカウンターの席へと駆け込んで行った。
それに合わせて私もカウンターへと座った。
「たこ焼きね。2つでいい?」
ほっと一息と言ったところか。しかしこれからが本題だ。
「ねぇヒナタ…記憶って、あったりする?」
「ん〜とね。無い!」
やはり、と思った。
私たちはカウンターの席で足をあましながら、自分達がここに居るということへの疑問を問いただしていった。
「後さ、ここ、私たちがいた場所じゃない気がする…。ここだけという訳じゃなくて…この世界。」
私たちの世界とは、どこか似ているが、何処かが大きく違う。
「それは私も…。けど何も思い出せないんだよ。」
どちらも記憶喪失と言った所か。しかしどちらも限定的な記憶だけが思い出せない。
オーナーがたこ焼きを持ってきた。
「君たち、そうか。うん。この本を読むと良い。少しは分かるはずだよ。」
はにかみながら、たこ焼きと一緒に、本を静かに私たちの前へ置いた。
しかし、見た目に比べて、言動が大人っぽいなと思った。
「てんちょーさん!ありがとう!!」
「ありがとうございます…。」
本。
「…IO。」
題名だけじゃなにも分からないな。
古いように見えるけど、どこのページも破けてない。
著者は…ハイアントって言うんだ。
そしてページを捲ってみた。
「…この世界には、地球がある。この地球には豊かな生命体が住んでおり…」
と途中まで読んだところで一旦本を閉じた。
地球…地球か!
「ヒナタ!私たち地球にいた!!」
なんだか謎のひとつ解けた気になって気分が上がってしまった。
ヒナタは私の声で驚いた様子を見せながらこう答えた。
「…そ、そうなの?」
扇風機は空気に合わせては風を緩めてはくれなかった。
あれ、アテが外れたか、と思ったが間違ってはいないはず。
じゃあここは?とも思ったが、ヒナタはいまいちピンと来ていないようすだ。
もしかして、
「日本って分かる?」
「日本…?」
もしかして、ヒナタは私よりも記憶がない?
多分、私が地球にいた記憶がかすかにしか思い出せないのに対し、ヒナタはもっと思い出せないのだ。
「へぇ〜日本。」
記憶のムラ、これは考えても関係ない話かもしれないが、気になってしまう。
「その本は持ってっていいよ。」
オーナーさんがはにかみながらそう言った。
「あ、ありがとうございます!お名前は…?」
「タミ、だよ。困った時はここへおいで。私の場所は客が居ないからね。」
いい人だな、と思った。
「ツキ!た、たこ焼きってこんなに熱いの!?」
ヒナタは口にたこ焼きを頬張りながら、困っている。
「ヒナタは欲張り過ぎ。」
「むぅ〜。」
にしてもこの本、見る価値は十分ある。
それに、私たちの故郷が地球だとして、こっちの世界に来れたということは、逆に戻れる方法があるのでは無いか?
「ツキ、あ〜ん。」
「あっちょっ、んっ。」
久々に食べ物を食べた気がする。
「ひ、ヒナタ、熱いよこれぇ〜!」
急いでたこ焼きを食べたあと、私は心を決めた。
「…ヒナタ。地球、目指してみない?」
そうして始まるのが、私たちが生きる物語。
IO。




