表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/17

第十六話 〈裏〉鬼娘の予言

 ここはどこ? ……私って誰だっけ?

 随分と頭がぼんやりしている。懐かしい、硬くて冷たい床。


「ああ、そうか……」


 ゴミだらけで酷い汚臭。錆びたトタンの仕切りだけだから見える曇天の空。

 ここは家だ。やっと、わかった。ひどい空腹で、なにもわからなかったんだ。


 足音が聞こえる。

 ()()()()だ。兄ちゃんが帰ってきたんだ。


「カレン、今帰ったぞ。ほら、食えよ」


 ぼさぼさの長い赤髪にあちこち傷だらけの兄ちゃんがくれたのは、カビた半切れの黒パン。お金持ちのお家のゴミから漁ってきたのだろうか。


「兄ちゃんは? 兄ちゃんの分は?」

「俺はもうその半分を食った」


 嘘だ。兄ちゃんは、こんな綺麗に切れるナイフなんて持ってない。

 戦うときでさえ、いつもパイプを使っているもの。


「雨、降るかな?」

「……いいから食っちまえ。んで、さっさと寝ろ」

 

 病気が悪化するだろ……と兄ちゃんは言う。

 もそもそと食べていると、兄ちゃんのお腹が鳴った。大きな音だった。


「っつ!」

「これ……!」


 思わず食べかけのパンを差し出すけれど、兄ちゃんは私の手を払って勢いよく出て行こうとする。


「いいからっ! 俺はもう行く!」

「にいちゃっ……ケホッ、ケホッケホッ」


 うまく声が出ない。咳のせいだ。

 こんな生活が、一生続くのだろうか。

 ううん。そんなこと、絶対ない。


「兄ちゃん……、私、わかる。きっと、もうすぐ出られるから」

「は?」

「もうすぐ、出られるよ」

「ハッ! 甘いこと言うのも大概にしろよ」


 鼻で笑って、兄ちゃんは行ってしまった。

 ここは、クリソベリル王国のスラム。通称、孤児のゴミ箱。

 


 ふと、目が覚めた。


「ここは……」


 不思議な匂いのせいで記憶が曖昧だ。

 なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。

 私はカレン。クリソベリル王国五大幹部で、隠密部隊の隊長だ。うん。大丈夫、思い出せた。


「確か、マホガニー連邦国に潜入してた......はず」


 自分の周りを見ると、鉄格子、不思議な匂いのするお香、頑丈な手錠と鎖。

 どうやら捕まっているようだ。


「ふんっ!」


 力を込めても……いや、力が入らない!?

 この手錠……、もしかして。


「あーあ。ごめんなさい、魔王様、兄ちゃん、みんな。私、やらかしちゃったかも」


 乾いた笑いが牢屋に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ