元お飾り王妃と作戦会議
その後、私たちは再度馬車に乗り込みグレーニング侯爵邸を目指すことになりました。
もちろん馬車は定員オーバーになってしまうので、ゼノさんは別便となります。
今度はトラブルもなくたどり着きますように――という私の願いが届いたのか。無事、グレーニング侯爵邸にたどり着くことができた。
相変わらず路地裏を抜けた先に建っているとは思えないほど、きれいなお屋敷です。
そして、私はシリルさまに案内され、あるお部屋に通されました。応接間とはまた違うシンプルなお部屋。ですが、ところどころに物騒なものがおいてあり、ここが『フランツ』の拠点なのだとすぐに理解できた。
「フライアさまは、どうぞそちらに」
キャロラインさんに言われ、私はソファーに腰を下ろします。
ここのソファーはあまり座り心地がよくありません。なんて思うのは失礼ですね、えぇ。
座った私は周囲を見渡す。ここに居るのは先ほどのメンバーとニールさんとナイルさんのみ。ほかの方々は下っ端の相手をするそうです。下っ端という言い方が正しいのかはわかりませんが。
「現状確認。本格的に乗り込むのは俺とシリル、それからサディアスだけになるだろうな」
「それがいいと思います」
真っ先に口を開いたのはゼノさん。彼はソファーにふんぞり返りながら、当然のように言葉を紡ぐ。
――と言いますか、三人で乗り込むなど無謀ではありませんか?
(いいえ、キャロラインさんたちは『情報屋』だというし、戦闘には不向きなのでしょう)
でも、たった三人で大丈夫なのか。不安でいっぱいです。
「キャロライン。それからニールとナイルには嬢の護衛を任せた。一応護身術くらいは使えるみたいだが、それでも貴族のお嬢さまだからな」
「わかりました」
なんだか嫌味な言い方です。けど、真実なので言い返したりはしません。
この中で一番戦えないのは私で間違いないですし。
「不意打ちのほうがいいだろうけど、相手の状況が読めない。となると、まずは準拠点あたりをつぶすかな。ちょっと警戒されちゃうかもしれないけど、そっちのほうがうまく行くだろね。どう、ゼノさん?」
「あぁ? 俺はそんなこと考えねぇよ。いつも通り殴って蹴って勝つ。作戦はサディアスたちの仕事だろ?」
「それはそうだけど、少しくらい頭を使ってほしいよね」
……いや、あの、さすがにゼノさんのそれは無茶なのでは?
そう思ったけど、ほかの人たちはにこにこ笑いながら「いつも通り」という雰囲気。
私だけがついていけていない。かなり寂しいというか、疎外感がすごい。
「今日のところは準拠点で許してやろう。しかし、そこら中に散らばっている面子を集められたら厄介だし、三日以内に決着をつける」
「でしたら、フライアさまもこちらで保護しておいたほうがいいかもしれませんね。狙ってきそうですし」
シリルさまが私を見つめてくる。
確かに危ないことになるでしょう。ただ、だからといってグレーニング侯爵邸に宿泊するというのは……いささか、無謀かと。
私、これでもまだ一応イーノクさまの婚約者でして。醜聞になるようなことは避けなければならないのです。
「お嬢さまなら、世間体とかあるんじゃないの? その点はどうする?」
「うーん、だったら私が保護役になりましょう。女同士なら、まだいいでしょうし」
私を保護する役目に手を挙げてくれたのはキャロラインさんだった。彼女は私に「ね?」と優しく微笑みかけてくる。
うん、グレーニング侯爵邸に泊まるよりはまだいいかも。とりあえず、お父さまにお友だちのおうちに泊まりますと連絡しなくては。怒られるかもしれませんが、それはそれ。今はシンディさまのことを考えなくちゃなりません。
「そっちはキャロラインに任せるとして。それじゃ、『ルート』の準拠点に向かうか。キャロライン、ニール、ナイル。お前たちは嬢の警護だからな。くれぐれも、好き勝手動くことのないように」
「はぁい」
先ほどまで黙っていたニールさんとナイルさんは、気の抜けるような返事をした。
好き勝手動くなって言われる間もなく、動かれた場合私が困るので全力でストップをかけさせていただきます。
私が決意していると、ゼノさんがなにかを私に差し出してくる。なんだろう。視線を落とすと、彼の手の中にあるのは真っ赤な石がはめ込まれたペンダントだった。
「これを持っておけ。……もしかしたら、なにかあるかもしれねぇから」
「……はい」
ゼノさんの言葉にそれだけ返し、私はペンダントを受け取る。
真っ赤な石は、まるで血のようでどこか不気味だ。……ううん、そんなことを考えてはダメ。これはゼノさんが私のために持たせてくれたものだから。
「じゃ、行くか。目標は二時間で終わらせること。……いいな」
「さすがに二時間は無理でも、三時間以内には終わらせたいですよね」
シリルさまのお言葉に、みんなが同意します。抗争が大体どれくらいで終わるのかは、私には見当もつかない。
なので、口を挟むことなく周りの声に耳を傾けていました。
(大丈夫、大丈夫よ。私はきちんと役目を果たせる)
私の役目。それはシンディさまと対峙すること。私はシンディさまへの対策のために呼ばれたのだから。
絶対に役目を果たし、今までの恨みを果たすの。
(やってやろうじゃない。女に二言はないんだから!)
私は立ち上がる。周りの面々の顔を見て、深くうなずき合った。




