連絡先交換
その次の日の朝。
紅谷に教室で僕は話しかけられた。
「あの後家でも作業進めてね、やっと完成したよ。初めてのぬいぐるみ」
「お、よかったな」
「こんな感じなんだけど、どう……?」
紅谷は少し自信なさげに、カバンからぬいぐるみを取り出した。
白くてもふもふの極みの、ゴマフアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみだった。
「す、すげ。可愛いよほんとに」
「よかった嬉しい……!」
紅谷は嬉しそうな笑顔を見せ、自分で作ったゴマフアザラシのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
というわけで、とりあえず、紅谷のぬいぐるみ作り指導は一段落。もちろんまた教えることになってるけど、今後は聞きたいことがあったら適宜訊くスタンスでいくことにした。
そのためにも連絡先を交換した。
女子と連絡先を交換するなんて、まじで珍しいことすぎる。
「ねーねー、丸野っち。連絡先交換しよ!」
「あ、私ともよろしくっ!」
あれ? 珍しいことなんじゃなかったのかよ。
えーと……。
普通に戸惑っていると、
駒原が僕の机にお尻を乗せて言った。
「あのね、妹がめっちゃカピバラのぬいぐるみ気に入っててね、是非作った人と会いたいって言ってね」
「そう! うちの妹も一緒なの! だからみんなで一回遊び行きたいなっ!」
あー、駒原のお尻と太ももが目の前にきたせいであんまり頭に言葉が入って来ませんでしたが……つまりは、駒原と春岬、そしてそれぞれの妹と僕で出かけようって話?
あー、え? それすごいメンバーだね。
「あれ? もしかして忙しい?」
「いや。全然忙しくない。行こう。うん行こう。連絡先も交換しとこうか」
「わーい!」
こうして、僕は女の子二人と連絡先を交換し、そしてさらに遊びにいくことにもなってしまった。
やばい、興奮? 緊張? よくわかんないけど、いつもの状態ではない。
僕は廊下を歩きながらそう自覚していた。
起こっていることが僕にとっていつものことではないので、仕方がないことかもしれない。
そしてその結果、僕は、作りかけのハシビロコウのぬいぐるみを落としたことに、気づかなかったのだ。